其の漆拾捌:暑き夏と蘇る惨劇
2か月以上も放置してました……
いや、 もう、 なにやってんだろ俺……
「“じっとぉ〜〜〜〜〜”……」
「……なんだよ、 それ」
「今の状況です……」
「それなら“ジメジメェ〜〜”って方がよくないか? 」
……あ、 ちぃっす。
今回の司会はアタシ、 フィアが務めるぞ。
今日はとても暑い。
アタシたちは1階のリビングでだれている。
凰輝と琥鈴は2階にある自分たちの部屋にいる。
きっと、 クーラーがきいてんだろうなぁ……くそ。
「お〜い、 みんなぁ〜♪」
お、 レナートだ。
手になにかを持ってる。
なに持ってんだ?
「物置漁ったら見つけた〜♪扇風機〜♪」
「レナートナイス! 」
思わず親指を立てるアタシ。
後ろを見れば、 雷華を同じポーズをしていた。
神が悪魔を褒めるのはどうかと思うがな。
「でも……どうするんですか? 」
口を開いたのは、 雷華だ。
雷華の言うとうり、 奇妙なことにリビングにコンセントの類いはない。
……しかし、 アタシにはある“秘策”があった……!
だが、 アタシにはその“秘策”を実行することは不可能……
この“秘策”が出来るのはただ1人……!!
「雷華! 頼んだ!! 」
「……はい? 」
アタシの声に、 雷華は状況を理解してなさそうな声を出した。
まぁ、 説明してないし当然といえば当然か。
「あ〜ビミョ〜」
無事、 アタシの“秘策”は成功したのだが……
まぁ、 このジメジメ……いや、 ムシムシとした空気じゃあムシムシとした風しか来ないよなぁ……
くそ。
「あの〜……」
「確かに少し微妙ですね……」
「うん、 そだね〜……」
「もしも〜し……」
アタシたちは雷華の声を軽く無視して首振り機能付きの扇風機の風を浴びる。
「だぁあぁぁぁあぁあぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁ!! 」
マジギレしながら扇風機のコンセントを放り投げる雷華。
「なんで! 私が! 扇風機の! コンセントの役を! しなくちゃ! いけないんですかぁあぁぁぁあぁあぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁ!! 」
「それは雷華。 お前が“雷神”だからだ」
「納得いきませぇえぇぇえぇぇぇぇえぇぇぇぇぇえぇぇぇえん!! 」
ギャーギャー喚く雷華。
その間、 扇風機は止まっている。
そう、 もう分かっただろう。
アタシの“秘策”とは雷華に電力供給させることだ。
「ムキー! そもそも私が電気を作ってるんですから私にも風を受ける権利は有りますよね!? むしろ私だけ受けるべきですよね!? 」
そう言いながら扇風機に乗っかる雷華。
「あっ! てめぇ! 汚ねぇぞ!! 」
そう言いながらアタシも扇風機に乗っかる。
キーキーと猿みたいに喚きあいながら、 扇風機の取り合いをするアタシたち。
ギシギシと奇妙な音が扇風機からしだす。
「……あの〜……一旦離れt」
スチルの声を聞く前に、 惨劇が起きた。
バキッ! ……という音を立てて、 扇風機が首のところから垂直にへし折れる。
再びその扇風機が動くことは、 なかった。
………………
「……ら・い・か……? 」
「ちょっ! ちが……!! フィアが原因じゃないですか!! 」
「お前がワガママ言うからだろ! 」
「そもそも、 フィアが私に扇風機の役をやらすからじゃ! 」
「先に扇風機に乗ったのお前だろ! 」
“醜い争い”
そう後に言われるようなくそくだらない争いは、 こんなくそくだらない理由で始まったりする。
「“炎弾釘”! 」
「“ホワイトサンダー”! 」
炎の釘と白い雷がぶつかり合う。
広い部屋に未熟だか激しい神力が炸裂する。
第一撃がぶつかり合ったあと、 アタシと雷華は片手に神力を迸らせつつ、 互いを威嚇する。
「……なにしてんだ? 」
いきなり声をかけられ、 アタシたちは思わず神力をそのまま声のする方へぶっぱなす。
パンッという乾いた音が響いくと、 そこには、 凰輝がマジギレしながらアタシたち以上の氣を迸らせる。
「いい度胸だなぁあぁぁぁあぁあぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁ!? 」
『…………ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……』
戦闘態勢から一転。 即土下座するアタシたち。
いや、 だって、 凰輝がマジギレしてんだぜ?
死ぬって死ねるって。
結局、 必死に土下座をしたお陰か、 凰輝は拳骨一発で許してくれた。
……痛かったけどな。
「ふ〜ん……ぶっちゃけどうでもいいことだな」
『……』
いや、 その通りだけどな……
でもこの暑さはどうにかならないのか……
「クーラーつけりゃあいいじゃねぇか」
『…………はい? 』
凰輝のその言葉を理解できないアタシたち。
クーラーなんて、 一階にあったのか? 周りを見渡してもそれらしきものはないけど……
「気づかなかったのか? アレだぞ」
そう言うと凰輝はテーブルの上にあったリモコンを取ると天井にある換気扇らしきものに向けてなにか操作をしだす。
ピッ! という高い音がしたかと思うと換気扇らしきものから冷気が降り注ぐ。
『………………』
き、 気まずい……
さて、 凰輝たちがそんなアホなことをしている間に、 玉藻町――中央玉藻ではある事件が起こっていた。
「警部! お疲れ様です! 」
そう言いながら若い刑事は敬礼する。
警部と呼ばれた40代半ばのこの男。
ややくたびれた感じはするが、 こう見えても優秀な刑事なのだ。
「で? 害者は? 」
「……あの……それが……」
「? 」
ビニールシートにくるまれたモノ。
それだけで殺人事件だということを物語っている。
しかし、 警部と呼ばれた男はなんの躊躇いもなくシートをひっぺがす。
そして、 顔を歪ませる。
「コイツは……! 」
バラバラになった死体。
もはや、 男か女かすら分からない――かろうじて人間と分かる程度に切り刻まれたモノ。
「……こんなグロいの見たことないですよ……! 」
若い刑事が口元を押さえながら呟く。
「……武内警部……? 」
武内と呼ばれた男。
彼はこの死体に見覚えがあった。
いや、 この殺し方に見覚えがあると言った方が正確か。
そう、 それは10年前……
ここ、 玉藻町を震撼させた連続殺人事件。
「生きてやがったのか……! “切り刻む者”! 」
武内はそう叫ぶと復讐の焔を再び静かに燃やしだした……。
最後、 シリアスにしときながらこの先何も考えてないという……