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休日。
え? 翌日どうしたかって? だから今日だって。その翌日。
あ、言ってなかった? 学校ね、週休三日になったの。月曜日から木曜日まで。もちろん大学は違うけどね。
えーっと理由が……なんだっけ。先生がストライキ起こしたんだったかなー。ストレス溜まり過ぎて大変だコラーって。二百年前に。
そういうわけでね、休みなんですよ今日は。だからとくに行くこともないわけですね学校に。
Yes! 立て籠もり!! じゃなかった、引きこもり!!
…………と、三度目までは思ってましたけどね……。
今回は目標のためなら心を鬼に、自分を奮い立たせて行くことをモットーにしてるのでそんな否定的なことはしない!
だから僕は! 今!!
「……森の中を散歩してるんだよねぇ」
ハァいい気持ち。荒んでいたものが洗われるかのような感じ。なんだろう。今の僕ならたとえ笑顔で「消えろ☆」と言われてもイラッと来ないかもしれない。ま、元々僕は現代も生き残っている人間と同列視していいのかわからない人間なのだから消えろと言われれば大人しく消えるけど。
でも不死者っていうのも不便だよねー。森の中を散策しながら思う僕。
現在地点はおそらく家の裏にある森のどこか。奥へ奥へと進んでいるので戻れるかどうかわからなかったりするかもしれないという最悪な考えが頭をよぎったけど無視。
で、不死者って不便だよねー。メリットなんて死なない・老けない・変わらない・学習したことはそのまま覚えてるぐらいでしょ? デメリットの方が多すぎるって。
まず痛覚がある。死なないと言っても痛覚神経が死んだわけではないので痛みは来る。
次に成長しない。時間が止まったようにそこで自分だけ取り残されてしまう。身体的特徴の変化が特に顕著。
そんでもって気味悪がれる、研究対象になってしまう、目的もなくただゆらゆらと生きるだけになるまであるんだから本当にね。
で、最後に挙げたのがなぜデメリットかというと、目的も何も掲げられないで生きているということはつまり、人生という壁の存在を全部取っ払ってしまっていることだから、楽であると同時に何もできていない。
そうなると人生が終わっている=死んでいるという式が成り立つ……って、これ僕の事じゃん。何回かそうなってしまったけどさ。
あと寂しい。結婚もできないし付き合えもしないから一人で時間を過ごさなければならない。孤独という時間を延々と過ごしていかなければならない。
そうじゃない不死者もいるもかもしれない或いはいたかもしれないけど、僕には無理だ。輪の中に入って過ごしてく内に自分だけ変わらないというものは。
「……せっかくいい気分になったんだけどなぁ」
歩きながらため息をつく。気分が重くなる。はっきりいって、もう帰ろうかなってレベル。
何気なく地面に転がっていた石を蹴る。普通に蹴ったはずなのにその石は木に当たって跳ね返り、そのままジグザグと跳ね返り続け、どこかへいってしまった。
「…そういえば、鍛えたんだっけ昔」
未だに音がする石をBGMに、進みながら思い出す僕。
若気の至りというべきだろうかそれとも捕まりたくないために鍛えたのだったか。今ではそれすらも思い出せないけれども、ともかく色々な格闘・武術を修めたんだっけ。すっかり忘れてたよ。このまま忘れてもいいけど。どうせ勝手に体が思い出すだろうし。
後頭部に両手を乗せて進む。石の跳ね返る音はいつの間にか消えていた。
仕方がないので鼻歌を歌いながら進む。
「〜〜〜♪ 〜〜♪」
しかしどこまで続くんだこの森。二時間ぐらい歩いてるけど、一向に抜ける気配ないぞ。というか場所が開けないぞ。泉とか川とかないの?
「〜〜〜〜♪ 〜〜〜♪」
ちなみにだけど、今歌ってるのはここ数年人気のアイドルユニット『シューターズ』の最初に出した曲だったかな。適当に歌ってるし完全に耳コピだし、そもそもそのアイドルユニットすら詳しくない。
いや、テレビは見てたよ。買い換えを160回ぐらいしてもね。世界一名乗ってもいいよね、僕。というより、僕はそもそも長生きで世界一を名乗れることを自負している。名乗りださないけどね! 昔の住民票消えてるからおそらく!!
