宿探し
ハートミーツの領主の依頼を受け、
ネイド達は街に出た。
領主ロイカーとは貴賓室で別れ、次に会うのは彼の屋敷で。詳しい話しを詰めることとなった。
別れ際の4人が捨てられる子犬のような顔をしていたが自業自得だろ。
ハートミーツまでの距離と準備を考え、6日後に再開を決めネイド達は装備を取りに馴染みの鍛冶屋に向かっていた。
「主様よ、ちと時間をくうたのぅ。
陽が暮れはじめておる」
「ネイド様。親方に会いに行く前に宿を決めた方がいい」
「こんな展開になるなら部屋を引き払うのを少し後にすれば良かった」
「それは仕方あるまい。あの地下室に籠る必要もなくなったしの」「まぁ、そうなんだけどね。
迷宮で手に入れた植物や肉に野菜を太陽の光りを当てずに加工しなくてはならなかったから」
「餌の問題は解決したの?」
「どうだろうね、
この帝国内で売られている食べ物は魔物達に受け入れられなかった。
何を食べているのかもウズメの能力で解明できなかったし」
「役立たずだねウズメ。
気合いが足りないんじゃない」
「アホか!気合いの問題じゃあなく
主様の頭がおかしいのじゃ!
どこの世界に魔物をペットにして暮らすのが夢じゃとぬかす奴がいると思う。
主様だけじゃ!
妾を手に取り闘った者達は皆、
満足して妾を崇めたわ」
「そう。過去の栄光にしがみつく哀れな幼女ね」
「なっ!」
「二人共。それぐらいで終わりにしてほしい。
結局、自分が全ての悪いのだから、ウズメや緋波さんには迷惑をかける身としては、申し訳ない」
「ネイド様は悪くない。それに私は楽しい。
あの日、拾って貰った時からずっと」
「緋波の言う通り。
妾も後悔はないぞ、生き死に以外の道も あったのだと思えるからのぅ」
「そう言ってもらえるなら、更に突き進むよ。
迷宮のお陰で、お金も魔物達も着実に増えてるしね。
あとは餌と人が立ち入れない土地を何とかできれば良いんだけね」
「なら無人島じゃな。
主様よ妾が得た情報じゃと、帝国内で無人島は存在しない。
ちと遠いが共和国に行けばそれなりにあるがのぅ」「お兄さん達。
共和国に行きたいの?
ならうちの宿に止まるといいよ」
聞きなれない声に3人が声の主を見る。
声をかけた人物は白い髪の兎耳が特徴のネイドと歳が近そうなお姉さんだった。
「うゎ~。ウサ耳じゃ、ウサ耳。
お姉ちゃん。 触らせてもらえんかのぅ」
兎耳のお姉さんにウズメが足元で無邪気におねだりする。
「あら可愛い。
いいわよ。お嬢ちゃんは特別に触らしてあげる。
そこのお二人さんは 、宿を利用してくれたらいいわよ」
「自分達は南エリアに用があるのですが、宿は何処に?」
ウズメの為に腰を屈めてウサ耳を触らせているお姉さん。
「なら丁度いい
アッ。両方を同時とか……
触られると…………
え~と何だっけ?」
「うん。お姉さん。
このウサ耳は手入れが行き届いて気持ちいい。
合格。お姉さんの宿は何処なの」
「そうそう。宿ね。
ここから、南エリアの2番大通りを海岸の方に行く通りに 海猫荘っていう宿があるから、
この名刺を渡せば良くしてくれるはずよ」
ネイドが名刺を受け取り見る。
調律師
ロナ・サリューの文字。
「ロナさん、どうして自分達に?」
「そうね。久し振りに共和国の事が耳に届いたからかな。
私は共和国の生まれなのよ」
「そうですか。
なら寄ってみます」
「ネイド様。私も失礼して触ります。
ネイド様はどうしますか?」
手をニギニギとさせてる緋波に自分は遠慮すると伝え、
しばらく、玩具にされてるロナさんを見ていた。
ターナは広大な土地の上に造られた街なので移動手段には馬車や馬がよく使われる。
その為、乗り合い馬車など格安の1人銅貨1枚で乗れる。
夕暮れ時、南エリアに向かう馬車にネイド達が乗っていた。
他の人影も無く、のんびりと揺れる馬車の中。
「彼女は普通の人かい?」
「うむ。あそこまで無防備に触らせて貰えれば、
間違えなく一般人じゃよ」
「ウズメの能力は、 稀に良い方向へいく。
ウサ耳は最高だった」
「だけど、あそこまで猫を被る必要があるのかい?」
「どの種族でも幼女の笑顔には弱いんじゃよ。
昔から変わらんのぅ」
そう言うと邪悪な笑みで笑うウズメ。
「主様よ鍛冶屋には夜にでも尋ねるとして、回復薬などは明日かの?」
「そうだね。6日後にロイカーさんに会うなら、明後日の午前中にターナを出たいから明日、
寄りたい所があれば 教えてほしい」
「私は鍛冶屋に行かず道具屋に行く。
鞄と火薬とか色々と必要」
「ほう。別行動かぇ、なら妾も緋波に着いていくぞ。
主様よ短刀を緋波にじゃ」
「緋波さんに任せるよ。
あとウズメもね」
短刀を緋波に渡して 、お金の入っている 小袋も渡す。
「緋波さんは現金主義だから遠慮なく使ってくれればいい」
これからの行動が決まり後は宿の確保だが、馬車の速度が落ち目的の宿が馬車の窓から見えた。
「ほう。此処が海猫荘じゃな。
中々いい感じじゃな。
気に入った」
「うん。白い壁と赤と青の色彩が綺麗」
「じゃあ中に入ろうか。
部屋が空いてるといいけど」
「空いてるおりますよ。2名部屋が一つ」
後ろから声がして振り返る。
怪しい光を放つ赤い瞳。薄い青い肌。
長い黒髪の大人の女性が食材の入っている紙袋を胸に抱えてたっている。
「あなたは?」
「私はこの宿の主人でリリス。
見ての通り魔人族ですので、お嫌なら他へ」
「私は気にしない。 同じ部屋でいい」
「そうじゃ。
今更、気にする事じゃないのぅ。
女将、部屋を借りるぞ」
「宜しいので」
「えぇ。いつもの事ですので。
2泊、お願いします」
「そういう意味では無かったのですけど……、ロナちゃんはいいお客様を見つけるのが上手いのよね」
「ロナさんから連絡でも?」
「いいえ。 ロナちゃんの名刺の波動を感じましたので、
声をかけましたの。…………
あら! 私ったら何時まで外で。
どうぞ中へ。ようこそおいでくださいました」
宿の中に入りリリスさんから宿の説明を受け、 2階の部屋へ案内される。
2泊分の料金、2食付きで金貨4枚。
ターナでは安い方だろう。
勿論、もっと安い宿もあるが安全面や清潔重視で考えると妥当な値段設定だといえる。
「うん。いい部屋だね。食事は言えば直ぐに用意をしてくれるらしいけど、どうする?」
「先に用事を片付ける」
「妾も緋波に同じくじゃ。
力も回復せねばならんしのぅ、良い物があればよいがの」
「じゃあ、用事が終わったらにしよう。
何かあれば、宿に伝言を頼んでくれればいいしね」
その言葉で3人が部屋を出る。
ネイドは鍛冶屋に
緋波達は道具屋に各々に向かった。




