ソニア、迷宮に行く
正門に向かいながら、ネイドは屋敷の中が朝からバタバタと騒がしい事に何事か不信に思う。
「なんじゃ、えらくバタバタしておるの。メイド達が右往左往しておるわ」
「そうだね。なんだろね?ソニアさん達に何かあったかな?」
世話しなく動き回っているメイドの1人を捕まえて事情を聞くと、ソニアのパーティー仲間の1人が集合場所に来ないので、屋敷の使用人が総出で探しているとの事だった。
「あの娘が仲間の1人が来ぬだけで、こんな騒動を起こすとはどういう事じゃ?」
「余程、大事な仲間なんじゃないのかな」
「ふむ、ならば本人に聞いてみるかの。彼処におるし」
ウズメの視線の先にソニアとディッツ、他にメンバーと思われる人が複数いるのを確認した。
「まったく!あの男は何処にいるのよ。
私達の大事な日ですのに」
気合いの入っているソニアはネイドが近づいているのにも気づかずにいた。
「お前か、見送りとは余裕だな」
こちらに気づいたディッツの声に反応してソニアがネイドを見る。
「ネイド様。おはようございます、約束通りに来ていただき有難うございます」
最初に出会った時のソニアの対応の違いにネイドは、領主の教育の恐ろしさを感じる。
「おはようございます。ソニア様、何やらお仲間が1人まだ来ていないとか」
「そうですの。腕利きの冒険者を1人雇ったのですけど、時間になっても現れなくて…………」
「ほう。腕利きのぅ、それはあの木で寝とる男かの?」
「へっ」
ウズメが指をさす木の上に確かに男が寝ているように見える。
ソニアの間の抜けた声と共に全員が注目する中で、男は気持ち良さそうに寝ていた。
ネイドは懐から、投擲用のナイフを取り出すと、寝ている男に向かって投げる。
いきなりナイフを取り出したネイドを呆気にとられていた一同は一直線に男の頭に向かうナイフを驚愕の思いで見つめる。
ネイド達を除く全員が男の死を予想したが、ナイフが当たる直前に男が寝返りをして木から落ちた。ナイフは男の頭の上を通過して木に刺さる。
ドスン!と音がして、木の根本で男が痛みでのたうち回っていた。
「痛い…………。
あら、ネイド君じゃないですか。お久しぶりですね~、お元気でしたか?」
中肉中背の丸眼鏡に黒髪を七三に分けている男は、全身の埃や汚れを払いながら笑顔でネイドに近づく。
「おっさんも変わらずの用ですね。今度は何を企んでいるですか?」
「おや、朝から人聞きが悪いですね。
口の悪さはどなた譲りですかねウズメさん」
「さ~のぅ。それより、お姫様がお待ちかねじゃぞ」
いままで呆然と成り行きを見ていたソニアはハッ!として、男に近づく。
「サイトー、雇われの身で主人を馬鹿にする行動をとるとは許しませんよ」
「ハハハ、まさかご冗談をソニア様。
主人より早く集合場所に到着したので、木の上で待っていたら寝てしまっただけの話しですよ」
ソニアの怒りを軽く受け流すサイトー。
反省の色を見せないサイトーにソニアがさらに怒りを爆発させるのかと見ていると、今まで黙していたディッツが割ってはいる。
「ソニア。細かい事はどうでもいい。これで全員が揃った。さっさと迷宮に行くぞ」
兄の言い方に納得はできないソニアだが、他の従者もいることから渋々引き下がる。
サイトーは何食わぬ顔でソニアから離れてネイドの近くに来る。
「いや~、怖いですね。ネイド君も彼女に雇われたのかな?」
「いや。僕達は領主に雇われた。サイトーさんがいるなら出番はないかな?」
「まさか!君は迷宮の制覇者だ。
それも5度のね、僕は運よく生き残っている小物だよ。
だから今回も生き残るよ、どんな手を使ってもね」
そう言い残してサイトーはソニアの元に向かった。
「主様よ、相変わらずじゃなアヤツも。
