追放されたので、七人の小人を従えて城を奪還します
様々な方に触発されて私も書いてみたくなりました童話パロ!素敵すぎるタイトルはなまず娘さんから頂いたものです(*´ー`*)
一応童話パロですが、詐欺と言っていいくらい原型を留めていません(笑
夜よりも濃く 深い黒の髪。
新雪のように白く透き通った肌。
その容姿から"白雪姫"と呼ばれる私は腕を組み、円卓に座る七人の小人たちを見渡した。
ふむ…小人というだけあって小さいな。まぁ鍛えればなんとかなるかな?
「あの…」
黙ったまま七人を観察していると、暫くしてそのうちの一人がおずおずと片手を上げた。
「なんでしょう?」
「いや、なんでしょうってのはこっちの台詞というか……お嬢さんどちら様?何の用でこんな森の奥へ?」
困惑気味に尋ねられたその質問に、私はよくぞ聞いてくれた! と机を叩いて立ち上がった。
白雪姫という呼び名の通り、私はこの国の姫だった。恵まれた容姿も相まって、皆から愛されたプリンセスライフを送っていた。
そんな生活が壊れたのは、あの継母がやって来てから。美に固執する継母は私が気に入らなかったらしい。服はいつもボロを着せられ、会う度に嫌味を言われた。
それでも私は頑張って耐えましたよ。決して贅沢ではなかったけれど、人懐っこい動物たちに囲まれ、時々馬で寄って行ってくださる隣国の王子様となかなかいい雰囲気を作りながら、それなりに幸せに暮らしてた。
しかしそれを見た継母は苛めるだけではあきたらず、とうとう私を殺そうとした。遣わされた狩人が私に情けを掛けてくれなければ、今頃私はあの世に行ってた。とはいえ、もうあの城には帰れない。あの女がいる限りは命を狙われ続けるのだから。そうして実質追い出されるような形で私はここまで逃げてきた。
「ひどい話だとは思いませんか!?」
身振り手振りで、終いにはテーブルに片足をあげながら語った私は同意を求めるように小人たちを見、腰に手をあてながら更に続けた。
「人を苛め抜いた挙げ句に殺そうとする、もはや人間の所業じゃありません。それに継母は気弱な国王(お父様)が口出せないのを良いことにやりたい放題やっているそうなんです。このままでは国がダメになります!だから私と共に、城をあの女の手から取り戻しましょう!!」
我ながらなかなかの演説だったと思うのだが、小人たちには響かなかったらしい。お互いに顔を見合せ、「なんで俺たちが?」と不満を露にしている。
困った……こんなところでつまづいている場合じゃないのに。なんたって私はお姫様。剣を振るうことはおろか、持った経験さえない。小人たちの実力も未知数。さっさと説得して鍛練を始めないといけないのに。
こうなったら仕方ない。
「料理 洗濯 掃除 裁縫、家事なら粗方出来ますよ。協力してくださるなら、これまでよりも快適な生活が出来ることを保証します」
家の隅にある蜘蛛の巣や脱ぎ散らかされた服、シンクに山積みになった汚い食器などを見て、小人が家事が苦手なことを確信しての提案だったけれど、彼らは想像以上にそういうことが嫌いならしい。
先程までの態度が嘘のように声を揃えて「喜んで協力させて頂きます!!」と言ってきた。継母に虐げられていたせいで覚えた家事がこんな所で役立つとは。
こうして白雪姫(私)と七人の小人の、悪い女王からお城を取り戻すための特訓が始まった。
作戦を決行するのは年一回開かれる建国パーティーの時。警備が強化されているリスクはあるけれど、人が多く集まるから紛れやすい。
そして今日がその決行の日。ピンク色のドレスを身に纏った私は顔をなるべく見せないように会場に侵入すると、指輪型のマイクに向かって話しかけた。
「こちら白雪、侵入完了。これより作戦に移ります」
「「「「「「「はい!!」」」」」」」
耳にはめた機械からは小人たちの声が聞こえてくる。
私は会場の隅に寄りながら皆に指示を出した。
「1号と2号は裏口から侵入して女王の後ろに待機。もし私がしくじったら後はお願いします。3号はブレーカーを落として、4号 5号 6号は城門付近で目立つように騒いで、警備をしている騎士たちを出来るだけ引き付けてください。7号はもう侵入してますか?決行の時がきたら一般人をこちらに近付けないようにしてくださいね」
ちなみにこの○号っていう呼び方、小人の皆には こっちのほうがカッコいいでしょ! と言って納得させているけれど、ただ単に名前が覚えられなかったから簡単にしただけ。申し訳ない。
「健闘を祈ります」
最後にそれだけ言って通信を切った。3号がブレーカーを落とした瞬間が合図。私はドレスの上から中に仕込んでいる剣に触れた。
