エピローグ
これにて終了と相成ります
説明責任という言葉がある。単純にお前説明しろよという意味でよく国会の討論で交わされる言葉だけど、正直言おう。僕自身が知っていること以外僕は説明できないし、僕の知らないことを聞かれても知らないので説明できるわけがない。まぁ求められたらの話だけど。
で、富士山の山頂で何故か倒れ込んでいた僕は、一緒に来ていたギルフォードさんとなぜかいた水無さんに話を聞きながら下山していた。
「えーっと、僕にギルフォードさんの一族の敵的なドラゴンと、水無さん達が代々崇めていた神様がいて、そのせいで不老不死になってるってこと?」
「端的にまとめればそうなるねー」
「……怒ってないんですか?」
いつも通り快活に笑いながら答える水無さんに、どういう理由で落ち込んでいるのかわからないけど恐る恐る聞いてきたギルフォードさん。
彼女は一体何を落ち込んでいるのだろうか――――あぁ僕が生きてるからかなきっと。……そうなのか…僕が生きてるから彼女は落ち込んでいるのか……。
「今度こそ僕を殺してもう後腐れなくしてよ」
「何言ってるんですか空野君!!」
「あっはっはー。やっぱり空野君は会話していると楽しいねー」
なんでそこは強く否定するのだろう? となると益々分からない。だって僕の中に倒すべきドラゴンがいまだいるからでしょ? それ以外考えられないんだけど?
う〜ん、と唸りながら腕を組んで首を傾げていると、「ねぇねぇ空野く〜ん」と水無さんが呼びかけてきたのでとりあえず保留にして返事をすることにした。
「なに?」
「いやさ、私やエレナの話聞いても驚かないのは何でかなーって」
「だって僕は不老不死なんだよ? 今までのびっくり瞬間をリアルタイムで見てきたんだよ? 驚きなんて感情、もう薄れてるよ」
「そういえばそうだったねー」
「それに」
「え?」
僕が続けるとは思わなかったのか水無さんは聞き返してきた。それを無視する形というかつづけたのだから、僕は言った。
「こんな風になった時に、驚きの大半は持ってかれたよ」
思い出すのは放課後三人で会話していた時の事。空は暗くなっていたけど閉まる時間じゃないからクラスで話し込んでいた時の事。
『なぁ明。お前だったら何願うんだ?』
『モテたいとか?』
『そんな武志じゃあるまいし』
『おいそりゃ俺がモテたいって願望があるように聞こえるんだが?』
『『ないの?』』
『……あるけどよ。ってそれより明だろうが!』
『チッ……僕の願いだっけ?』
『なぜ舌打ちしたし』
『よっぽど聞かれたくないんじゃないの?』
『まぁそうなんだけど……僕の願いは、こうして三人でいつまでも笑ってる事かな』
『……お前らしいな』
『そうね』
『でもそうならないことは分かってるんだ。だからこそ、こんな風にいつまでもいられたらなぁって』
【その願い、叶えてやろう】
『え?』
突如としてすべてが消えた。僕以外誰もいない、完全に真黒な世界が代わりとなって。
辺りを見渡し、二人の名を呼ぶ。だけど返事はない。
一体何がどうなってるのかわからない。僕があそこから消えたのか、僕以外の全てが消えたのかさえも。突然の出来事でなくてもこれは絶対に驚くんじゃないかと今になって思う。
【探しても無駄だ。俺は、お前の願いをかなえるために来た】
『なんで?』
【なんでって……願いを叶えて欲しいからお前呼んだんだろ?】
『叶うんですか?』
【半信半疑だったのか……?】
『信じてませんでした』
そう言うと急に僕の目の前に僕と同じ背格好で、光の集合体が現れた。顔はない。
『誰?』
【いや、俺じゃない】
声の主は違うという。そのままその集合体は何も言わずに僕の目の前まで近づいてきた。
『?』
『……きたい』
【まさか……】
『生き、たい』
口がないのに喋るそれは、いきなり僕の体に入った。
いや、入ったという表現はどうなのだろうかと今になって思うけど、光の集合体は散り散りとなって僕の体に入ったのだからそう表現せざるを得ない。
特に痛みがあるわけじゃない。苦痛を伴ったわけではない。ただするりと何かが入った感じ。粉を振られたみたいな感じがするだけ。
『?』
【……何ともない、のか?】
声が疑問をぶつけてくるけど分からないしそもそも何が来たのかわからないのだから説明できるわけもない。
しばらく体を見ていると、変化が分かった。
手の甲に鱗みたいなものができているのだ。それも、一気に数枚。
『何これ…』
【チッ!】
そう言うと声は聞こえなくなった。
「…野君? 空野く〜ん」
「――――何?」
「いや、説明聞いてたのかなーって」
「ごめんごめん。昔を思い出してたんだよ」
「昔ー?」
「そう。僕が不死者になった時の事」
僕がそう言うと、水無さんが僕の腕にしがみついてきた。小さい胸が当たるけど特に気にならない。その後僕の顔を下から覗き込むように(俗にいう上目遣いかな)して聞いてきた。
「そうなんだー。ね、ね、どんなことがあったか聞いていいー?」
「どうしようかなー」
とりあえずはぐらかす。と、音もなく僕の片腕が消えた。
……痛い。なんか回復する気がしない。腕の方を見ないで、特に痛みを感じてないことに内心驚きながらそう考える。
とりあえずはギルフォードさんに話を聞こうか。
「なんでいきなり腕を切り落としたの?」
「……あ、すいません! なぜかムカムカしてしまいまして……」
「そうなんだ…」
なんか無我夢中だったようだったからもうこの件については触れないでおこう。水無さんが「ひょっとしてエレナ……」とか呟きだしたけどそれについても。
