各々の思惑 前編
結局、あの後。
喫茶店は喜びあふれる大人達で満席となりアニャの事を聞き、帰ってきた店長のノアさんに軽く事情を説明し自分達はそそくさと退散した。
ノアさんとユンちゃんにお礼を言われ、見送られる。
何気なく後ろを見ると従業員さんも表に出ていて深々と頭を下げくれている。
「ネイド様、予定が狂いましたね、どうしますか?」
そう尋ねる緋波さんに首を横に振って何も考えてないよと告げる。
「でわ、まだ時間は早いですが、ギルドに向かいますか?」
「その前に、先程使った力の回復をしたいのじゃが」
二人の言い分を聞きネイドが決断する。
「じゃあ、ギルドの共通資料室で時間を潰しながら、ウズメの回復をはかろうか」
冒険者ギルドの一階には、入ってすぐ正面に案内所があり扉を開けて入って来る人を出迎える。
慣れているかいないかなど直ぐに判別がつく為、案内所の受付さんは常に笑顔で対応してくれている。
案内所を右の方に進むと街や近隣の住民からの依頼など仕事を教えてくれる受付があり、冒険で得たアイテムや素材などを買い取る受付や回復薬を売っている売店と銀行などもこの並びに存在する。
また案内所を左の方へ進むと仲間募集などの掲示板や近隣の情報、ギルドからの連絡など多くの目につくようにとの考えで、待ち合わせなど人を集めやすいように結構広い休憩スペースが作くられている。
又、その奥には中庭にある訓練所に行く為の通路もあり、実戦の前に新しい仲間の腕を見ようとよく利用されている。
ネイド達は冒険者で賑わう一階を横目に見ながら二階の階段を昇る。
二階には各地の迷宮の資料や冒険者ギルドの歴史などの本で二階のスペースが全て埋まっている。
ネイド達は人気の無い場所を確保して、 早速、ウズメの為の本を選びいつもの作業を終えると、各々ノンビリとお茶を楽しんでいる。
「ネイド様、招待状には何と書かれていたのですか?」
「大雑把に言って、昼食がてらお話ししませんかって内容だったよ」
「そうですか…………」
「緋波よ、ハッキリと言ったらどうじゃ、物陰から覗き見している奴を殺ってもいいのかと」
ウズメの言ってることは物騒だが確かにこちらを観察している視線は感じていた。
緋波さんも眉を潜めて嫌な顔をしていたが自分が何も言わないので黙って付き合っていたのだが、流石に遠回しでも注意を促してくれたのだろう。
「主様よギルドのトップとの昼食会だが、 不参加にするかぇ?」
「流石に強硬手段をとって敵に回すのも面倒だよね」
「大丈夫です、本人も気付かないうちに終わらせます」
緋波は真面目な顔でネイドに小声で囁く。 ここでネイドが指示すれば間違いなく実行するであろう事は長年の付き合いで分かっているので、止めておく。
壁に掛けてある時計に目をやり、予定の時間が近いことを確認すると監視者に声をかける。
「あのう…………、 隠れようとする気持ちはわかるのですが、先程から耳が見えてますよ。」
ピクッと両耳が反応するのを眺めながら物陰から恐々とエルフの少女が姿を見せる。
金髪の長い髪に華奢な体格、緑色の軽装の服とエルフのイメージ通りだとネイドは思った。
「それで、僕達になんの用事ですか?」
「何か~勘違い~してると私思う」
視線を左右に泳がしエルフの少女は答える。
「副長から~本を探して~ほしいと~頼まれたのね」
誰の指示かアッサリと解り、ネイドは可愛らしい外見に似合わない発音をする少女を眺める。
「嘘つきは死あるのみ」
「緋波に同感じゃな、死して屍、拾うもの無しじゃ」
ウズメの言っている意味は分からないが 二人共、少女の背後に回りその華奢な肩を掴む。
「ヒッ! …………」
ストンと床に座り込みエルフの少女は涙目でネイドを見る
「え~と、その副長さんにこれから行きますと伝えてください」
その言葉に這うように出口に向かい、ドアの手前でペコリと頭を下げるエルフの少女。
エルフ少女が出ていったドアを見つめ、自分の隣に来たウズメに問いかける。
「どうだった?」
「まぁ、半分は予想通りじゃよ。」
半分の言葉に頷きウズメが握手を求める。その手を握ると頭の中にウズメが読み取った情報が流れる。「ほれ、今は人型じゃから、能力も半減。 でも探った甲斐はあたじゃろ」
名前 クリエ
年齢 128
攻撃力 ?
