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理想のペットライフ  作者: ミイナ
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とある喫茶店での出来事

朝食も食べ終わり、 4ヶ月もお世話になった地下室と大家さんに別れを告げターナの街を冒険者ギルドに向けて歩いている三人。

「ネイド様、すぐ向かわれますか?」

「いや、まだ約束の時間まで二時間以上もあるからね、ギルドの近くに新しくできた ペット喫茶に寄ろうと思う」


ペット喫茶。日々の生活に疲れた人々が集まり癒しをえる動物好きのオアシス。 勿論、ネイドは開店からの常連である。

「癒しが要るなら、 わらわが居るじゃろ、緋波の茶もそこら辺の店より美味しいじゃろに」

「緋波さんのお茶は美味しいですよ。え~」

ウズメの言葉に頷くネイド。その言葉に隣を歩く緋波は

(恐縮です)

と心の中で言葉にして軽く会釈する。

「ウズメは……癒やされないかなぁ。見た目と口の悪さのギャップがありすぎて」


「なぁ~!このご近所ではかなりの信者を集めている我になんという言いぐさじゃ」


先頭を歩いていたウズメは素早くネイドの頭上に登り肩車状態になるとポカポカとネイドの頭を叩く。

(たいして痛くないんだけどね、まあ本気でやられると殺られちゃうし)

歩みを止めずにどうするか思案するネイド、周りからの温かい視線が恥ずかしいのか緋波が一言。

「○百歳の幼女が動物に嫉妬ですか?」ぴき!とネイドの頭を叩く手を止めて硬直するウズメと思わず足が硬直してしまったネイド。

「なっなっ……、ちゃうわぁ~主様よ、いつまでも止まってないで、はよう美波を追いかけてたも」

怒りか図星をつかれたのか顔を真っ赤に染めたウズメが素知らぬ顔で歩いて行く緋波を頭上で指を差しガシガシとネイドの肩を足の踵で叩いてくる。

(あの緋波さんの言動も久し振りだね。案外、地下室暮らしに退屈してたのかな?)

そんな風に考えながらウズメに急かされて緋波の後を追う。

住んでいた場所からそう遠くない場所に目的の喫茶店がある。

この為に貸し住居を選んだのだからと内心わくわくと心を弾ませながら歩いているとペット喫茶アカシアの看板が見えてきた。

「?、人が大勢いますね」



緋波の言葉に目を細めてアカシアの前を見る。 まだハッキリと状況が分かるまでの距離じゃないが幾人かの大声が聞こえる。

「なんだろうね?」

首を傾げながらも人垣ができているアカシアに駆け足で向かった。

近づくにつれだいたい何があったのかが 叫んでいる内容で判る。

どうもアカシアの猫アニャが急に倒れたらしい。

人垣をかき分けて店の中に入るとアニャがいるであろう場所に白衣を着たお医者さんだと思う老人とお店のアイドル、ユンちゃんが心配そうに見つめている。

ユンちゃんとはお店のオープン時、開店から閉店まで目にはいった犬や猫、鳥達やお店の奥にある一部のマニア向けに喜ばれる爬虫類達を撫でくりまわした日が懐かしい。


まぁその時に仲良くなった獸人族のお嬢さんである。

年齢は11歳。

熊族の両親でお父さんはターナの戦士団の副団長を勤めていて、お店は母娘で経営している。


獸人族の男性は獣!という外見で分かりやすいのだが、女性は耳や尻尾と解りにくいが瞳の色などで区別しないと人族とあまり変わらない外見である。

…………お店にいる皆が私やアニャを心配そうに見つめているのは分かっているの、だけど私は先生の手の中で動かなくなったアニャに夢中でお客さんに対応する事を忘れていたの。

