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空気な不死者  作者: 末吉
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「……という訳で、僕達の最初の活動は二年生の旧棟に引きこもっている先輩を授業に参加させるということになっちゃった」

「……はぁ。それはよろしいのですが……一応、部長は私ですよね?」

「そうだよ? 副部長が僕だけど」

「なんで私は何も聞かされないんですか?」

「………成り行きなんだ」

「そうですか…」

 今は放課後。みんな部活だやっほー状態で一応に活動場所に行ったり、かったるいから帰る人とかいたり、バイトだバイトと焦る人とかいたり、勉強しないとと図書館へいそいそと駆け込む人がいる。

 僕達は誰もいない1−5で集まってそんな話をしている。部室ないし。これ終わらないと部室もらえないし。

 あ、でも顧問の先生ババァに顔合わせしてないというのもちょっとまずいかな……。

 そんなことを思いながら、僕は「ならババ……学園長に会いに行く? 部長として」と訊くと、彼女は黙り込んでしまった。

 えー。自分だけ聞いてないのが嫌だと言いうのに会いに行くのは渋るのー? 確かに同じ世界にいる人と会うのは嫌だろうけどさ。そこまで渋ることは……あるね。僕だって顔合わせした人と月日が経ったら会おうと思えないもん。僕が変わらないからね、勘ぐられたり疑われたり信じられないという顔をされること請負だし。

 別に学生生活ならいいんだ。だって成長が止まったといえば別に誤魔化せるしね。

 でも本当にどうするんだろうか彼女は。ふと窓の外の喧騒を聞きながら窓ガラスに背中を預けて目を瞑っていると、「……分かりました。行きましょう」と答えが返ってきた。

「いいの?」

「大丈夫です……空気読んでくれると思いますから……」

「……」

 目を開けて黙って彼女を見る。なんか気配が薄くなってる気がするな…。大丈夫かな?

 空気度が少し増した様な気がしながら、とりあえず「じゃ、行こうか?」と促した。




「失礼します……二回目ですけど」

「し、失礼します…」

「なんだようやく部長が……ってまさか」

「? どうしたんですか?」

「いや、なんでもないよ。それで? この子があんたが話した『助け部』の部長さんかい?」

「じゃなかったら連れてきませんよやだなぁ」

「……前回・・酷い目に遭わされたからねぇ」

「?」

「知らなくていいよ、ギルフォードさん」

「で、何の用だい?」

 暗示かけて学園長室に突撃してギルフォードさん見てババァが動揺してそれを悟られないために前回の話を蒸し返そうとしてきたから止めてから。学園長は僕達を見ずに書類と格闘しながら来た理由を聞いてきた。

 別に僕が答えてもいいのだけど、それだと彼女が来た意味はないしそもそも彼女が作った部活であるのだから、無責任だけど彼女に話をさせる必要があるために、黙っておく。

 話を聞いたから、ということもあるけど。

 そのまま僕が黙っていると、彼女が口を開いた。

「あの、私達の顧問になってくれてありがとうございます」

「それだけかい?」

「い、いえ……」

「私は忙しいんだ。さっさと用件を言ってくれないか?」

 僕の場合、否応なしにあなた話し掛けてきたじゃありませんか。そのせいで仕事しなかっただけじゃないの?

「あの…」

「なんだ?」

「こ、ここここっ、今回の依頼について、く、詳しくお話ししてもらえませんでしょうか……?」

 それを聞いた学園長。いきなり顔を上げたと思ったらため息をついて「やれやれ。やっとその言葉が聞けたよ…」と言いながら万年筆を置いた。

「とりあえずギルフォード。そこのソファに座りな」

「あ、はい」

 学園長の言葉に彼女はおとなしく従う。僕はそのまま立ちっぱなしだけど、ババァの言葉に期待せずにそのまま動かない。

 座ったら絶対『お前はなに座ろうとしてるんだ』と言いそうだからね、本当。

 そんな僕を見たギルフォードさんはなんか学園長の方と僕の方を見てオロオロしてるので、頭を掻きながら「大丈夫ですよこれくらい」とババァの方を向くことを促した。

「……ちょくちょく使い分けてる気がするのは気のせいかね……」

「何の話ですか? それよりほら、話進めませんと。仕事が終わりませんよ?」

「まったく。本当に嫌な奴だよ」

 そう言いながら学園町は指で挟んだ紙を一枚こちらに放り投げる。それは何かの力を受けているのか、すぐに落ちずにひらひらとギルフォードさんが座っているソファの前のテーブルに置かれた。

 これが魔法ね。初めて見たよ・・・・・・。おそらくだけど。

 彼女が普通にその紙を驚かずにとって見ているのを見て、内心だけで僕は驚いた。

 魔法というのはエリタールだけで発動するものでもなくなった。なんでも、世界間の行き来が可能になった時にこの地球にもそれが流れ込んできたからだそうだ。それが宇宙にまで広がればよかっただろうけど、生憎そこまでの範囲はないらしく、魔力をためる石――貯蔵石で持っていき、それで満たしていかない限り無理だと5、600年ほど前までは言っていたけど、今では宇宙空間でも魔法を使えるようになっている。全く、末恐ろしいものだね。