私達が修行に励んでいた間に、大分国は荒れた。国民の不満も募ってきている。全ては権力を自分のためにしか行使しない女王のせい。
でも、だからこそ姫の私が決着をつける。
時計の針が九時を指したことを告げる鐘が会場中に鳴り響いた時、そこは闇へと転じた。3号が巧いことやってくれたらしい。
突然の停電にパニックを起こす人々を掻き分けて、私は体勢を低くしながら真っ直ぐに床を蹴った。目指す場所はただ一つ。
そして私が立ち止まった所でタイミング良く照明が戻った。アクシデントが直ってホッとしたのも束の間、驚きにそのつり上がった瞳を見開く彼女の様子を見て、目を細める。
「な、なんでアンタが……」
「久しぶりですね"お母様"」
「………っ!!誰か、早く助けなさいっ!!」
口角を上げて笑みを作ると、継母は顔を青くし助けを呼んだ。すぐに騎士が駆けつけてくるが、小人たちの活躍のお陰か、その人数はとても少数だ。7号が頑張ってくれているから一般人が近寄ることもない。
ざっと周囲に視線を巡らし、状況を把握する。
1、2、3……6人か、これくらいなら私一人でも大丈夫。
ドレスの裾を捲り上げて剣を取りだし、呆気に取られている右隣にいた騎士の鳩尾に剣の柄を叩き込み、左隣にいた騎士には顔面に拳をお見舞いする。次いで斬りかかってきた騎士の斬撃を受け止め、回し蹴りを食らわし、後ろに回り込んできた二人を斬りつける。もちろん浅くやってるから死ぬことはない。
さて、あと一人。
剣に付いた血をドレスで拭いながら視線を向けると、そこには誰も居なかった。どうやら逃げたらしい。好都合だけど騎士としてどうなんだ、好都合だけど。
私は大袈裟にドレスの裾を翻して継母を振り返った。そしてその華奢な首筋に剣の先を押し当てる。
「お母様、自分のことしか考えられない愚かな人は、上に立ってはいけないのですよ?今ここでこの国から出ていくと誓えば、その肌に傷はつけないで差し上げますけど」
「…………お前っ、!!」
こんな状況でもこちらを睨み付けてくるだなんて、その高すぎるプライドにもはや天晴れとしか言えない。
こっちは本気だ そう瞳で訴えかけると、苦虫を噛み潰したような表情をしながらも女王は頷いた。
満足した私はあてがっていた剣を戻し、目を白黒させた来賓や城の者たちに向かって高らかに宣言した。
「白雪姫の名の元に、女王の退位と国の復興をここに約束致します」
――――――――……
あの一件以来、私を白雪姫と呼ぶ人はいなくなった。
そんなにあの血に染まったドレス姿が印象的だったのか、多くの者が“紅薔薇姫”と呼ぶようになったから。解せぬ。
でもまぁ、その程度ならまだ許せた。何が一番解せないかというと、騎士団長に任命されてしまったことだ。てっきりお姫様ポジションに戻れると思っていたのだが残念なことに、修行を積んだ私は、そんじょそこらの騎士では太刀打ちできないほどの腕前になっていたらしい。ついでに言うけど、七人の小人たちは私の下で騎士として働いてる。
今や男性たちから向けられる視線は羨望、尊敬、畏怖のどれか。いい雰囲気を作っていた隣国の王子様も恐れをなしてか、全く顔を見せてくれなくなった。
かつては国一番と謳われた美貌を持ち、たくさんの異性から数えきれないほどの求婚をされたというのに。婚期が遠のく、いや 下手したら独身のまま生涯を終えるかもしれない。
トホホ、と内心項垂れながら重い剣を持ち直した。
私が見てない間に素振りを怠けていた騎士に葛を入れ、眼下に広がる王国をみつめた。
……でも、この国が安定してくれたのは嬉しいかな。もういいや、こうなったら我が人生、国のために捧げましょう。だって私は血濡れた紅薔薇姫なんでしょう?
「騎士団長」
背中にかけられた声に後ろを向くと、そこには副騎士団長がいた。自分の口角がひきつるのがわかる。私、この人がちょっと苦手。
副騎士団長は私が就任する前まで騎士団長を務めていた男だ。右目から頬にかけて大きな傷があり、短めな髪をツンツンさせた体躯の大きな彼は見た目の威圧感が半端ない。それに騎士を統べる立場にいたんだ、実力も折り紙つき。
騎士というより兵士といったほうがしっくりくる彼は、きっと私のことを嫌ってる。だって自分の代わりに上に就くのがこんな女だったら納得出来ないに決まってる。
「な、なんでしょうか副騎士団長」
少ししどろもどろになって答えた私に、ふっと厳つい表情を緩めた彼は言った。
「パーティーでのあなたの勇姿に惚れました。俺と結婚してくれませんか、白雪姫」