守備力 ?
魔法力 ?
状態
帝国の密偵
備考
トップの二人が~アヤシ~動き~。内緒で~調べるよ~。
外見を弄る人~嫌い~。
(あの~は、素だったのか。密偵? 彼女の立ち位置がわからないな)
中途半端な情報ながら秘匿情報を織り交ぜている内容にクリエの独断での行動であり、呼びに行ってもらったのだが、クリエの事情を見るとこちらから出向く必要があるかと考えていると。
通路の奥からバタバタとこちらに来る数人の足音がきこえた。
「ネイド様達はこちらでしょうか?」
あの足音から慌てて来たと思っていたのだが、この眼鏡が似合う金髪美人さんは 落ち着いた表情で問いかけてきた。
「はい、ネイドは自分です」
「そうですか。ご案内いたしますので此方に、お荷物はあれば部下に運ばせますが」
その言葉に後ろに控えていた部下の人達が動きをとるのを手で制止、必要ないと告げる。
「でわ、ご案内しますのでついてきて下さいね」
そう言うとドアに向かい歩き出す案内人、内心かなり焦っているのか彼女の自己紹介も無いままなのだが…………。
彼女の後ろ姿を見ながら三階に上がり、奥の室長室まで来たところで彼女が部下の二人に指示を出す 。 食事の用意を…………、
あとは指示どう…………。
など小声で話しているのを眺めていると 、話し合いが終わったようで、室長室のドアをノックした。
「どうぞ」
若い女性の声がして中に入るよう促す。
白を基調とした机と椅子。この部屋の主人であるエリーナの趣味で集められた調度品など女性らしく、調和のとれた部屋である。
ギルド長であるエリーナに会うのもこれで三回目、過去二回は迷宮を完全制覇した時に報告と賞金を貰いにきたときであり、エリーナが一人で対応した。
確か今年、26歳だったか? 明るい赤髪のやや童顔で幼くみえるが、胸は豊かで スタイルがとてもイイ。
エリーナから、ここまで案内してくれた女性がこのギルドの副長でエリーナの補佐役でミリーであると紹介されると、慌てて彼女は初対面での挨拶もなしで申し訳ないと頭を下げる。
こちらの自己紹介も済み、全員で室長室から隣の部屋に移動すると、テーブルには豪勢な料理が運ばれていた。
対面する形で席につくと。
「遠慮なく食べて頂戴」
この言葉でウズメが一番に食べ始める。 その様子を見つつ今回の招待についてきいてみた。
「大事な話しがあります。昼食を用意するので来てくださいと書いてあったので お邪魔しましたが、 どのような用件でしょ」
「まだ手もつけてませんのに、随分と性急ですね。お連れの方の様に先ずは食事を楽しんでくださいな」
ウズメの食べる様子を見てこちらを促す エリーナに、こちらもウズメを見る。
口元についている料理をハンカチで拭いてあげるそのときにウズメに触れる。
(主様よ、一通り食したが毒や危険な薬など、仕込まれては無いようじゃ)
このように最初に食事をするのがウズメの役割となっている。
ウズメの能力を使った毒味役である。
緋波さんがウズメに相談して決めたらしい。
あまり好きなやり方じゃないが彼女達の 故郷では、いろいろあったらしい。
ウズメからの安全宣言をうけ、緋波さんの目をみて頷くと二人揃って食事を始めた。
本題に入る様子もなく暫くは世間話から近隣の迷宮討伐経過、エリーナとミリーが昔、パーティーを組んでいた時の話しなどを聞き食事も終わりかけた時、エリーナから本題の話しが始まった。
「ネイド様、この度此方の呼び掛けに応じて下さり感謝しています。 これよりネイド様にはミリーと試合をしてもらいます。その結果を見て依頼するか決めます。ある貴族からの要望ですので無作法の程、お許し下さい」
随分と堅い言い回しをするエリーナを見て、貴族の依頼がどのような件か興味が沸いた。
「わかりました。それが条件なら試合をしてもいいです。 一対一での試合ですか?」
「はい。ネイド様の技量を確認したいので」
やはり自分に興味があるのかと考えていると。
「でわ、こちらにお越し下さい。 人目につかない場所までご案内します」
と歩きだすミリーの後を着いていく。