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2話

 4枚のカードを手に取った4人はジロジロと舐め回すようにカードを見る。

「……これで、通れるの? このペンギンの絵が書かれたカードで」

「で、でもみんな通ってんじゃん! あたしが試しにやってみるよ! 大丈夫、死ぬわけじゃないんだかんさ!」

 左京は改札へと歩き出し、前に並んでいるスーツを着た男性の見よう見まねで改札を青白く光る部分にかざす。すぐに高い音を上げて改札は開く。

「うおおおお!! 通れた! 通れたぞ!!」

「すごい。100年近く前にもうこんなものが出来ていたなんて……」

 歓喜に満ちている左京を気にもせず驚嘆している弐志を見て、彼女も恐る恐る改札を潜り抜ける。もちろん、彼女も潜り抜けることは可能だった。その後、文京と青葉も共にカードをかざし、ホームへと向かった。

「東京駅へ行くにはどれに乗れば良いんだ?」

「そ、そこに緑色に書かれているので、良いと、思う……」

 東京、秋葉原方面と書かれていたホームへと向かい、階段を上り終えると同時に電車は行ってしまった。

「次の電車、いつ来るの?」

 息を切らしながら弐志は青葉に尋ねると、青葉は電光掲示板に書かれた文字を見てから話す。

「次の電車は……さ、3分後!? う、嘘でしょ。電車って言うのは早くても30分に1本じゃ……?」

「いや、本当に3分だ。見ろよ」

 左京の言葉を聞き、彼女の目線の先へと向けると、電車がやってきているのが見えていた。

 しばらくすると電車は通り過ぎ、5両目の車両の扉が開き、中からたくさんの人が排出される。

「これ全員この中に入っていたの?」

「そうみたい、ですね。文京さんも今からこの中に入るんですよ」

「わ、分かってるよそれくらい!」

 人が吐き出され終わり、次々と横に並んでいた人たちは乗り込んでいったので共に乗り込んでいく。



 電車内の光景は異様であった。

 扉の真上にテレビが置かれていたことに違和感しかなかった。

「すっげ、テレビあんじゃん! やっぱトーキョーの電車は違うな!!」

「やめなよみっともない。それにこれ、テレビじゃないよ。多分、次の駅を知らせる電光掲示板みたいものだよ。私たちがいた世界の東京じゃこんなのなかったのは、全員の記憶に既に埋め込まれているからなんだよ。私、わざわざ次は東京駅ですか? って聞いていたし」

「え、文京も駅名分からなかったの?」

 弐志が文京に尋ねるので、文京は首を縦に動かしたあとに説明する。

「まー、イナカモンが都市に来るんじゃねえよとか言われたけど、そのときに消滅区域以外の人間は全員 遺伝子に刻まれるって話も聞いていたからこの人たちは本能的に私たちを部外者だって分かるんだって言うのも分かったよ。本当、東京に住んでいる人間は私たちと違う世界を生きているよ」

