其の伍拾陸:集いし者らは古の猛者たち
古代武術家が続々集結!
玉藻神社―――
赤野紗は1人で座禅を組んでいた
紗は静かに目を閉じ、 指1本動かさず、 風で髪が乱れることもかまわずただ座禅を組んでいる
そこに忍び寄る1人の男―――
少し大柄なその男は右手に日本刀を携えている
もちろん本物
男は日本刀を両手に持ちかえ頭上に構え、 紗の頭に振り下ろした―――
パシッ
「………!! 」
男が軽く息を飲む
紗は振り返らず、 目も閉じたまま、 右手で日本刀を受け止めていた
血は1滴も流れていない
男は日本刀を引っ張り出そうとするが、 まるでそこだけ凍りついたように動かない
そして、
「……豊華流“芒投”」
ブゥゥン……どしゃ…!
まるで壊れたオモチャを投げ捨てるように紗は片手でその男を投げ飛ばした
だが、 男はなにごともなかったかのごとく立ち上がり、 土を払う
紗も目を開いて男を見る
そして、 ため息をつく
「兄さん……修行の邪魔はしないでって言ったでしょ…」
「紗……もう1回頼む」
「イヤ。 」
そう、 この男
実は紗の兄なのだ
名前は赤野武彦
ドM
「…まったく…せっかく新技ができるかな、 なんて思っていたのに…」
「俺も紗が新たなる性癖に目覚めてくれるかと…」
「殴るよ」
「殴って」
紗は無駄だと悟った
「紗よ……」
「なに? 」
少し間を置いて兄さんがお茶を持ってきたので一服する
私、 紗は久々に修行をしていた
凰輝に少しは通用するような新技を開発しようと思っていたのだけど……
「しb「しばかないよ」…グスン…」
2度とは通用しない
まったく、 ウチの兄さんは変態すぎる
凰輝は若い娘がいいってわがまま言うし……
兄さんが女だったらなぁ……
はぁ………
「ところで……紗…」
「言っとくけどSMプレイならしないから」
「違うから
やってほしいけど」
ここで本音が出るあたりが兄さんらしい
「なんで今になって修行なんか始めたんだ? 」
「ライバルが増えてきたから……かな? 」
「ライバル? 」
兄さんが首をかしげる
私はアグラをかいて、 説明する
「四神流…音無流…豊華流……
今、 少なくとも3つの古代武術がここ、 日本にある
もうすぐ他の古代武術家たちもこの日本にやってくる………
凰輝にばかりかっこいい役目を任せたくはないからね
それに……」
「……それに? 」
「雷華ちゃんたちを守れるのは私だけだから……」
「それはなんてうらやm…いやいや、 大変だな」
…………もうなにも言わない
言えない
凰輝も今ごろは修行したりしているのだろうか……
いや、 してないね多分
「………四神流奥義“朱雀闘氣・纏”」
ゴウッ!
あ、 うっす
フィアだ
凰輝はさっきから炎をまとったり、 氷をまとったり訳分からねぇ
あと、 ここは凰輝ん家じゃない
近くの山だ
凰輝の前には木でできた人形が数体
なにする気だ?
「……四神流奥義“朱雀乱舞”」
凰輝の姿がかき消えた
いや、 あまりの速さにアタシが見失っただけか
ヒュッ!! ………ドガガガガガガガガガガ!!!!
速い
一瞬でデク人形が炎に包まれながらバラバラに砕け散る
少し間を置いて、 凰輝がアタシより数歩離れたところに現れる
知らず知らずの内にアタシたちは呟いていた
『す、 すごい……! 』
「…うっし、 こんなもんか」
そのあと2、 3程似たような技をデク人形に繰り返し、 すべてのデク人形はバラバラに砕け散った
「おし、 帰るか」
そう言って踵を返す凰輝
スチルが気になったのか、 凰輝に尋ねる
「凰輝さんはなぜこんなことをしようと? 」
「“コレ”が来たからには技の確認をせざるをえんだろ」
『“コレ”? 』
凰輝が懐から取り出したのは…………手紙?
そこには“もうすぐそっちに娘連れて行くから♪ ユキナ”と書かれていた
「凰輝、 ユキナって……だれ? 」
「“白銀流”の使い手だ
前にやってきた………名前忘れた奴とは大違いだ
………油断は出来ねぇな」
『…………』
「とすると“アイツ”も来るな……クソッ、 めんどくせぇ」
「アイツ? 」
尋ねたのはレナート
凰輝はその問いを無視して歩き出す
一言付け加えて
「速く来い、 晩飯抜くぞ」
抜かれては大変とばかりにアタシたちは走り出した
この先に来る激闘を知らず
「久々ね…日本も…」
ロングコートの若い女性が成田空港を出て開口一番のセリフがこれだ
ちなみにドイツ語
左手には旅行用のトランクケースを、
右手には幼い少女を引き連れた彼女はほとんどの男性が振り返る程の美人だった
「おかあさんどこいくの? 」
少女が同じくドイツ語で母親に尋ねた
母親はたいていの男性を一撃でKOするだろう笑顔を娘に向ける
「知り合いの凰輝兄ちゃんよ」
「おうきにいちゃん!? わたしおうきにいちゃんだ〜いすき!!」
娘が輝かんばかりの笑顔を母親に向ける
母親似なのだろうその笑顔は世間一般のロリコンどもを悩殺するほどの破壊力を持っていた
「おやおやァ…ユキナさんにフユカちゃんじゃぁあ〜りませんカァ」
空港から出てきたのはアジア人……いや、 中国人か韓国人あたりであろう
語尾が少しおかしい以外は完璧な日本語で語りかける
ユキナと呼ばれた母親は眉をしかめながら男に完璧な日本語で語り返す
「アナタもお元気そうね…張…ロリコンは治ったの? 」
「HAHAHA 性癖は治りまセ〜ン
フユカちゃんをお嫁に貰う夢はまだまだ諦めてませんシネ」
「今ここで全身の骨を砕かれたいの? 」
ユキナから異様なまでに殺気が放たれる
空港の上にいたカラスがその殺気を感じて逃げ出すほどその殺気は凄まじかった
勘が鋭い人は気づいただろう
この女性は“危険”だと
だが、 殺気を至近距離で受けている張はなにごともないかのごとく肩をすくめる動作をする
ニブイのか、 大物なのか
今は分からない
「…さてと、 どっちが先に行く? 」
「…ジャンケンで決めまショウ」
『ジャ〜ンケ〜ン……』
秋の空はこのあとに起こるであろう不穏な空気を感じ取ったかのごとく、 雲が集い始めていた
最近、 ネタが尽きてきたなぁ…と思うのは秘密




