本を読む人
あの女子会以来、なんか若い女の子に懐かれちゃった気がする
懐かれたという程ではないか
普通に話しかけられるようになったと言う方が正しいんだろうな
以前のイメージがあまり良くなかったみたい、私
なんせ、亀女だもんね
特に開発の沢さんがよく声をかけてくる
「私、この仕事するようになってから扁桃腺が腫れるようになって」
「この会社に入るまではあんまり熱とかだしたことなかったのに、高熱出るようになっちゃったんです」
「実験のとき防護マスクはしていますけど完全には防ぎきれてないような気がする」
「…身体壊す前に早く結婚して会社辞めたい」
「合コンしてもろくなレベルの男性来ないし、少しまともな人はみんな曽我部さんに持ってかれちゃうし…」
「もし美希さんがマリッジゲートで相手見つけることができたら私も入ろうと思ってます」
「何か進展があったら教えてくださいね?」
「ね?」
なんて言ってる
確かに沢さんは病欠が多い
マリッジゲートに入会して二ヶ月以上経つけど私は一度も紹介された人やお見合いを申し込まれた人とは会ってはいなかった
面倒くさくて
ごめんね、沢さん、多分いい報告はできない
そしてお母さんごめんなさい
マリッジゲートの入会金もちゃんとお返ししますから、許してね
六月、梅雨寒の日曜日、アパートで遅めのお昼の支度をしているときにスマホに電話がかかってきた
鍋にお湯を沸かしちょうどその中にパスタを投げ入れたときに
「あ、美希さん?マリッジゲートの荻野です」
「今、大丈夫かしら」
何?熱心に活動していないことに文句言われるのかしら
こういう人にも担当している客の成婚率のノルマみたいのがあるのかな、なんて思いながら「大丈夫です」と答える
「美希さん、現れたのよ、本を読む人」
ん?本を読む人なんかそこら中にいるよね
「さっき入会してくださった方なんだけど」
「心理テストで美希さんと同じように本当に相手に求める条件を本を読む人と書いた男性がっ」
へえ…それにしてもなに興奮してるんだろう、この人
「ねえ、美希さん会ってみない、その人に」
「ただその人年下なの、28才」
28才…啓司や嘉一と同い年
「相手の方は、同じ答えを書いた人に会ってみたいって言ってるの」
「どう?」
う…ん、どうしよう
本を、読む人か
鍋の中のパスタを菜箸でかき混ぜながらちょと考える
24万も払ったんだから一度だけ会ってみるか…
「まあ、会ってもいいですけど」
「そう!良かった、美希さん入会してまだ誰にも会ってないでしょ、気になっていたの」
「相手の方の入金を確認次第またご連絡するわね」
「じゃあ、失礼します」
あーよかった
美希さん承知してくれて
普通入ったばかりの人は張り切ってガツガツ活動してくれるんだけど、あの人まるでやる気なかったから
ホントはさっきの人、同じ答えを書いた人に会いたいなんて言ってなっかったんだけど…
ふふ、嘘も方便よね
七月の初めの日曜日、私はマリッジゲートで荻野さんお勧めの人に会うことになった
前もってプロフィールがマリッジゲートのホームページ内の私のアカウントに送られてきたけど…
なんかふつーの人
28才の測量士
初婚
専門学校卒
身長173
一人暮らし
趣味スポーツ観戦
年収350〜400
写真に写ってる姿も特にイケメンでもなく、かと言って不細工でもない
太っても痩せてもいない
髪型も少しすいた前髪垂らして耳を出してるありふれたスタイル
あまりに普通すぎて断る理由を見つけられなかった
まあ、会うって言っちゃったからと渋々訪れたマリッジゲートの応接室でひと目その人を見たとき、あイヤだな、私この人と結婚することになると思った