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1話

 2101年。人類はついに未来を見ることに成功する。22世紀に入った直後に未来可視に成功したことは人類の大きな一歩となり、同時に、未来は決められていることも発見される。

 犯罪数は激減し、10年後の2111年には世界の犯罪数は0%になった。

 しかし、2111年も終わろうとしているとき、人類は新たな窮地へと立たされる。


 それは宇宙の消滅、すなわち、世界の消滅である。


 未来を見るフューチャースコープと呼ばれる機械には突然何も映らなくなったのだ。その後、何年後の未来を見ても暗闇のままであり、世界が消えるのは本当に一瞬で、何が起きたかは一切分からない。

 ただ一つ分かることは、世界の終焉は2111年12月28日20時14分39秒ということだ。

 人類も何もしないで終わらせるわけにはいかないので、超極秘で発明されていたタイムマシンを利用し、過去へタイムスリップする人間をコンピューターが無差別に選別した。

 そして、人類を救う可能性がある4人の女を過去へとタイムスリップさせるのであった。



 2111年12月21日。99年前の今日、地球が滅ぶと言われていたくだらない予言が外れたと言うことは一部のオカルトマニアの間で騒がれていた。そして現在、7日後に本当に世界が終ろうとしていることに震え上がるものは少なかった。どうしようも出来ないと言う状況にみんな諦めていたのかもしれない。そんな中、政府からの呼びかけにより、地方から遥々東京へとやってきた4人の女がいた。

「君たちには人類の命運がかかっている。失敗は絶対に許されない。分かっているな?」

 1人は大きな声で元気に返事をし、1人は聞こえるか聞こえないかくらいの声で、さらに1人は泣きながら、そして1人は返事をしなかった。

 コンピューターが勝手に選んだだけで、大した人間ではない自分に何が出来るのか。むしろ、他の人間より劣っている部分の方が多い。欠陥があるからこそコンピューターに選ばれただけなのかもしれないが、とにかくタイムスリップすることに関してはどうも否定的であった返事をしなかった彼女、文京ぶんきょうは心の中で考えていた。

 宇宙がなくなるなら、それはそれで良いだろう。諦めて宇宙と共に滅んでしまうのが世界の運命なのだ。そこまでして生き延びて、何か大きな意味はあるのだろうか。

「おい、おい!」

 横にいた髪の長い女に小突かれ、文京は我に返る。

「え、あっ。はい」

「聞いているのか?」

「いえ」

 無愛想な顔をしている偉そうな人は文京を睨みつけるが、すぐに話を再開させる。

「過去へ行くと、もう未来、2111年に戻れないと思ってくれ」

「ま、待ってよ。百歩譲って未来に戻れないことを受け止めたとしても、どうやって今この世界に報告するのよ!?」

「今説明する。向こうの部屋にブレスレットがある。それがあれば未来との通信が可能だ」

 都合の良いものがあるものだなと思った直後、向こうの部屋へと招かれ、話に出てきたブレスレットを手にはめて、さらに向こう側の部屋へと歩き出す。

「何度も言うが、君たちには過去へと戻ってもらう。コンピューターで選別されたとは言え、やはり不服に思っている者もいるだろう。許してくれとは言わない。だが、人類の救世主だと言うことは忘れないでくれ。こちらからも定期的に連絡は取る。準備が出来次第、向こう側の部屋へと向かってくれ。それじゃ、幸運を祈る」

 言い終えると男は入ってきた扉を潜り、いなくなった。しばらくの沈黙が室内を包んだ後、先に声をあげたのは元気に返事をしていた女だった。

「ま、まあ。その。あれッすよ。こんな貴重な体験もう出来ないんスから、もっとポジティブに行こうぜ! あたしは左京さきょうってんだ。まあ、過去でもよろしくって言うと変な感じがするけど、とにかくよろしくな」