…暇だ。誰だ外に出ようと思ったの。しかも、よりによって家の裏にある森の中を散策しようと思ったの。食べれるの探して採取しながらだからバックがパンパンになりつつあるんだけど。それでも重くないけど。
そろそろ鼻歌歌うのも飽きた。このまま走ろう。この道をまっすぐ走ろう。道というか木々が生い茂っている道なき道だけど。
そう思って僕は走り出す。普通に、木を。
「よっと」
枝をつかんだ僕は、サーカスの空中ブランコよろしくでその枝で回転して勢いをつけて飛び、近くにあった枝をつかんで1回転して枝の上に着地する。
昔サーカスへ空中ブランコ習いに行ってよかったーと思いながら、これからどうするか枝に座り込んで考え……
「うわっ!」
当たり前のように枝が折れて僕は落っこちた。確かに自重はあったけどさ。バックが重すぎたのは否定しないけどさ。
「フギャッ!」
顔面から落っこちた僕は情けない声を上げて地面とハグする。
大の字になっているけど特に痛みがなかった僕は、すぐに起き上がり首を回す。
やっぱり木々を跳ぶのは無理があったか。行けると思ったんだけどなー。残念。
仕方がないので気持ちを切り替えて走る。そのまま走る。
「風になるぞーーーー!!」
ついそう叫ぶほどテンションが上がっている。走っている間。
やははははははははははははーーーーーーー!! 僕こんなに走れたんだ! すごいすごいすごいすごい!
なんかもう頭がバカになったように高笑いをしながら走る。こんなの知り合いに見られたらどうなるか分からないぐらいにバカになってる……かもしれない。
そんな感じで走っていたら、急に、ほんともう唐突に視界が開けた。
「……」
途端に冷静になる。なんていうか……来ちゃった感があって。
山頂に。
いやね。山登ってる気がしたのは走っている間に気付いたけど、さすがに山頂にまで来る予定はなかったな…。なんか僕がいる場所から住んでいる場所が見えると感慨深いというか新しい発見があるような気がするね。
というか、結局ただ山登ってただけだな。森だと思ったのに。あ、気が付けば12時だ。お昼お昼。
「にしても見上げなかったから分からなかったけど、結構高いね、この山」
自作した弁当をバックから取り出し、ふたを開けて食べ始める。
採取したの? 家帰って食べるよ。わざと毒入ってるの少し選んだからね。
それにしても景色がいいねー1000年ちょっと前までは少しばかり殺風景だったのに、今では都市が発展し土地も耕され、森も生い茂っている。
風もあの頃みたいに異臭放ってないし、空も黒い雲が覆い尽くしていない。
「本当に平和になったなー」
作業のように箸を進めながら弁当の中身を食べていく。
これで友達がいれば…なんて思ってしまうけれどどうしてもないものねだりだと分かってしまう、自覚してしまう自分がいるために気分の落ち込むのが早くなる。
……うん。最近気付いたことなんだけどね。
ま、気を取り直して空を見上げよう。
食べ終わってしまったので弁当を片づけながらそう思っていると、がさりと近くで物音が。
「!」
すぐさま警戒態勢を取りながら落ちている石を拾い、周囲の気配を探る。いや攻撃されてもいいのだけれど、これがもし人間だった僕が不死身だということがばれて色々あって研究室に送り込まれてしまわれそうな気がする(気の早い想像)。
周囲を見渡しながら警戒を解かずにいると、がさりとまた音がしその正体が現れた。
「……あれ? そ、空野君?」
「…ギ、ギルフォード、さん?」
「「ど、どうしてここに?」」
二人揃って同じことを訊ねてしまう。これは同じ人見知りだからなのだろうか。
まぁそんなことはどうでもよくはないけれど、今はどうでもいいことにしておくとして。彼女の私服を初めて(当たり前)見たのも少し置いといて。
僕は彼女に自分がどうしてここに来たのかを説明した。
