其の肆拾漆:彼の先祖、その名は辰次
今回で、 冥界編(そんなのあったか? )は終わりです
「ふぅ……」
私ことスチルは大きな神殿に辿り着いた
遠くから見ても大きかったが、 近くで見るとさらに大きい
「…す、 凄い……」
「そう? 」
「!? 」
突然後ろから声をかけられ、 思わず振り返る
そこにいたのは……
「お、 ここだな」
我が主、 西上凰輝はようやくここ、 巨大な神殿に辿り着いた
なお、 司会は黒龍が相変わらず勤めている
神殿は相変わらず、 呆れ返るほどデカイ
「あ、 凰輝」
「ん? 紗か」
「スチルちゃんは? 」
「知らん」
反対方向からやってきた紗、 恭助、 レナート
どうやら、 あと残りはスチルのみのようだ
「スチルさん…どこに行ったんでしょうか…」
「早くしねぇと、 夜が明ける」
「もう一度この辺を探し「お探し物はコレ? 」……誰だよ? 」
突如上から聞こえた声に一同の視線が集まる
現れたのは小柄な女性、 遠くから見れば子供に見えなくはないだろう
だが、 近づけばその鋭い顔つきから“修羅場”をくぐり抜けた武人の表情が見てとれる
いや、 “修羅場”をと言うよりは、 “人の醜い部分”をと言った方がいいかもしれない
彼女を見た恭助たちは不審な視線を女性に向ける
2人を除いて
凰輝と紗は懐かしさを込めた視線を投げかける
そして、
「久しぶりだな! …お袋!! 」
『………………
え? 』
「龍華おばさん…久しb「私はまだまだおばさんっていう年齢じゃない! 」……!! 」
ドカァ!!
上から龍華が跳び蹴りを放つ
それは見事なまでに紗の頭頂部にクリーンヒットし、 紗はそのまま転げ落ちる
私も久々の再会に声を震わせながら、 再会の言葉を述べる
《久々だな…龍華よ》
「ん? あぁ! 鋸!! 久しぶりじゃん!!! 」
《…もういい、 慣れた……》
『…………』
久々の再会だったが、 なんか吹き飛んだ気がした
ふと見れば、 龍華はスチルを肩に担いでいる
スチルはゼイゼイと息を荒げながら、 龍華に身を委ねている
一体なにがあったのか、 推測できることは3つ
1つ目は長旅で疲れたスチルを龍華が助けた。 というケース
だが、 スチルはそれなりの手練れ
体力も一応あるはずだ
2つ目はここに来て凶悪ななにかに襲われたスチルを龍華が助けた。 というケース
これも1つ目と同じく、 スチルはそれなりの手練れ
そうそう簡単にここまで弱らせることは難しい
それに彼女の衣服は乱れてはいるものの、 傷は浅いし、 少ない
これだけの傷でここまで彼女を弱らせることができるだろうか?
3つ目
これが1番有力
「どうせ、 お袋がスチルに抱きついてパニックを起こしたスチルが勝手に疲れただけだろ? 」
「ち、 力が凄すぎるんです…死ぬかと思いました……」
それが正解か
「早く行くぞ、 話が進まねぇ」
凰輝が他の面々に呼びかける
その点では私も同感だ
そうして、 我々は龍華と別れて、 神殿の奥に進む
この先に凰輝の先祖にて、 四神流の開祖
西上辰次が、
いる
そこにいたのは、 白髪の青年だった
凰輝と比べても、 差に変化がないくらい高い
貫くような視線はその者の強さを誇示している
何百年着続けたのか、 はおっているコートはボロボロになってはいるものの
その全身を包み込んでいる
「ふぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁ……寝む」
辰次は大きくアクビをすると、 その鋭い眼差しは一瞬で能天気なものへと変わる
雷華やスチルは半ば呆れ返りながら、 その青年を見つめていた
やがて、 辰次が凰輝たちに気づき、 軽い挨拶を交わす
「うっす…久しぶり」
「結構でかくなったなぁ、 お前」
「お前が縮んだんじゃねぇのか? 」
「はっ! どこのジジイの話だ? 」
「お前」
「俺は生涯現役だっつーの」
「900年近く生き続けたクセに
人間は60過ぎたらジジババなんだよ」
「俺は人間を超越した! 」
「じゃあ、 てめえは化け物だな」
「てめえに言われたかねえな」
「あっそ、 じゃあな」
「おう、 また10年後にこい」
「OK」
そう言って、 踵を返す凰輝
『…………………
え? 終わり? 』
「なにしてるんだ? 帰るぞ」
「どうしてですか? 」
「作者が限界」
「オイ、 しっかりしろよ」
紗の突っ込みが炸裂する
彼女としてはもう少し他の面々と話し合いたいのだろうか
凰輝は辰次の脇をくぐり抜け、 その先の岩肌に手をつける
そして
「火を司る朱雀よ
水を司る青龍よ
雷を司る白虎よ
木を司る玄武よ
土を司る麒麟よ
そして……
すべての中心に位置する黄龍よ」
岩肌が熱と光を帯びていく
そして、 その光は段々強くなっていく
凰輝の服が、 風もないのにはためく
「開け、 冥界の戸を
開けろ、 あの世とこの世との境目を」
岩肌に扉ができたかのごとく、 光は中心に集い、 縦に切り開く
「現世の聖気を、 冥界の邪気を、
我はすべてを受け入れよう
汝に祈り、 汝に唾吐き、 汝を讃え、 汝を罵倒し、 」
岩肌の光はさらに強くなり、 後ろにいた雷華たちはその眩しさに目を覆う
「汝が聖術を、 汝が呪術を! 今、 我に示せ!! 四神流!!! “境界裂波”!!! 」
凄まじい光の乱舞
誰もが、 その眩しさに目を瞑る
そして、 光が完全に収まったあと、 岩肌があった場所には西上家が見えていた
凰輝はそこに入り、 無事帰宅
『……………
え?? 』
「どうした、 早く来いよ」
「え? えぇ?? 」
「え? 凰輝? なんで? 」
混乱するメンバー
紗は少し冷静になって、 凰輝に尋ねた
「なんなの? さっきの技…」
「四神流“境界裂波”」
「そんなのあったっけ? 」
「さっき作った」
『オイ』
揃う突っ込み
ちなみに呪文じみた詠唱はぶっちゃけ関係ナシ
「帰るぞ〜置いていかれたいのか」
『いぇ!! 』
雷華とフィアと恭助がほぼ同時に声を揃えて叫ぶ
やっぱり怖いのだろう
そそくさと西上家に帰っていく雷華たち
ただ1人、 青葉は少し名残惜しそうに後ろを見つめている
凰輝も再び冥界の中へと入り、 なにもない虚空を睨んでいる
「凰輝さん? 」
「……あぁ、 行こうぜ青葉」
「…………うん……」
青葉と凰輝はもう一度虚空を睨み付けると、 西上家へと戻る
レナートもスチルも気づいている
私も気づいた
あの神殿に……いや、 冥界に入ったときから……
誰かが私たちをつけていた
ぶっちゃけ境界裂波の詠唱は適当です




