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空気な不死者  作者: 末吉
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 というわけで、翌日。

 いや時間を飛ばすという行為は物語を円滑に進めるに至って有効な手段だと思うけど、それはそれで日常という観点から見れば大切な1ページ以上を省いていきなり結果や結論に持っていくという暴挙に出ている。

 かといってその話の起承転結が終わった後の無駄話までなんてのは、些かいらないからそこは省いても問題ないと僕は思う。

 そんな訳で翌日。

 学校に来た僕は昨日の話をどうするか――具体的には部活の人集めの話をどうするか――を机に肩肘ついて窓の外の景色を眺めながら考えていた。

 今更な話。ここ地球は、惑星人と異世界人と僕達が一堂に会する星となっている。

 その地球の国の内ここ――日本は学園国家となっている。理由は識字率と言語習得にかける情熱が国1倍なのでもういっそのこと全言語習得できる国にしようぜというトップの話によって、学校をまとめ、首都に全部移すという暴……政策がとられたから。

 ま、そのおかげでなんか経済やら人口やらが潤ったり増えたりしてるけど。

 僕? この政策をとられる前に学校を卒業して成り行きをずっと見てたから特にいう事はないしそもそも選挙権がないために国民投票ができる年齢じゃなくて結局のところ賛成だったから変わらないと思うけどなー。

「何考えてるの?」

「う、うわっ!」

 顔を覗き込まれたのであわてて顔を上げたせいで椅子から倒れそうになったために頑張ってバランスを取って戻す。

「すごいね、あれで戻れるんだー」

「い、いきなり来ないでよ水無さん」

「だって授業終わったのに考え事してるんだもん。これで会話しなきゃ」

「良く分からない基準だね」

「で、何考えてたの?」

 どうして彼女は僕のところに来るのだろう。昨日の美術の時間で話しただけなのに。

 瞬時に考えてたことを切り替え、切り替えた内容を答えた。

「なんで僕のところに来るのかなーって」

 自慢じゃないけど不死者になってからほとんど人に認識されたことがない。だから事故になっても気付かれずにひき逃げみたくなってしまうし、コンビニやスーパーなどで買おうとすると驚かれる。

 だからギルフォードさんや水無さんの方が珍しかったりするので、僕としてはなんとしても理由を聞いておきたいのだ。身の安全なども考慮に入れておかないといけないかなと警戒するために。

 果たして。彼女は答になってない答を答えてくれた。

「なんでだろう?」

「えー?」

 もちろん会話中僕は一切彼女の方を見ない。ずっと窓ばかり見ている。

 それでも会話は成立する。それでもコミュニケーションはとれる。だから今のところはこれで慣れる。そんな感じ。

「うーん。なんだろうね? 昨日の会話でからかいがいのある子だなと思ったけど、それは違うだろうし。かといってそれ以外に君と接点もないわけだから特にこうして話しかけに来ることもないというのも的を得ている故に明確な理由を提示したいのだけれども……ないね」

「そう? ならいいんだけど」

「で、何について考えてたの?」

「ま、まだその話題続けるの?」

「うん」

 水無さんが真顔でそう言って頷いたのと授業の始まるチャイムが鳴ったのが同時だったために、彼女は慌てて席に戻ることになった。

 ということで第2回部員どうするか思考。

「おらテストやるぞお前らー」

「「「「えぇーーー」」」」

「四の五の言わずにプリント後ろに回せ。そして5分でできるところまでやれ」

 なんか前方でプリントを配る先生の姿。一体何があるんだろうと思いながら考える。

 どうやって残り二人を集めるか。ぼっちだった僕と地味だったギルフォードさん「はい始め!」えーっと何々……あー300年前に起こったストライキの原因ね。こんなの簡単じゃん。僕リアルタイムで見てたし。じゃなかった。ぼっちと地味に共通して友達がいない。だから部活を作ろうという話をして部員が足りないんだよなー2問目? こんなのこれに決まってるよ。3問目の正確な答えはこうだよ。4問目はここが間違ってる。本当はこう。5問目…って、これは問題自体が違うよ。これがこうだからこうなったわけであってそこは関係ないって……ふぅ。終わった。じゃ続きを「終わりだ! さっさと前に回せ」…もぅ。

 僕はプリントを前の人に渡しながら先生の声に不満を覚える。まったく。いきなり不意打ちのテストなんていまだにやってるんだね。そんなんだから当時の人たちもキレて半ストライキで学校たてこもったんじゃないか。