「僕はえっと……人見知りを直そうと思って外に出たけど、結局山に逃げたんだよ」
努めて明るく説明する。この手の話は人を不快にさせる気が直感でしたから。うん。
僕の答えに、彼女は「そうなんですか」と両手を合わせながら相槌を打ってくれた。なんというか、こういうのはずいぶん久し振りでね。下手したら涙腺崩壊しそうだ。
僕が黙っていると、彼女があわてて自分の事情を説明してくれた。
「あ、あのですね。私は……その、気分転換によく来るんです。こ、故郷を思い出すので……」
「そ、そうなんだ……」
お、重い……なんて想い理由なんだ……僕の突発的な行動理由より立派じゃないか。
居た堪れなくなったので、僕はリュックを背負って「それじゃ」とおとなしく帰ることにした。どうも彼女にとっては大切な場所であるようだから、部外者である僕という存在はそれを汚す害悪な存在になりえる。
だから帰るつもりだったのだけれど、彼女が「待ってください!」と止められた。
「え?」
思わず振り返る。どうして僕を引き留めるのかわからなくて。いや、他者の思考を読み取れるなんて不死者にないから当然の事であり、ごく普通の事なんだけどさ。
すると、茶色の少し薄いコートに身を包んでいた彼女が、その裾を手でつかみながら僕を見ていた。
その眼鏡越しに見えた意志に僕は視線を外すことができなかった。あてられた、というのだろうか。そんな感じで僕は、気が付けば彼女と面と向かい合っていた。
いつもなら緊張感がもうバリバリ出ているんだけど、今この時間はまったく出てこない。それはもう、あとあと怖いぐらいに。
一体何の用だろうか。僕に何か話したいことがあるのだろうか。そんなことが頭の中で渦巻いている中、彼女はにっこりと笑って「お話、しませんか?」と言ってくれた。
その笑顔に警戒心を持ってしまった僕はきっと心が完全に汚れきった奴なのだろう。純粋な心なんて不死者になってすぐになくなったようなものだからね。
だから思わず「…え? どうして?」と真顔で聞いてしまった。
やった後にどうしてそんなことを言ってしまったのだろうと後悔する。言い訳がましく聞こえるだろうから、僕は下手な言葉を使わない。
果たして。彼女は僕のそんな言葉にもめげずに答えてくれた。
「これから一緒に部活をやっていく仲ですから。少しばかり話をして仲を深めたいと思いまして。ここで会ったのも何かの縁ですし……同じ人見知りですので」
「…………」
僕は黙ってバックを降ろし、彼女と向き合う。
シンパシーを感じたというのもあるけど、彼女のどこか柔らかい物腰とすべてを包むと錯覚してしまうような雰囲気(ただし僕が今そう感じているだけであって、そう感じない人の方が多いかもしれない)にやられてしまったと言えば言葉が悪いから訂正すると、彼女の考えに賛同した。それが正しいのかもしれない。
なので僕は、彼女が立っている近くにバックと共に腰を下ろした。
休日の青空の下の山頂の木の一本の近くで少し離れて座っている僕たち二人。眼下に広がる景色は平和であり、復興ができた証だと思いながらバックに背中を預けた僕は、隣にいるギルフォードさんに話しかける。
「そう言えば僕達、自己紹介しかしてないよね」
「そ、そうですね。ではそこから改めて始めましょう」
そう言うと彼女は僕の方を向いてきた体ごと。それを横目で見た僕は、すぐさま空だけを視界に入れるようにバックにしなだれかかる。
これじゃダメだと思っているし分かってもいるし理解もしているのだけれど、どうも体に染みついた習性或いは習慣、もっと言えば特性は簡単には戻らないらしい。彼女は頑張ってこちらを向いているだろうはずなのに。
「…………」
「私は……え?」
彼女は、僕がそちらに顔を向けたことに驚いていた。
僕だって頑張っていかないといけないと心を鬼にしているはずなんだ。であるならば、人の目を見て話をしようとしないのは言語道断!