とりあえず腕くっつかないかなって思いながら水無さんに離れてもらって自分の腕を左手で取って右腕があった方へ近づけてみると、まるで手品のようにくっついてしまった。
「「…………」」
「あれ?」
右腕から左手へ放し、右手を握ったり開いたりして感覚を確かめるけど、特に違和感がない。まるで元々あるかのように錯覚してしまうほど変わりなく。
今ほど不死者になったことに感謝を覚えたことはないね。そうじゃなかったら僕倒れてたよ。
この光景を見た二人は足を止め、片方は諦めたような、もう片方は愉快そうに笑った。
僕は振り返ってそんな二人に問いかけた。
「どうしたの?」
「いえ……もう私の使命は無理だなと思いまして」
「実際に見てみるとすごいなーって」
……ていうか、今更だけどこの事知ってるのってこの二人だけじゃない? ランティス先輩は僕の精神状態が不安定な状態を知ってるだけだから。ばれるのかな、ひょっとして。
「二人とも。ちょっといい?」
「何ー?」
「は、はい! なんですか!?」
なぜかテンパるギルフォードさん。その事情に関して与り知らないしそもそも何度も言ってるけど人の気持ちを推し量るなんてできないだよ。なんでテンパってるのかなんて知らないのだから気にしたところでどうしようもない。
だから気にせずに僕は質問した。
「僕が不老不死だって、みんなに言う?」
その質問に、二人は首を横に振った。
「言う訳ないじゃない」「そ、そうですよ。だって――――ですから」
「水無さんはともかく……ギルフォードさん最後何か言った?」
「なんでもありません!」
「ははっ」
よく笑ってるねぇ水無さん。
そんなことを思っていたら、無事下山出来た。
――――っていうのがその時の話。
で、現在は三日後。
「――――ていう訳なんですよ学園長。理解していただけましたでしょうか?」
「……年齢詐称以前の問題だね全く。私より長生きしてるとか」
「僕も不本意なんですよ。学園長より年上なのが」
「で、私に話してどうする気だい?」
「どうしてくれますか?」
現在は放課後の学園長室。僕はババァに学校に来なかった経緯と僕自身の秘密を語っていたところ。
語り終わって僕が首を傾げると、ババァはため息をついた。
「…まぁその理由だったならあんたがあそこまで知っていたことにも納得できるわね」
「ですか」
「ところで、あんたはどうするつもりだい?」
「私はこの学校の組織内トップの決断に従うだけですよ。一生徒としてここにいるんですから」
「ならそれでいいじゃないか。別に今の世界、不老不死だとばれたところで問題ないだろ?」
「どうなんですかね…」
パッと思いつくだけでも色々と命を狙われそうな気がしなくもないから困るんだけど。
「っていう訳だ。あんたそのまま在学しな。卒業したら勝手にすればいい」
「え? それでいいんですか? てっきり逮捕だとか退学だとか言ってくると思ったんですけど」
「退学はともかく、どうして逮捕なんて発想になるんだ?」
「だって年齢詐称に侮辱罪、脅迫罪って色々ありますから」
「……自覚はあるのか」
「それはもう」
頷いたら急にこめかみを抑えだす学園長。そんなに意外でもないはずなんだけど、果たして彼女は何にそんな苛立ちを覚えているのだろうか。いや、苛立ちじゃないな。呆れてる?
しかし在学できるのならば【いいじゃねぇか別に】『僕もう関わりたくない……』勝手に入ってこないでくれる二人とも。
【そりゃ無理だ】『まぁ僕達概念となってるという感じだから』
あぁそう。
で、まぁ気付いてるだろうけど、僕の思考に割って入る奴らが僕の中に居てね。もう最近酷いんだ。神様とドラゴンで、片方は完全に陽気。もう片方は完全に根暗で人間不信で空気。ちなみに【俺】と称してるのが神様で、『僕』と称してるのがドラゴン。今までドラゴンの影響が強かったせいであんなことになってたらしい。
彼らは時々出てきては色々と言ってくる上に喧嘩するから面倒なんだけど、彼らのお蔭で生きてるようなものだから、無碍にも出来ない。
「で、話は終わりかい?」
「あ、はい嘘です」
「何が?」
「いえ、屋上でパーティやろうって話がありまして参加しましょうどうせ暇ですよね? 大丈夫ですランティス先輩のお蔭で生徒会とは話が付きましたから」
「何時の間に」
「昼休みです。で、来ますか? 来ますか?」
「行く一択しかないじゃないか。本当に、やり辛いったらありゃしない」
「ではさっさと行きましょう。色々始まってますから」
「ん?」
僕の言葉に疑問を感じるところがあったのだろう。学園長は首を傾げたけど僕はそんなの気にせず、扉を開けて退出しながら「待ってますよ」と言った。
屋上。
なんかすでに始まっていた。
「ババァとの話し合いは終わったのか空野?」
「終わりましたよー。在学でいいそうです」
「「良かったです」」
「そうだねー」
屋上のど真ん中でシートを広げてお菓子や飲み物などを並べ、それを囲むようにランティス先輩と恵菜さんとギルフォードさんと水無さんがいた。みんな持ち込んでいたものを好き勝手に食べ始めたり飲み始めたりして。
そんな光景を見てふと思う。
僕のあの時の願いは、叶わなかった。けれど、こんな体になって別な形となって実現できた。
出来るなら、この時間が長く続きますよう――――
【ループできるぞ?】『僕は嫌だな』
――――続けられたら、いいかな。
「あ、あの空野……明君!」
あ。ギルフォードさんに呼ばれた。
それじゃ、行ってこよう。彼女のお蔭で、こうしていられるようなものだから。
そう思った僕は少しためてから、笑顔で返事した。
「――なに? ギルフォード――――エレナさん」
感想等は……まぁよろしければ。