「あの、この人ってもしかして……」

 ギルフォードさんが紙を見ながら学園長に訊ねる。

 学園長は頷いて説明した。

「お前さんもエリタールにいたなら知ってるだろ? 『稀代の天才』『最年少宮廷魔術師』『研究オタク』と言われてる男――クロノ・サイス・ランティスの名前を」

「は、はい……この学校に通ってたんですね」

「まぁ知らないのも無理はない。うちの学校の二年生だし、そもそも入学してから・・・・・・一度も学校・・・・・に来ていない・・・・・・」

「えっ!? あ、あの人がですか!!?」

 ギルフォードさんは驚いて立ち上がり、学園長の方へ向く。

 僕はというと畑違いの話なのでただ傍観しているだけ。

 僕は不死者であり二十世紀ぐらい生きている。だけど、それは地球の中でという話。この地球が巻き込まれた諸々の大事はリアルタイムで見ているけれど、火星とか異世界で何が起こってたのかは知らない。

 故にこの依頼対象が男であることと異世界人出身であること以外は何も聞かなかったけど……そうか『天才』か…いるんだ。あっちの世界でも。

 さぞかし屈折してるんだろうなぁと思いながら黙っていると、「どうしてですか?」と質問していた。

「分からんよ。あっちの世界にほとんど帰ってないから。ただ風の噂だとこっちに入学する時に宮廷魔術師・・・・・・をやめている・・・・・・」

 そっちの方が詳しいんじゃないかと訊かれたけど、彼女は首を振った。

「……私は、一昨年からこちらで暮らしているので」

「そうかい。で、だ。あいつがこの学校の旧棟を占拠しててな。いい加減学校に来ないとこっちも限界だと連絡を飛ばしたら何と言ったと思う?」

「…?」

「『学校に通うことに意義を感じないので行きません』だとよ。まったく、どこかの誰かと似て面倒な奴だ」

「私は似てません。学校をめんどうだと思ったことはありません」

「そうかい?」

 えぇそうですよ。刺激がない毎日なんて死んでいるのも同義。その上僕は不老不死なので退屈すぎたら不貞寝ぐらいしかやることないのであえて言おう、学校サイコー! ただし空気だから結局変わってなかったりするけどなハッハー!!

 ……いかんいかん。下手すると表に出るところだったぜ危ないなぁ本当。

 仕方がないので僕は続ける。

「そうですよ。学校というのは異種族だろうがなんだろうが等しく同じ勉強が出来る場所なのです。そこで人脈と交流を作り、勉強や部活に励みながら日々己を成長させる場所ですよ? 意義を感じないという考え方が分かりません。友達いませんねそいつ」

「…さらっと毒吐くね、あんた」

「毒じゃありませんよ。独断と偏見とこの場にいてもいなくても変わらないそいつの評価です」

「……それが毒を吐いてるっているんですよ、空野君」

「で、その根暗で友達いない『天才』を学校に登校させてほしいと。そういう訳ですか?」

「………まぁね」

 なんか少し間があったな。ひょっとして『もはや何も言うまい』って感じだろうか。

 言いたいことがあればいえばいいのに。きっちりがっちりばっちり反論で叩き潰すけどね!

 と、ここでギルフォードさんがババァに「分かりました。その以来承ります」と恭しくお辞儀した。

「よろしく頼むよ。依頼が完了したら部室をやるから」

「はいっ!」

 元気に返事する彼女を尻目に、僕はそっと扉を開けた。


「ふぅ。それじゃ、行きましょうかね。旧棟なんて、懐かしい」

 彼女が出てこないうちに、僕は教室へ向かった。

 あーどうしてかって? 彼女にばれないうちにさっさと引きこもり、いや立て籠もりを引きずり出しておかないと、さっさと終わらないでしょ?

 え、そこは普通ギルフォードさんも一緒に連れて行くところじゃないのかって? ……まぁそうなんだけど、ほら、僕不死者じゃん? 何があってもつまり大丈夫な訳なのさ。そして見られるわけにはいかないのさ。

 だから僕はこうし「いきなりいなくならないでください空野君!」……すぐにばれたね。

 僕は観念して教室付近で立ち止まり、振り返る。というか、振り返らないとだめだと思った。

「ははっ。ごめんごめん」

「本当ですよもう! 気付いたらいなくなっていたじゃないですか!!」

 最後の方で消えたはずだから「気付いたら」いなくなったというよりは、「話がまとまったから」いなくなったんだけど。

 無論そんなことは言わず、僕は頬を膨らます彼女を宥めながら「今から行く?」と提案しておく。

 今日が終わればゴールデンウィークが始まってしまうのだ。休みの日に学校へ行って依頼をこなすのもいいだろうけど、休日に学校へ行くのは20世紀前に学生だった僕からすれば考えられない(帰宅部だったため)から出来るなら来たくない。

 ……ま、部長の采配で決まるんだけどねっ! 僕に決定権はなく、ただ流されるだけだけどね!!

 彼女は表情を戻して少し考え、「そうですね…………」と呟く。

 どうでもいいというよりは今更感が半端ない彼女の体型は、普通だと思う。基準なんて誰にするかで変わってしまうものだし、そもそも比べるというのは間違っているんじゃないかと物申したいところだけど女子になったこともなる気も予定もないので、いう事はない。おそらく一生。

「それじゃ、明日から休みですので明日からやりましょう。日が暮れたら大変ですし」

「……何時に集合するの?」

「10時ぐらいにしましょう」

「OK」


 はい明日になりました!

 ……そういえば、携帯買ったのに誰にもその話できなかったな。話せる人いなっただけだけど。

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