其の肆拾陸:その嘆きは呪詛のごとく
冥界編まだまだ続くよ――♪
あと、 レニーの力が少しだけ分かります
「…………」
……どうも、 レニーです
金づちの私ですが、 近くに流れていた木の板に背中が乗って助かりました
今はその板に乗ったままゆらゆらと湖を流れています
「………どうしよう…」
「…もしもし…大丈夫ですか? 」
「………? 」
気がつけばもう岸近くにまで、 流れてきたらしい
岸で青葉と名乗ってた少女が手を振っている
手と足をばたつかせ、 岸にまで辿り着くと、 青葉が手を差しのべてくれた
その手を握りしめて、 岸に上がると、 雷華とフィアという2人もいた
2人とも少し安心したように私を見つめた
「………ここは? …」
「わたりません、 私たちもさっき近くに流れ着いたんです」
「…これからどこ行きゃいいんだよ…」
私の質問に雷華とフィアが次々に答える
青葉は懐中電灯を持っていたが、 ここは薄暗いが明かりなしでも見えないことはない
青葉もそれに気づいているのだろう、 懐中電灯のスイッチはオフにしてある
ここで、 奇妙な音が聞こえた
なにか呟くような……
「……なにか聞こえない? 」
知らず知らずの内に私は呟いていた
「…え? 」
「な、 なにが!? 」
「…なにか…呟くような…」
「…人…ですかね…? 」
「凰輝さん!? 」
「レナートだ!! 」
「…2人のとは違う声のようです」
期待に胸膨らますように言った2人のセリフは、 青葉の言葉によって打ち消された
私も耳を澄ませ、 集中する
「あの……レニーさん? 」
「……音無流“兎聴の技”」
静かに集中した私は、 その呟きを聞き取った
《……オン・ディスカバイト・スロツキリ・ヴァンタイア・ストウリャティ・オン……》
「……これは……? 」
「なにがですか? 」
「!!!! 」
音無流“兎聴の技”は聴力を高める技
なので、 近くで声を出されると、 例えそれが囁き声でも私には“! ”マークでしめすと“!!!! ”なみに大きく聞こえる
言わずもがな、私は耳に凄まじいダメージを受けた
「〜〜〜〜〇ΧΔ□@*&☆▲★◇◎※〒→ΞΩ†♪♭‡〜!!! 」
「え? あ、 あの……」
「………ごめん、 ちょっと黙ってて…」
「……はい…」
もう1度“兎聴の技”を使ったが、 なにも聞こえなかった
こちらに近づく足音以外は、
「…こっちに気づいたようです…近づいています」
“兎聴の技”を止めて私はみんなに報告する
戦場、 とは少し大袈裟な言い方だが、 闘いは常に情報がスムーズな方が有利だ
武器も同じ、 兵力も同じ、 士気も同じでは、 正確な情報が多い方が勝利する
逆をつけば、 正確な情報が多ければ、 多少の戦力の差は翻る
今回の敵の力は未知数だ
報告にこしたことはない
「…誰…でしょうか… 」
「味方でしょうか」
「怪しい奴には変わりないけどな」
足音は近づいてくる
私たちは戦闘態勢をとる
と、
「“フレイギガ・ナチュラリー・ストウリャティ・カノン”!! 」
『!?!? 』
謎の声、 それと共に放たれる爆炎の螺旋
それはバラバラに別れて、 私たちに襲いかかる!
「……音無流…“散弾の技”」
焔の螺旋を迎え撃つは、 分裂した氣弾
それはすべて紅い渦を撃ち抜いた!
「!? 」
向こうが怯んだその瞬間、 私は2発目の“氣弾”をさっきと同様、 持ってきたモデルガンから放つ
「……音無流…“束縛の技”」
その氣弾は正確に敵に叩き込まれ、 もんどりうつのが見えた
そのまま、もがいてはいるが立ち上がる気配はないので、 警戒しながらも向こうに進む
現れたのは、 青年だった
酷く不細工な
私の後ろに控えていた3人は一斉に吹き出すほど
「…わ、 笑うなぁ!! 」
「い、 いや、 だ、 だって…」
「…わ、 笑うなって、 い、 言われましても…」
「そ、 それで、 わ、 笑うなって、 言う方が……」
憤る不細工、 いまだ笑いを堪えている3人
私も、 なにか言いたいが、 その不細工っぷりに声が出ない
「…く、 くそっ! “ドレンティア・ヘクタリー・ブ…! ”」
彼が唱えた謎の呪文、 それをすべて唱えきる前に口を蹴る
少々冷酷だが、 謎の呪文詠唱を止めるには最善の一手だ
「……再び、 妙な呪文詠唱を始めたら…容赦なく…撃つ…」
「は、 はひ……」
モデルガンの銃口を不細工の口先にねじ込み脅す
雷華とフィアには周りを見渡すよう頼み、 少しずつ情報を引き出していく
不細工ことブ・タヤ・ロウガはすべてのイケメンを恨んでいた
この時点で“アホじゃねぇか”という心の声が聞こえた気がするが気にせず進めよう
古代呪文、 と呼ばれる高度な技術を手にした彼は、 ここでその呪詛を詠唱中、 奇妙な物音を聞く
そっちに釣られ、 歩いていくと私たちに出会った、 というわけだ
………正直に言うと
「…くだらない……」
「くだらないだと!? 貴様には不細工の嘆きは聞こえんのか!? 」
「…聞こえるわけないじゃないですか……」
青葉も呆れたように呟く
さて、 この男をどうするかだが…
「あ!! 凰輝さ〜ん!! 」
「こっち! こっち! 」
向こうからやってきた凰輝に任せよう
「……なんだ? この超不細工なブタヤロウは? 」
「だっ! 誰が「実は………」
〜〜説明チュー〜〜
「………なるほど、 よし、 死ね!! 」
「はぁ!? なん…!! 」
「“桜花蹴撃”」
どっかぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁん!!
凄まじく美しい蹴りが不細工に当たり、 その不細工は吹き飛んでいく
その軌道は美しい弧を描いていた
きっと2度と会わないだろう
凰輝に連れられて、 私たちは凰輝の先祖、 “西上辰次”に会いに行くため、 大きな神殿へと向かった
少ししたら全員に会えるだろう
そんなことを考えず、 私は辰次なる人物の姿を勝手に描いていた