 左京と名乗るその女は笑顔で全員に握手をしている。わたしも不本意ながら握手をする。先ほど文京を小突いてきたのは彼女、左京である。

「君は何て名前?」

 左京は笑顔で文京の横で泣いていた女に話しかけている。

「わ、私、青葉あおばです」

 目に涙を溜めながら自己紹介をすると、再度泣き始める。

「何泣いてんの! 過去に戻れるんだよ!? こんな機会滅多にないんだ。もっと喜ぶべきだよ」

「泣くに決まっているじゃないですか! 過去に戻るって言うことは、もう今日に戻ってくることは出来ないってことですよ。2111年にはもう戻れないんですよ」

「……別に良いんじゃないの。過去に戻って何かあるわけじゃないし」

 もう一人、気怠そうに口を開く。眠そうな顔をしているので、彼女も選抜されたことを不本意に思っているのかもしれない。

「ワタシ、弐志にし。よろしく」

 ペコリと小さく頭を下げると、左京の視線は弐志と名乗る彼女から文京に移る。

「君は?」

文京ぶんきょうです。その、過去でもよろしく、お願いします」

 表面上でもキャラを作っておかないと後々面倒なことになりそうだったので、とりあえず敬語にしておいた。

「ほんじゃ、全員の自己紹介も終わったし、タイムスリップと行きますか。あたしたちは人類初のタイムトラベラーになるんだ。もっと気合入れていこーぜ!」

 元気に話している左京とは裏腹に、文京を含む青葉、弐志は飽きれていた。青葉に限ってはずっと泣いている。

「……ま、たしかに左京の言うとおりだよね。人類初のタイムトラベラーなわけだし、泣いても笑ってももう2111年には戻ることが出来ないんだ。過去に戻ろう」

「そ、そうですよね。でも、やっぱり、私、まだ心の準備が出来ていないです……」

「んなもん何とでもなるよ! はい、入った入った!」

 左京に背中を押される形で扉の向こう側へと推し進められた。



 扉が閉まり、視界が暗闇に包まれると、辺りは青葉のすすり泣く声だけが響いていた。その間、ずっとユラユラと地面が揺れていて、小さな地震が起きているような感覚だった。3分もしないうちに揺れは治まり、扉を開けてみると、そこに広がっていたのはなんと先ほどの間接照明が青白く光る不気味な部屋ではなく、どこかの駅であった。……いや、駅と呼んでも良いのだろうか。わたしたちがいた世界とはかけ離れたモノが建ち並んでいることに違和感しかない。

「……ここ、トーキョウ?」

「と、東京にしては、ちょっと、あまりにも簡素すぎるだろ……」

クールなキャラを気取っていた弐志も呆気に取られて、思わずすぐ横にいた左京に聞いていた。青葉に限っては泣いているままである。

「とにかく、外に出てみよーぜ。き、きっと何か分かるはず……」

 人混みをかき分け、東口と書かれている外へと続く道を歩いていくと、線路が見えていた。

「うわ、線路なんて一生見ないと思ってた。これ、博物館に寄贈したらわたしたち一生崇められるよ」

「ダ、ダメですよお! そ、それに、私たちの目的は、う、宇宙の運命を、変えに来たことですよお……」

 大げさに言っているようにも見えるが、青葉の言うとおり、宇宙の運命を変えに来ているのだ。

 その割に何をどうすれば運命が変わるのか一切知らされていない。

 まず、今は西暦何年なのだ。何故この時代に送られてきたのだ。この時代にある何かを変えれば世界の命運は変わるのか?