お母さんは開店してすぐ用事で出かけ、店には私より少しだけお姉さんの人族、二人がいたの。

一人は先生を呼びに、もう一人にはお母さんを呼びに行ってもらったの。 お店には常連さんしか居なかったので倒れたアニャの側でつきっきりになってしまったの。その事でお母さんに怒られてしまったの。 心配するのは当然だけどお客さんを放置しちゃダメって。 先生は直ぐに来てくれたの。いつも診てくれるお爺ちゃん先生、先生は私の手の中にいるアニャを柔らかいタオルを敷いたテーブルに乗せ診察を始めたの。

先生にお母さん直ぐに来るからとか、アニャが急に動かなくなったのとか色々と言って邪魔しちゃたの。 そんな私に先生はアニャの手を握りなさいって優しく言ってくれたの。

アニャの手を握り少し気持ちが落ち着いた感じがしたの。

診察している先生の顔を黙って見ていたの。 先生が悲しそうに首を横に振ったのを見てまだ温かいアニャの手をギュッと握り涙が止まらなくなったの。…………


周りが騒がしくなった声を遠くに感じ、先生を呼びに行ったお姉さんがやさしく肩を抱いてくれた。

お爺ちゃん先生が何か言ってる。

でも聞こえなかったの、私は呆然として先生も お店のお手伝いしてくれたお姉さんの存在も薄れたとき、あのお兄ちゃんの姿を思い出したの開店から閉店までアニャ達を可愛がってくれたネイドお兄ちゃん。

秘密だよと一回だけ見せてくれた魔法。

あのお兄ちゃんならアニャを救ってくれるって本気で思ったの…………


「ユンちゃん、どうしたの?」

お店のアイドルユンちゃんが肩を落とし 目から涙を流している姿が痛々しくて声をかけた。


ピクッと熊耳が動いたと思ったらユンちゃんが頭からネイドに突っ込んできた。ドスと鈍い音と衝撃がお腹から伝わる、 その予想外の痛みと喉から空気が漏れる、さらにお腹の激痛の場所にユンちゃんの両手による手加減のない攻撃が的確に何度も突き刺さる。


「驚かして?すみません、その位で勘弁してくれませんか」

「そうじゃぞユンよ 主様が死にそうだぞ」

両脇から聞こえる声に反応して慌ててネイドから離れるユン。

その涙で濡れている瞳でネイドを見上げ、御免なさいと小さい頭を下げるとネイドの服の裾を掴みアニャを助けてと消え去りそうな声でネイドに訴えた。


「どんな状態ですか」

ユンの声を聞き早足で医者のもとに行くと動かないアニャを見つめながら問いかける。


「お前さんは?」「ここの常連でユンの友達です」


老人の医者の目を真っ直ぐに見つめるネイド、何が感じたのか老人が口を開く。

「皆目と病気の原因 がわからん。熱無し、傷無し、瞳孔の変化も無し。只、体が少しづつ衰弱しておる。こんな病気は聞いたこともない」


「身体反射もしないとなると感覚も無いのか?呼吸はしてるみたいだけど鼓動はどうです?」


「正常時よりややゆっくりと動いているようだ」


その言葉を聞き考え込むネイド。


ネイドの隣でユンが祈るように目を閉じている。


「よし。専門家もお手上げなら病気じゃないのかも」


そう言うと大勢の見つめる視線を気にもせずに後ろから覗き込もうとしているウズメに一声かける。「ウズメ、戻ってくれるかい?」

「おっ!妾の力が必要なのじゃな」


嬉しそうに頷くとその姿が消失する。

周りからのどよめきには無視をして、腰から白い鞘の短刀を外し、刀身をあらわにするとさらに周囲が騒がしくなった。


お前、アニャを殺すのか!


それでも人の子か!


みんなー奴を止めろ!