 2度目の入学時に起こったことについて思い返しながらそんなことを思っていると、歴史の先生が(筋肉がすごい異世界人)小さい声で「……なん、だと」と呟いたのが聞こえた。教室中が静かだったために聞こえたのだろうけど、あの熱血教師(受けて見た感想)が震えてるという事実に教室がざわめきだす。

 僕はというと、すぐさま部員集めについて考えをまとめていたので気付くわけもなかった。

 さて本当にどうしよう。誰とも話したことない……いや一人だけ話たことがあるけどその人部活に入ってる可能性があって無理だろうから結果的に誰もいないから二人、もしくは一人集めるのは難しいかもしれない。うんかもしれないじゃなくて無理だね。

 でも部活つくるって話したしなぁ。どうしようか「空野」なぁ……ん?

「は、はい!?」

 今度は噛まずに言えたけど、不意打ちのように人の名前を呼ぶのは勘弁してくれないだろうか正直言って心臓が跳ね上がって一気に緊張モードに突入してしまう。

 僕の返事を聞いた先生は、そんな僕の気持ちなんて知る由もないのでそのまま続けた。

「……なんでお前、一番最後の問題が間違ってると知ってたんだ?」

「え?」

 なんだそんなこと? やだなぁ……

 そう思って説明しようとして、はたと気づく。

 あ、そう言えば僕不死者なんだ。どうしようもなく不死者なんだ。今の今まで目立たないように生きてきて他者と接触なんて数百年に数度あるかないかなんだ。だからどう見ても人間・・の僕がそんなこと知ってたら不味いんだ。


 1200年前に起こった、異世界からのアンノウン出現二回目に採ろうとした、近代兵器最強とその当時謳われていたベベジットガンの使用案。それに関しての惑星間同時反対デモという真実を。


 ベベジットガン。別名「星壊し」。文字通り星を壊すほどの威力があると言われている。確か2200年から始まった戦争の最後の方で威嚇がてらにぶっ放して、衛星三つほど消し飛ばした兵器って話だった。

 その戦争が終わる理由も、それを使用した星をばらばらだった星が集中攻撃して降参させたからなんだよね。

 で、1200年前に現れたアンノウンが強すぎたからそれ使おうという話が上がったという情報が流れ、それを聞いた八割の人口が一斉デモ。各星で警察の皆さんが頑張って抑えてた話。

 で、さすがに反対の声が強すぎたから使わずに自慢の兵器ブチ込みまくったら死んで、ほら使わなくていいじゃねぇかと大パッシングを受けて『もともとそんな案は上がりませんでした』と強気に否定した話。で、時代が流れ、その『上がってなかった』という情報自体が正しいとされてしまったんだよね。悲しいことに。

 それが五問目の間違ってるという話。

 で、僕は今頑張って誤魔化すことに決めました。

「え、えっと、ですね……」

「おうなんだ」

「りょ、両親が考古学者だったんで…」

 もう僕の両親の仕事がなんだったか思い出せないけど、とりあえずそれで誤魔化す。…誤魔化せたかな?

 心配をよそに先生はじっと僕をその鋭い目で見てくる。それが少ししてから、先生は息を吐いた。

「…嘘じゃなさそうだな。だが、この授業が終わったら先生のところへ来い」

「……はい」

「座っていいぞ」

「はい」

 僕は先生の言葉に従い座る。そして机に突っ伏す。

 もういやだー疲れたー帰りたいーなんで僕あんな風に真面目に解いたんだろうー正直言って白紙でも良かった筈なのにー。…これはあれか。真面目に部員集めの事を考えていたところでテストが来たからそのまま真面目にやってしまったのか、思わず。

 やべー僕一躍時の人じゃーん嬉しくないけどー。そんなことを思いながら、ペンを暇な手で回しながら、僕はそのまま机に突っ伏していた。

 授業が終わって。

 いかなくちゃいけないのか……いやだな……地獄だな…阿鼻叫喚だな……魑魅魍魎だな……地球人外の巣窟だな……。

 気持ちが沈み、足取りが重い最低最悪なモチベーションで席を立つ。普段目立たないほど空気に溶け込める僕だけど、さすがに今そんなの気にしてられない。というより、今から僕は不死者であることを隠すための戦いへ向かうのだ。