……なんていう強がりの下、僕は今ぎこちない動きで姿勢を体育座りにしています。彼女の目の前で。
僕の体が少し震えているのが目に見えてわかったのか、彼女は僕の事を心配してくれた。
「だ、大丈夫ですか? む、無理しなくてもいいんですよ?」
「だ、大丈夫さ。こここっ、これっくらい。これくらいなんともないのが普通なんだ」
「そ……そうです、か」
「う、うん。だからほら、自己紹介をもう一度しようか」
「…あ、はい。では……私はエリタール出身地球在住のエレナ・クラスト・ギルフォードです」
「僕は地球人の空野明です。外の世界には一度も・・・行ったことがありません」
「そうなんですか」
「うん。で、クラスは1−3」
「私は1−5です」
クラス、つまり教室の事だけど、一学年7クラスほどある。で、みんな均等な比率でごちゃ混ぜになるそうだ。これは500年前にはなかったな。
「あと何か話せることあったかな…」
「趣味とかあるじゃないですか。……それぐらい常識ですよ?」
「うっ…」
ギルフォードさんに正論を言われ、とっさに顔を背けてしまう。というより、数百年単位で人との交流を断っていた(というか関われなかった)僕であるからして、そう言う自己紹介に際する常識はすっかり忘れているといっても過言ではない。
こんなところにも弊害が付きまとうのか畜生と俯いていると、彼女があわてて話を進めてくれた。
「あ、私の趣味は踊ったり歌ったりすることです。それの付属と言いますか付随と言いますか、延長上で楽器を弾くことも好きです。空野君の、ご、ご趣味は…?」
「……裁縫・家事・観察・描画・読書・料理など、一人でできるもの・・・・・・・・全般」
「じゃ、じゃぁギターとか弾けるんですか!?」
「え?」
暗い雰囲気で言ったのになぜか食いつかれことに驚き顔を上げる。丁度僕達は対面しているので、彼女がキラキラした雰囲気と目でこちらを見ているのが分かった。
ていうか、ギターを弾けるか、だって? まぁ一応弾けると言えば弾けるけれど、暇潰しにと思って始めたけれど、結局のところ人に披露することがなかったのでここ300年ほどは使ってない気がする。
どう答えたものかと思いながらきらきらとした目で未だにこちらを見てくるので、無難に「一応は。今弾けるかどうか怪しいけれど」と答えておくことにした。
「本当ですか! 羨ましいです!! 私、ギターだけはどうしてうまく弾けないんです。押さえる弦と弾く弦がこんがらがってしまって…」
「アレはやっぱり慣れだよ。めげずに練習すればアコースティックバージョンで大体弾けるようになるよ」
「……どのくらい練習したんですか?」
「うーん……」
ここで不眠不休で1年、あとは当時世界一難しいと言われていた曲のアコースティックバージョンを弾けるようになるまで毎日6時間ほど練習して10年かかった……なんて言うことは、当たり前の事だけど出来ないので。ここも無難な答えを。
「中学校の頃に2年ほど」
「へぇー…すごいですね!」
…やっぱり生きてきた時代どころか年数が違うと罪悪感を感じることが多くなるね。隠しているという意識からなのか知らないけれど。
「そ、それで? ギルフォードさんはどの楽器が得意なの?」
「私ですか? そうですね……ここ日本に3000年近く前からある『琴』とか、ヨーロッパで作られた『ヴァイオリン』、私の世界にある、ここで言うハープと同じ楽器の『ショルツ』とか、ですかね…」
「意外と弾けるね…琴とかは懐かしい。あれってその当時の絵巻とか見ると貴族の女の人が演奏するものだったり、宴会の席で楽団が弾いたりしてるんだよね。尺八と共に」
「…流石に地球人はお詳しいですね」
「ま、僕はここ日本の出身だからね。自国の歴史は幼い頃から聞かされてるのさ」
「そう、ですね。私も、自分が住んでいた国の話を周りの人から聞いて覚えましたから」
そう言って二人で苦笑する。似たようなタイミングで。
きっと偶然の事なので僕は気にせず「そういえば好きな食べ物とかある?」と訊いた。
すると彼女は少し慌てて「え、あ、あの……そ、そおうですね……」と言って顔を少し赤らめる。
僕は……我慢してるさ顔に出ない様にねぇ! 一度でも出たら崩壊して連鎖すること請負だからね!!
ヘタレだなんだと言いたい奴は言えっ! 僕は言い返す根拠も自信も信用性も何もないから甘んじて聞いてるから!!