との怒声が飛び交うなか。一触即発の緊張感の中で、一人別次元の静けさで緋波が大勢の前に立ち静かに告げる。


「ネイド様の邪魔をするなら叩き潰します」

小柄な少女の恫喝に周りの数十人の大人達が動けなくなった。 少女から放たれる殺気、素人だからこそ解る死の恐怖に全員が呑まれてしまった。少し腕に自信がある者なら緋波の殺気に足がすくんでも、攻撃に出ただろう。

それで命を落としても本望と思うよに。

だか普通の人はそう考えない、自分命と目の前の出来事を見て天秤にかける。

今回の出来事、アニャと自分の命。

当然、自分の命が重い。 だからこそ誰も動けなくなっしまう。




その姿を見てネイドは小さく息を吐く。

(緋波さんに助けらたかな)


そんな自分と周りの大人達をオロオロと見つめていたユンに 微笑してネイドはアニャに向きなおると 前足の肉球にそっと 刀身を当てる。

刀身の尖端が淡く光り、ネイドの頭の中にアニャの情報が流れ込む。

名前 アニャ

年齢 4才

性別 女

攻撃力 7

守備力 2

魔法力 0

素早さ 40

友達力 80

状態


寄生虫による麻痺と 生命力の吸収により 六時間後に死亡予定。(下級麻痺解除薬で解除可能)



備考


ネイドに対してウザイと感じている。


最後の一文に内心ガックリと落ち込んでいるところにウズメの声が頭の中に響く。


(主様よ、アニャの右耳の付け根に異物を確認した)


その声に頷きアニャの右耳の付け根あたりを慎重に探り始めると米粒の半分くらいの大きさの(ノミ)がいた。

(こいつが原因か)


ネイドは老医者に顔を向けると先が細いピンセットは無いかと尋ねる。


「すまんの、そいつを取れる程の物は持ってきてないんじゃ」

その言葉に少し悩む。


(ウズメ、この蚤をアニャを傷つけないように取れるかい?)


(問題ないのじゃ、滅することも可能じゃよ)


(いや、調べたいから生きたままで宜しく)

(あい解った)


脳内会話が終わると ネイドの横に姿を現すウズメ。

それを確認し、老医者に再度尋ねる。


「では、蓋付きの透明な容器があれば譲って欲しいのですが」


「ふむ、ならばこの試験管でよいかの、 ゴムの蓋付きだから要望をに叶うじゃろ、お主にやろう」


「ありがとうございます。ウズメ、始めて」

オロオロとしていた ユンはネイドがアニャを何とかしてくれんだと思いジッとアニャを見つめる。


ウズメはパンと両手を合わせると右の手の平にアニャと同じ大きさで紙の薄さぐらいの黒い膜を出現させる。

ウズメは創造した膜をテーブルに敷きアニャをその上に寝かせる。

それを確認したウズメが再びポンと両手を叩くと膜がアニャを透過しながら立体的な形、長方形になるのを確認したウズメがアニャに寄生していた蚤がアニャから離れ膜の上にいるのを見つけるとそれをネイドから受け取った試験管の中に蚤を入れて蓋をする。

「主様よ、ご希望通りに処理したが、どうじゃ」


ニッコリと自慢気に蚤の入っている試験管を振るウズメ。


「うん。ウズメは頼りになるね」


その言葉を聞きご機嫌のウズメは試験管をネイドに渡す。


「お兄ちゃん、アニャがまだ動かないの」


ジッと見つめていたユンが不安そうに問いかけた。


「アニャの大本の原因は取り除く事はできたよ、後は麻痺の毒を回復すれば大丈夫」


「それは上級麻痺回復薬が必要かの?」

「いいえ、そんなに強い毒じゃありません。最低ランクの回復薬で十分です」


老医者の言葉に肩を竦めて気軽に言うネイド。

それならと老医者は 鞄の中から10級の麻痺回復薬を取り出すとアニャに振り掛ける。大勢の視線が集まる中、アニャがピクッと動き出し一声鳴くとユンが急いでアニャを抱きしめ、周りからは歓声がおきた。

「緋波さん、有り難う。もう大丈夫だよ」


ネイドの呼び掛けに頷き、臨戦体制を解くと、ギュッとアニャを抱きしめているユンを柔らかい表情でネイドの後ろから見つめる。

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