「東京だけじゃねえよなあ。大阪や名古屋、京都の人間もそうみたいだな。アタシの住んでた北海道だと札幌がそうだったらしい」

「わ、わたしのいた九州でも博多の方はそうだったみたいです。宮崎や鹿児島の南九州は完全になかったことにされていましたから、そう言う話は、わたしも聞いたことは……」

「ワタシのいた青森、って言うか東北だと仙台だね。あの辺りもそう言う遺伝子云々の話は聞いてたよ。伝説だと思ってたけど」

 全員言い終えた後、電車は秋葉原と神田を通り過ぎ、東京駅へと到着する。

「東京駅、すごい……」

 青葉のボソリと呟いた言葉の通り、人で溢れ返っていた。

「と、とにかく。あの映っていた男を探そうぜ。こんなところで突っ立っていたら迷惑だ」

 左京の言うとおり、ホームの真ん中に4人で立っていると邪魔なので階段を下りることになった。しかし、階段へ向かう前に青葉はあるものを見つける。

「アレ、何なんですかね」

 彼女の指をさす方には様々な絵柄が表示された箱があった。

「自動販売機? でも、スイッチがないよね」

 文京の言葉の後、突然自動販売機らしきものに天気予報が表示された。

「……すごい、これ、自動販売機なのに天気予報まで……。100年前の日本にはこんなのがゴロゴロあったのかな」

「案外東京だけかもしれないよ」

 弐志が相変わらず冷たい声音で囁くと、その場にいた全員が黙り込んだ。

「自動販売機は良いよ。早くあの男を探そうよ。場所は丸の内中央口のドームだっけ? そこに向かおうよ」

 文京の言葉で全員我に返ったので、すぐに階段を下りて丸の内中央口へと向かった。

 彷徨っている内に丸の内中央口と書かれた場所に到着する。ドーム型になった美しい光景を見ないで、辺りにいる男性の顔を見ていく。

「あ、あの人じゃないですかね?」

 青葉の視線の先には先程表示されていた男性とそっくりな人がいた。彼をどうするのか分からなかったので、もう一度未来に連絡する。

「あの、例の男、見つけました……。それで、何をすればいいのですか……?」

「よくやった。あいつの名前は黒裂くろさき 涯弥がいや通称ブラックアウトだ。アイツが未来に多大な影響を与える一人だってことは分かっているだろう」

「そんなのはどうでも良いよ。アイツをどうすればいいの。殺すの?」

「いや、殺す必要はない。黒裂は記憶が突如消えることが多々ある。ヤツは生粋の東京人だから100年後には遺伝子をそのままで子から孫へと受け継がれていく」

 全員消滅区域出身なので何が言いたいのかさっぱり理解できなかった。

「前置きは良いからよ、あの黒裂ってのをどうすりゃ良いの?」

「絶対に記憶から消えないことをするんだよ。あいつの記憶が全て消えたときこそ、世界の終わりだ」

 言い終えた直後、通信は途切れた。

「い、今、記憶が全て消えたとき、世界の終わりって……言ってませんでした?」

「……言ってたね」

「ど、どういうことだ? あいつの記憶とこの世界、何の関係があるんだよ!」

「あくまでワタシの予想だけど、この世界、いや、宇宙はあの黒裂ってヤツの頭の中なんじゃないかな。アイツを殺したら宇宙が崩壊するとき。さっき生粋の東京人だから遺伝子を受け継いでいくって言っていたでしょ。あいつが死ぬんじゃなくて、アイツの記憶が完全になくなったから宇宙が消滅したんだと思う」

 弐志がツラツラと言葉を続けていたが、文京はどうしてそう言い切れるのか尋ねると、それに対しても持論を展開する。

「絶対に記憶から消えないことをするって言っていたでしょ。一生記憶に残ることがあればアイツの記憶はワタシたちと違って受け継がれていくから宇宙はしばらく滅びない。……ま、ワタシたちが努力した結果が2111年の未来かどうかは定かではないけどね」

「……だ、だけど、一生記憶に残ることって何ですか?」

「それはワタシたちで考えるしかないよ。それに、記憶がなくなるってことは何度でもやり直しがきくってことでもある。……ああ、なるほどね。だからブラックアウトか。名前に付いている黒と外野って意味でブラックアウトだと思っていたけど、記憶がなくなるってのはブラックアウトって呼ばれるんだ。これ考えた人は変なところで頭が良いね」

 話しこんでいる内に黒裂は4人の前からいなくなっていた。突然いなくなったことに焦り、すぐに探し出すと駅の校舎に入って行く黒裂を4人で追いかける。

「ま、待って!!」

 周辺にいた人が全員こちらを振り向くが、黒裂だけは何も見ないでスタスタと歩き去っていたので、左京が黒裂の手を引っ張る。

「ま、待てよ。お前、黒裂 涯弥だろ?」

「うん、そうだけど」

 左京はそのまま何も言わず、彼の手を離す。何が彼女を動かなくしたのか全員理解に苦しんでいた。

「ど、どうしたの?」

「あ、い、いや。あの、かっこいいなと思って……」

 文京も弐志も青葉も全員口にはしていなかったが、一目見たときから他とは違うオーラが出ているのがよく分かっていた。そして彼を見て全員の気持ちが1つになったのも事実である。

「何もないなら行かせてくれませんか」

 彼女たちを一蹴し、黒裂は人混みへ消えようとしていたので、文京は叫ぶ。

「黒裂さん! 待ってください!」

 彼女の言葉を聞かずに黒裂は人混みへと消えて行った。



つづく

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