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本当の別れ話

もちろん私は啓司を追い出した後、別れた男女のセオリーどうりケータイから彼のデーターを消したのだけれどきっちり頭の中には彼のスマホの番号が刻み込まれていた


思い切って電話をしてみた、一回会って話したいと

そうしたらあっさり啓司は了承した

会う場所は任せると言われたので、私は出会った国会図書館の一階にある古臭い喫茶室を指定した




クリスマスが近いその日、本当に久しぶりに私は国会図書館に行った

地下の永田町のホームから地上に上がる

大きな交差点、道一本渡ればもう左手は国会図書館だ

右手には奥に国会議事堂が見える


ああ、懐かしいな

一時期よくここには通った

このクラッシクで堅い雰囲気が気に入って

本を読むのが目的ではなく、この雰囲気を味わう為に


私はフェンス沿いを建物を眺めながら歩いた

敷地内に入り新館入り口のロッカーにバックを預け、財布とハンカチとスマホだけ透明のピニールに入れて入館する

階段を降りて一階の隅にある喫茶室に入ったら、啓司は先に来ていた

奥の窓際にいた


「美希さん」と私に気づいた啓司が手招きした


啓司…

相変わらず細くて白いな

ふ、肌に近い色の長袖のセーター着ている

もやしみたい


瞬間的になぜか私は少し日に焼けた布津さんのおでこと鼻筋あたりの肌を思い出した


テーブルをはさんで啓司の座っていた席の向かえに座る


「啓司変わんないね、突然呼び出してごめんね」


「彼女に私と会うって言ってきた?」



「はは、あの時の彼女とは別れた」



「え?子供は?」



「…流れちゃった」


「それにほっとしたのに気づかれて上手く行かなくなった」


「そうなんだ」という私の言葉にかぶせるように「でも新しい彼女がてきた」と啓司は言った


おい…

何焦ってるんだ?

まさか私が復縁を迫るとても?

そんなつもりはさらさらないよ

ふん、どいつもこいつも


「啓司、まだここに通ってる?」



「今はあんまり」


「話も書いてないし…9月からガッコー行ってるから」


…小説描いてないんだ


「学校?なんの?」



「医療事務の」


「嫌だけど親の病院手伝う」


「ガッコーで今カノと出会った」


…なんだかんだ言ってモテるな、啓司

お世辞にもイケメンとは言えないんだけど


「もともと怠け者だっだけど美希さんと一緒にいた六年ほど怠けた時期はなかったな」


「美希さん、ありがとね」


「美希さんが甘やかしてくれたから俺一生分怠けられた」


「それとごめんね」


「自己弁護するわけじゃないけど、潮時だったと思う」



「…啓司、私から逃げたかった?」



「美希さんからじゃなくて美希さんに甘えてるダメな自分から逃げ出したかった」



「そうか…よかったね、上手く逃げ出せて」


「でも随分荒業だったね」


「啓司のしたことは到底許せるものじゃないよ?」


「わかってる?自分が何をしたか」


「私すごく傷ついたし悲しかった」


そう言いながら睨みつけたら


「うん、わかってる」


「ごめんなさい」


「…」


「でも、よかった美希さん連絡くれて」


「こうしてちゃんと謝れて」


と言った

その後テーブルの上に百円玉をポンと置いた


「?」



「最初に美希さんと会ったときに交換した百円玉」


「覚えてる?」



「!!」


「驚いた…取ってあったんだ」


私はその百円玉を見てこれは私の心かもしれないなぁと思った

うん、返してもらおう


私が自分の財布から百円玉を取り出し


「ねぇ、この百円玉と交換して?」


と頼んだら啓司は


「ダメ」


と言って慌てて百円玉をお財布にしまった

お財布の小銭入れじゃなく、お守りなんかを入れるチャックのついた小さなポケットに


グッときた

こういうことするから女にモテるんだろうな


私との出会いが啓司にとっても大切だったという意思表明

ふ…


「啓司、そんな殊勝なことしても、あんたの罪は消えないよ」


って言って笑ったら啓司も少し笑った


「私なんかスッキリした、啓司の本音が聞けて」




恨み言を言いたい気持ちもあったけどもういいや


気づいた、私達が共依存てあったことが

きっと啓司をひとり占めしたい私の気持ちが、啓司を甘やかしダメにしていた


なんとなく啓司がモテるの気づいてた

啓司には女の心を捉えるなにかがある


この子に無理やり夢を追いかけさせてたのは私だったのかもしれない

私は啓司をダメな男にして囲っておきたかった


啓司と暮らした六年間の生活苦も自分が選んだ道だった

そして私はそれを啓司に見せつけていた

私はあなたのためにこんなに頑張っているのよと


重かっただろうな

苦しかっただろうな


ごめんね、啓司

いろんな事に気づいてあげられなくて


啓司と暮らした六年は私にとって失われた六年なんかじゃない


冬は暖房費節約しようって言っていつも二人でくっついていた

充分それで暖かかった


夏ても手足が冷たかった冷え性の啓司

私は自分の足に絡んてくる啓司の冷たい足が心地よくて大好きだった


会社で塩おにぎり食べてるとき、啓司もこの喫茶室の隅にある持ち込みコーナーで持たせたおにぎり食べてるかなと思うだけで心が満足した


ささやかな事にいっぱい幸せを感じた日々

みんな三ヶ月で私の許を去って行ったのに啓司だけは六年も一緒にいてくれた


神様から贈られた大切な六年間


啓司、会ってくれてありがとう

こうして冷静に別れ話が出来て気持ちの整理がついた


私は啓司と六年一緒に暮らしてきた自分を許せる

多分これであなたへの恨みも執着も無くなる


だけど啓司

私、啓司が作った完璧なペ○ングカップ焼きそばにだけは未練が残るよ

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