 疑問が疑問を呼ぶとはまさにこのことであった。

「まずは現在の時間を知ろうぜ。どこかに時計はないか?」

 左京があちこちを見まわしていたが、やがて駅に戻れば何とかなるかもと言い始めたので、駅へと向かうことにした。

「それにしても、ここ本当に東京なのか? あたしたちの東京と全然違うじゃねえかよ。一体何が起きたんだよ」

「も、もしかしたら、ここ、100年近く前の、東京、かも……。似たような景色、写真で見たこと、ある……」

「と、言うことは。ワタシたち、本当に100年前にタイムスリップして来たってこと?」

 首を縦に振っている青葉を見て、弐志は大きくため息を吐く。

「どうしてワタシがこんなのに選ばれたんだろ……」

「ああ、それ、わたしも同感。初めての東京だったからワクワクしてたのに、まさか100年前の東京に来ちゃうだなんてね」

「お、着いた着いた」

 改めて見ると異様に大きな駅なことに困惑する。それもそのはず、文京たちが住んでいた地域には電車などが通っていなかったのだ。駅も初めて見るのである。

 一応時計があったので時間を確認してみると、午前10時21分であった。

 ブレスレットに内蔵されている時計も同時刻だったので、安心したが、肝心な西暦が分かっていない。ブレスレットには2016年と表示されていたが、何故95年前にタイムスリップしたのだろうか。

 道行く人に西暦何年か尋ねても、みんな顔をしかめて足早に去っていく。

「何なんだよ。今がいつなのか尋ねるのがそんなにおかしいのかよ」

「……左京さ。2111年にいるときに今は西暦何年か聞かれたらちゃんと言うの?」

「ったり前じゃん! 困ってんなら何でもしてやるよ!」

 クールな見た目と声音とは裏腹に意外と弐志はコミュニケーションを取っている。最も取れていないのは文京と青葉だ。青葉に限っては今にも泣き出しそうである。やはりここは優しい言葉をかけるべきなのかもしれないが、何を話せば良いのか分からなければ、今後の彼女との関係を考えると何も言わない方が得策なのではないだろうかと言う考えも文京の中では出てきている。

「文京と青葉は何か良い考えある?」

 左京の突然の質問に青葉はアタフタしていたが、文京は至って冷静に答える。

「ひとまず、このブレスレットであの偉い人に話を聞くって言うのはどう? 何か分かるかもしれないよ」

「おお~! 冴えてんね。んじゃ、あたしが連絡してみるよ」

 ブレスレットに触れようとした瞬間、青葉が声を上げる。

「ま、待って!」

「え?」

 青葉が左京を引っ張り、人混みの中へと消えて行き、駅前には文京と弐志だけが残った。ここでは、弐志が先に話しかけてきた。

「……ここ、本当に東京なんだね」

「うん。信じらんないけど、大きなビルも見えているし東京って言うのは間違いないと思うよ。何よりここの駅名、池袋だから」

「ヤケに詳しいじゃん」

「田舎に住んでいたからね。東京への憧れってのは強かったし、前日に東京の地図は調べてたよ。2111年の地図だけど」

「田舎って、どこ?」

 驚愕しながら弐志が文京に話しかける。

「どこって、石川県の能登だけど。まあ、正確には『元』能登だけどね。弐志は?」

「……わたしは青森県むつ市。もちろん、消滅しているから今は元むつ市だけど……もしかして、青葉や左京も消滅区域から来ているのかな?」

 深刻な顔をして彼女は話している。すぐに文京も我に返る。

 消滅区域と言うのは、人口激減により、市や県を保てなくなった場所であり、80年ほど前に10代、20代若者は全員この東京へと移ってきて、残ったのは老人だけであり、その老人も死に絶えてしまったのである。

 しかし、家族を心配して移らなかった若者も2割ほどいて、その2割と言うのは文京や弐志たちの両親のことである。生まれ育った場所から離れず、そのまま子供を産み、その子供もまた消滅区域で生きて行く。

 そして、消滅区域に住んでいる人間は無戸籍者であり、政府から呼び出しを食らうことはまずありえない。だが、文京たちは全員無戸籍者なのに呼び出されているので政府が秘密裏に調査をしていたのかもしれないと彼女たち二人は同じことを考えていた。