「私は……ご飯が好きです」
「…主食単体ねぇ」
「空野君はありますか?」
「え、僕?」
話を振られて少し考える。
…………あれ。好きな食べ物がないぞ? 嫌いな食べ物もないけど。
不死者というのは別に食べなくてもいいというか、欲という欲がほとんど綺麗さっぱり抜けてしまったりする。僕がそうだし。だから別に食べなくてもいいし、食べれて意識を失わなければ別に構わなかったりする。失ってもすぐ起きるから何とも言えないけど。そして今日毒を食すつもりだし。実験で。
なんかね? 不死者であることを隠すにはどういう性質なのかを知らないとダメだって昔思ってね。だからたまーに極たまーにこうしてる訳ですよ。
と、考えるのは別に彼女と別れてからもできるか。ここは円滑に話を進めよう。
「僕は、ないね。好きな食べ物も、嫌いな食べ物も」
「ここの料理は結構おいしいじゃないですか。あっちの世界でもすごい人気ですよ?」
「特別好きな料理がないってだけ。あ。でも」
「なんです?」
「人の血はさすがに嫌いかな?」
「そ、それは料理じゃありません!!」
「でもそっちの世界から吸血鬼来るよね。その人たちからしたら食事じゃないの?」
「あ、あの人たちは特別ですし、そもそも血というよりは魔力を吸っているので、それこそ語弊があります!!」
「そうなんだ」
「はい!」
いやはや。さすがにそういう裏事情を知らないからイメージ的に血を吸ってるのかと思ったんだけど…そうか。魔力か……。
「ギルフォードさんは魔力あるの?」
「というより、皆さん持ってますよ? ただそれを扱い易くなるのがエリタールってだけですので」
「ふーん」
「魔力というのはどこか気と似通っているんですよ? 体力を削るのが気で、精神力――想いを使うのが魔力ですから」
「なるほどね。僕は地球から出たことがないからそういう話はタメになるよ。ありがとう」
「ど、どういたしまして……そういえば私も質問があるんですけど」
「何?」
「信号機、ってあるじゃないですか。あれって緑なのになんで青って言うんですか?」
なんかだいぶ昔にそんな違いを説明したテレビがあったな……なんだったか。
僕は少し首を傾げてから、彼女に知りうる限りのでっち上げで答えた。
「昔は青だったらしいけどね。なんか目に留まる色で青にすると事故の恐れがあるから別な色にして、そのまま青と呼んでいるみたい」
「そうなんですか?」
「さぁ? 何分その信号機ができたのも30世紀前(推測)ぐらいだしね……」
「歴史があるんですね……」
「「…………」」
誰とも知らず僕達は顔を上げて空を見る。
そこに見えるのは流れる雲に、空を箒やら乗り物やらで飛んでいる人たち。そして太陽。
昔太陽爆発するとか言ってたけど結局そんなことなかったな。みんな頑張って食いとめてくれたからだろうけど。
そんなことを思って空を眺めていると、何かに気付いたのかギルフォードさんがまた慌てた。
「そ、空野君! な、泣いてる……?」
「え?」
慌てて目元を拭う。するとなぜか湿っぽかった。
あれ? なんで僕昔の事を思い出しただけなのに、泣いているんだ?
「あれ? あれ?? へ、変だな……なんでだろう。涙が止まらないや」
「空野君……」
本当に止まらない。僕がたった一瞬だけ思い浮かんだ言葉がここまで泣かせてる上に、今まで出会った人たちを脳内が無意識に再生してしまっている。
ギルフォードさんが心配そうに見ているのが雰囲気的にわかる。でも涙は本当に止まらない。
くそっ。
これだから不死者っていうのは不便なんだ。
「大丈夫ですか?」
「う、うん。ごめんね。みっともないところ見せて」
気が付いたら日が半分ほど傾いていた。ほとんど泣いていたようで、声も涙もカラカラだった。
ギルフォードさんはずっと近くにいてくれた。とても心配していたのが、雰囲気で分かる。
「さてと。僕は帰るよ。ギルフォードさんも帰る?」
「は、はい。私も帰ります」
「僕が泣いてたこと、秘密にしてね」
「言いませんよ。心配しなくても」
緊張という気持ちは涙という体の無意識な感情の排泄により流れ出たようで、もう当初の目標は達成したといっても過言ではない。
早いな僕と思いたくなるが、今の目標はもうそれじゃないのでまだまだ気を引き締めることにしている。
「どうせなら一緒に帰りません?」
「……え? 僕、家まで一直線だから真っ直ぐ降りるけど」
「え? 私ちゃんと整備された道を通ってきましたけど?」
「「…………」」
えっと、ここって整備された登山道あったんだ。知らなかった。
そんな僕の表情にギルフォードさんはクスリと笑ってから「良かったら登山道から帰りません?」と言ってくれたので、乾いた笑いを浮かべて僕は「お願いします」とバックを背負って頷いた。
今日分かったこと。とりあえず不死者という存在は目標がないと生きて死んでる状態になる。かなり不便。魔法と気というものが在る。ギルフォードさん優しい。毒を摂取しても一過性で、大体4秒で収まる。
……そういえば僕の連絡手段、20世紀前のスマホなんだ。どうせ解約扱いになってるし、この際連絡機器も買おうかな。両親不在で買えるかどうかわからないけど……そこはなんとかしよっと。