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夕景  作者: 卯月拓也
1/1

謝罪

 私の生まれ育った街では、道の隅に奇妙な彫像を見ることが少なくない。嘴のような顔に、大きな目を二つ持つ人型の像だ。それが道の隅で体操座りをしている。神出鬼没で、一度見つけても、次の日になれば居なくなっている。どうやら、夜の間に歩き回って居るらしい。大人は街中のその彫像を無い物として扱っている。子供には、決して近寄るなと教え込む。


 一度、小学校の校庭にその像が出没した。皆面白がって、沢山のイタズラをした(もちろん、怖がる子供もいたが)。マジックで体に落書きをしたり、頭を叩いたり、蹴ったりした。そうして、一人の男の子が、その像の腕を折ってしまった。皆、その時はぞっとした。家のガラスを割った時とは違う。何か、もっといけないことをしてしまったような、そんな気がした。像はピクリともしない。千切れた腕も何ともない。


「なんでい。もう一本取ってやれ!」


 誰かが強がってそう言った。けれど、皆もう怖くなって、その場を逃げ出した。次の日、像は無くなっていた。千切れた腕だけが、その場に残されていた。

 翌日、腕の処分が話あわれた。像の腕を折ったのは、大人には内緒だった。結局、近くの公園の草むらに隠すことになった。それからというもの、街では片腕を失った像の目撃情報が相次いだ。夜な夜な、腕を探して歩いているんだともっぱらの噂になった。怖くなった私達は公園に、腕を探しに行った。けれど、どうしても腕は見つからなかった。やがて、片腕の無い像の噂は無くなってしまった。どうやら、自力で公園の腕を見つけたらしい。そうして十年が経った。私は例の公園に、久しぶりに立ち寄った。そこには一体の像がいた。嘗て、腕を隠した草むらの前に、体操座りをしていた。よく見ると、腕がない。体じゅうに落書きの跡があった。私は恐怖も覚えずに、その像に近寄った。像は感情の無い目で私を見る。


「腕はどうした?」


 そう尋ねた。返事はない。当たり前だ、唯の銅像なんだから。私は暫く睨めっこをして、その場を立ち去った。

 家に戻ったとき、辺りは真っ暗に成っていた。自室に戻り、ベッドで横になろうとしたとき、私はその上に、例の腕を見つけた。


 家を飛び出した私は、腕を大切に抱えていた。あの像が何処かへ行く前に、腕を返さなければ成らない。何故かそう思えてならなかった。真夜中の公園に駆け込む。例の像は立ち上がっていた。痩せて、骨と皮だけになった細い二本の足で、猫背の体を支えている。私はその像の前に歩いて行った。


「これ・・・、すみませんでした・・・」


 腕を差し出し、そう言った。


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