「悪い悪い。そういやここ100年前だったね。青葉の助言なかったら大変なことになってたよ。オーパーツってやつ?」

 向こう側から笑いながら青葉と左京は戻ってくる。弐志はすぐ二人に聞く。

「あなたたち、出身はどこなの?」

「そういや言ってなかったな。あたしは北海道の網走だけど、もうないからね」

「わ、わたしは、宮崎県の日向です……。でも、左京さんと同じく、消滅区域、です……」

 文京と弐志も説明すると、全員消滅区域出身だと言うことが確定した。コンピューターで選別したと言っていたが、これはコンピューターが本当に選んだのだろうか……。



 そのようなことを考えていると、左京のブレスレットからコール音がする。すぐに駅から離れ、人混みから離れ、全員でブレスレットが見えないように覆い、応答してみると声の主は文京たちを過去に送った人物であった。

「無事に着いたようだな。現在の西暦を言ってみろ」

「えーっと、ブレスレットには2016年と」

「……95年前か。本来君たちには100年前の2011年へ行ってもらうはずだったのだが、まあいい。では、任務をいう。ある男に会え。その男は東京駅にいるはずだ」

 文京は言葉が出なかった。あまりにも大雑把すぎる説明に、と言うのもあるが本当に自分は95年前に来てしまったのかと言う恐怖に頭には何も思いつかなかったのだ。

「あ、あの。一つ聞いても良いですか?」

 青葉が勇気を振り絞ったのか、必死に言葉を紡いでいた。

「なんだ」

「私たち、どうして選ばれたのですか? 全員消滅区域から来たって……」

 突然音声は途切れる。そのまま全員は硬直する。

 先に話し始めたのは弐志だった。

「……とにかく、東京駅行こうよ。考えるだけ時間の無駄だって」

 重い表情を浮かべていたが、突然全員のブレスレットにはメールが送られてくる。ホログラフィーに表示されていたのは東京駅にいると言う男の情報であった。ご丁寧に写真まで貼られていた。

「この人が世界の命運を左右する人なのか?」

「そうみたい、ですね。でも、この人をどうするんですかね?」

「……殺すんじゃない?」

 冷酷な表情で言う弐志は本気でそう考えていそうで全員身震いがした。

「あのさ。東京駅へ行くって言うけど、この時代の通貨持っているの?」

「その点に関しては大丈夫じゃない? みんなあのカードで改札通っているし、わたしたちも作れば解決じゃない」

 弐志の指さす方向には改札を潜る不特定多数の人間がいた。全員カードをかざして通っている。

「お金がないのにカード作ること出来るの?」

 全員その場で黙り込んだ。良い案が浮かばなければ徒歩で東京駅まで向かうことになるが、その間に例の人物がいなくなってしまったらと思うと徒歩の考えはなるべく使いたくない。

「さっきのお偉いさんのところに連絡してみりゃお金くらい何とかなるんじゃねーの?」

 左京の提案により、もう一度人影の少ない場所で連絡を取ってみると、応答はしなかったが、すぐにメッセージが送られてきてロッカーの中に4枚分のカードを用意しておいたと言われたので、指定されているコインロッカーに向かうと、ハットをかぶった西洋風の格好をした男性に話しかけられる。

「あなたたち、いつから来た?」

「え、い、いつって、ど、どういうことですか?」

 あたふたしながら文京は話していたが、すぐに弐志は文京を退けて話を始める。

「2111年から来た。東京駅にいる男に会うためにこの時代へとタイムスリップしてきた」

「おお~、弐志って何だかんだ度胸あんじゃん!」

 後ろで青葉や左京が賞賛していたが、文京だけはあまり良い顔をしていなかった。

 西洋の格好をした男性は弐志に鍵を渡し、そのまま人混みへと消えて行った。番号通りのロッカーを開けてみると4枚のカードが置かれていた。



つづく

久しぶりの新作です。時間をかけてゆっくり更新して行こうと思っています。

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