 ていうかさーマジ視線の暴力が来てるよー。さすがに三度目だから少し慣れてしまったけどさーそれでも威圧感半端ないんだからねー地球人このクラスに十人いるかどうかなんだから凄いってこと気付かないのかなー。

 部員集めに関しても考えたいんだけどなぁ。ため息をつきながらそう思いつつ歩いていると、授業前に聞いた声が聞こえた。

「空野君。なんて書いたら呼び出し食らうの?」

「……水無さん。聞かない方がいいよ。今じゃ黒歴史だからね」

「? どういう事?」

 首を傾げて訊いてくるけど構っていられない僕はこの際無視することにした。


 あーこれ終わったら僕、ギルフォードさんに秘密を打ち明けるんだ……。


 そんな昔風で言う死亡フラグを思いながら、僕は教室を後にした。




 ま。死なないけど。














 で、放課後。

 なになんで過程を飛ばすのかって? 決まってるさ。そこで話していたことなんて、この話には一切関係ないからだ。というより、僕は今部員集めについてあーでもないこーでもないという考えをしている最中なので、こんな教師どもに囲まれたという話は蛇足以外の何物でもないと判断した結果。

 うーん。でも一応関係あるかな。ま、そこは簡単にいこう。


 僕とギルフォードさんが作ろうとしている部活を、部員二名でも部活と認めてもらえるように(脅)しました。


 それこそ簡単な事だったよ。とりあえず先生からネチネチネチネチネチ……と小言を授業始まったのに受けながら、お話(という名の交渉及び一方的脅し)をして条件すべて呑ませたわけさ。

 伊達に長生きしてないのさ! 一人だったから悪知恵の必要性が皆無だっただけさ!! 一応考慮とかしてたけど!

「……という訳で、僕たち二人で部活が出来る様になりました」

「あ、あの……肝心の過程が分からないんですけど」

「よ、世の中には、し、ししし知らない方がいいことも、あ、あるよ」

「……露骨に狼狽えてますよ」

 静かに指摘されたけど、僕はちょっと彼女の後ろを歩いているから髪の毛からかおる匂いがね、その、香ってきたんだよ。分かる? すごくいい香りだったんだよ。狼狽えるに決まってるじゃないか。

 で、未だに僕達は面と向かい合う・もしくは隣同士で会話できません。主に僕の精神状態のせいで。

 おかし……くはないね。うん。

「ま、まぁいいじゃない。部員集めに苦労しなくて済むし、顧問の先生も見つけることができたから」

「え?」

 ギルフォードさんが足を止めてこちらを向く。僕はその動きを予想して顔を横に向ける。

 ……ふっ。自然に顔を見ないで済むような動きが二日ぐらいで身に着けられるようになるとは。我が身ながら恐ろしい……。

 って、ちっがーーう!! 顔背けるのに慣れちゃまずいでしょ今更だけど! 僕ギルフォードさんと普通に・・・会話したいのに!

 …でも、直視して会話は今の僕にとってハードル高いし……

「あ、あの、空野君。き、聞いてる?」

「でもそのハードルを飛び越えないと……あ、ごめん。何?」

「え……っと、顧問の先生、み、見つかったの?」

「まぁね。ついでのようなものだったけど」

「ついで…?」

「ま、学園長なら文句言わないよね、誰も」

「がっ……学園長!?」

 驚く彼女をよそに、僕は見られていないことを良いことにニヤリと笑う。

 ま。さっきの脅しの延長上で交渉したんだけどね。あの化け物(学園長。異世界にある学校の初代長らしく、二代目に六十年前に譲り、この学校の長となった。エルフという種族のせいで長命で、二百越えてるって)も嬉しそうにしてたし(ただし目がマジだった)、そもそも学園長が(交渉したとはゆえ)応じたのだから、拒否権などあるわけがない。

 ふっふっふっ……なんかひさびさに面と面を突き合わせての『話し合い』をした気がする。仕事以来だ。

 未だに僕仕事モードになれるんだなぁと思っていると、ギルフォードさんの方から「うそ、学園長? 学園長って、あの人だよね? ど、どうしよう……」と聞こえたので向きたくなったけど、我慢してそのまま進む。

「……あ。ま、待って、く、ください!!」

 彼女は僕が先に進んだことに慌てたのか、僕を追いかけてきた。


 ……って、ひょっとしてさっき横に並ばれてたの僕?


 その事実に、少しばかり転びそうになったのは秘密ね。

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