飄々としとる癖に嫌な空気を纏いおって」
「ああ。おっさんが居る以上、何か厄介な事が起こるかもね」
ソニアのパーティーが移動を始める中でネイドはサイトーを常に意識をしていた。
領主の屋敷の正門から、山の方へと向かい途中で脇道に逸れる。
そこから山の奥の方へ行くと迷宮のある洞窟がみえた。
意外に屋敷から近い場所にあるのだが、余り町の人は使わない道の為、迷宮の存在がハートミーツでは広まってないらしい。
その辺りはギルド長のエリーナや領主ロイカーの苦心の策の成果だろう。
洞窟の前には討伐隊の戦士達が陣を構えており、一様に疲れた表情を見せていた。
ソニアが討伐隊のリーダーらしき人物に話し掛ける。
二言三言のやり取りで、討伐隊の戦士達が立ち上がりソニア達の先頭に立ち洞窟に先に入っていった。
洞窟内の魔物を倒しソニア達の安全を確保するのだろう、ソニア達は洞窟の前で待機。
中に入っていった討伐隊を待つ。
予想外の事がなければ彼等はこれで任務は終了となるので、外にいる待機組の顔は一応に明るい。
程なくして、封鎖されていた洞窟の門が内側から開く。
討伐隊のリーダーがソニアに安全確保の報告をおこない、それを聞いたソニアが頷き洞窟へと全員で入っていった。
ソニアの後に続きネイドは洞窟に足を踏み入れる。
中は広く4人が横に並んでも余裕があった。
高さも十分にあり、戦闘に支障がないことが分かった。
魔物は倒すと塵になるため、掃除の手間も必要ないが、こちら側で倒してもアイテムやカードを残さないので実害しかなく早急な対応が必要になる。
何故、こちら側でアイテムなどを残さないかは謎だが、現在の研究者によると魔物が生息する迷宮内部の何らかのエネルギーか膨大な魔力がアイテム生成に必要であると言う考えが共通認識になっている。
特に障害も無く、進むソニア達。
道は一本道なので迷う心配は無く、洞窟に入って10分程で目的の迷宮の扉が目の前に現れた。
領主の言う通りに迷宮のドアの水晶は黄色の点滅信号を発している。
やはり迷宮事態には領主が確認後に変化がないことが確認できた。
ソニア達のパーティーは全員で8名。
討伐が目的なら少ない気がしたが、冒険者が幾人かいるのなら報酬は迷宮で取れるアイテムやカードなどで、補填するとなると納得は一応できる。
全員を迷宮のドアの前に待たせて、ソニアがネイドの側に来た。
「ネイド様、これより競争ですわ。
一度は挫折しましたけれど、今度は最後まで迷宮に挑むと誓いますわ」
意気込むソニアにネイドは肩の力を抜くように言う。
「今から肩に力が入っていたら最後まで持たないよ。
もう一度、一階からやり直しなんだから。でも20階のボスが出ない分はソニア様に有利かもね」
「そうじゃの、中ボス一匹分ぐらいの差がなくては勝負になりはしないじゃろ、それに此方は明日以降から迷宮に挑むしの。
尻は拭いてやるから力の限り挑むが良い」
「相手にされてないみたいで悔しいですが、それが制覇者と挑戦者の差だということにしておきますわ。
でわ、行ってまいりますわ」
力みのとれた表情のソニアは仲間達と一緒に迷宮のドアを開けて中に入っていった。
それを見届けてネイドは洞窟の外にでる。
外にいた討伐隊のリーダーにソニアが迷宮に入った事を告げると討伐隊のリーダーは数人を洞窟の監視に残して引き上げていった。
「主様よ、早ければ夜にでも姫と顔を会わせるやもしれんのに、ちと大袈裟な見送りになったの」
「分かってはいたんだけどね。ソニアさんが余りにもアレだったから……つられてツイね」
ネイドは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべ、屋敷に戻って行った。




