第二話 文学少女の初恋は
心霊探偵部の部室。
今日も依頼人は来ない。
「なあシロよ」
「はい?」
「心霊探偵とか言っときながら、私探偵らしいことしてなくね?」
「それ二話目で言っちゃう!?」
「だってなー、普通探偵って調査するじゃん?私してないじゃん?どうせチート能力で解決しちゃうじゃん?」
「やめて!この物語終わっちゃうからやめて!」
そんないつものやり取りを二人がしていると、ドアが控えめに開けられた。
お下げ髪で眼鏡をかけた、いかにも大人しそうな女子生徒がおずおずと中に入ってくる。
「あ、あの……。こちら、心霊探偵部でお間違いなかったでしょうか?」
「あ、はい。そうです。ほら部長、依頼人来ましたよ!」
「うむ。シロ。私と依頼人に茶だ」
士郎の出した緑茶を一口飲み、依頼人は語り出す。
「私、2-Aの守屋と言います。図書委員をしています」
「確かに何度か図書室で見かけたことはあるな……それで?依頼はなんだ?」
「はい、実は…………
私、幽霊に恋をしてしまったんです」
「……………………は?」
清河と士郎はぽかんと口を開ける。
守屋の話はこうだ。
彼女は昔から『見える』体質だったらしい。そのせいで気味悪がられたりしたこともあったそうで、学校に入ってからは誰にも言う事は無かった。
そんな彼女が高校生になり、図書委員として図書室の本の管理をするようになってから、『彼』と出会った。
お互いに本が好きで、話も合い、二人の仲は急速に近付いていった。彼女はいつしか彼に恋心を抱くようになっていた。
しかし、問題が一つ。
彼は幽霊だったのだ。
「私、どうしたら良いんでしょう?
告白……するべきなんでしょうか?」
「やめておけ」
清河はきっぱりと言い放った。
「そいつは幽霊だ。死んでいるのだ。……そんなものに恋をしても、お前が傷付くだけだ」
「そう……ですよね。
ありがとうございました」
守屋はそう言って一つ頭を下げると、部室を出て行った。
夕暮れが差し込む図書室。
守屋はいつものように『彼』と話をしていた。
清河にはああ言われたが、守屋はこの気持ちを抑えることが出来なかった。
例え相手が死者でもーー。
「私、貴方の事が、好きです」
そう、言った瞬間。
部屋の空気が、一気に下がったような気がした。
「え……っ!?」
信じられない。と言いたげに守屋の目が見開く。
彼に、首を絞められていたのだ。
『君もそうやって俺をからかうのか?』
「からかって……なんか……」
『嘘だ!君もあの女と同じだ!告白してきてOKした俺を、「嘘に決まってんじゃん。アンタみたいなキモ男に告白するわけないでしょー?」なんて仲間と一緒に笑うつもりなんだろう!?』
「ち、ちが……」
『俺はそれがショックで自殺したんだ。あの女に罪悪感の一つでも……そんなことを思った俺が馬鹿だったよ!あの女は何とも思わず卒業していった!君も俺を馬鹿にするんだ!信じていたのに!!』
「……っ……」
守屋の瞳から、一筋の涙が零れる。
どうして、こんなことにーー。
「そこまでだ」
『ぎゃあっ!?』
「!!……げほっ」
彼の悲鳴の後、解放され守屋はその場にへたりこむ。
守屋が見たのは、護符を持った清河の姿だった。
「……だから、言ったのだ。やめておけと」
清河は悲しみに満ちた瞳で二人を見る。
「奴は暴走しかけている。このままではお前を殺して悪霊になってしまう危険性がある。……このまま成仏させるしかない」
「そんな……」
「…………死者は、此の世に留まっていてはいかんのだ」
そして、清河は護符を投げる。
彼の身体が光に包まれーー。
ごめん。守屋さん。
それと
あ り が と う。
「うわ……うわぁああ…………!」
守屋は泣き崩れた。
それを清河は、ただ見ていることしか出来なかった。
こうして、少女の初恋は、苦い涙の味で終わったのだったーー。
「……死者は何かのきっかけで暴走しかねない。不安定な存在だからだ」
「だから、清河さんはやめておけって言ったんですね」
「ああ。だが私がそう言ったところで想いを伝えるのを止めなかった。
……分からんよ。人間というのは」
最後の言葉は、皮肉ではなく本当に分からない。と言っているように士郎には聞こえた。
それが士郎には、何故か、たまらなく寂しかったのだ。
終