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空気な不死者  作者: 末吉
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 ギルフォードさんに刺された。

 理由は分かる。僕が不死者になった原因の一端に、そのドラゴンが関わっていると疑いがあるから。それだけで僕が刺される理由は無きにしも非ずで実際刺されたりはしないのだろうけど、彼女の中では完結しているのだろう。

 いつものように痛い。いつものように赤い血が流れる。いつもと違うのは、体の力が段々抜けて出していること。

 あれおかしいな? いつもなら普通に剣を抜いて平然としていられるだろうに。どうして僕は本当に死を迎えようとしているんだろう?

 『いやだ』『死にたくない』。でも、いいか。僕、大分長生きしたから。きっとこれも天命だよ。

 【死ぬか】【まぁ致し方ないのかもしれないな】。思えば走馬燈では思い返せないほど色々あったなぁ。本当に。僕それほど関わってないけど。

「ごめんなさい空野君――いえ、メイ。私のために色々と手を貸してくれたのに、こんなことして」

 膝から崩れ落ちた時に彼女の泣き顔が映る。

 だから悲しそうな顔をしてたんだ。そんな考えを最後に、僕の意識はこの世界を認識しなくなった。



 僕が不死者になった理由は知らない。ただ、僕達高校生の間である儀式が流行っていたのがきっかけだったことは違いない。

 黒魔術【召喚】の儀式。どこから流れたのかわからない、だけどこれを行ってそれに願うとそれは必ず願うといううわさが広まっていた。

 やった人たちはたくさんいるだろう。そしてそれがガセネタだということは身を持って知っていたために次第に忘れ去られていったはず。

 だが、僕達田舎の高校生の間ではそう言った噂が新鮮さをもたらすために検証する人たちがたくさんいた。勿論、僕と幼馴染の二人――武志と弥咲も。

 まぁ実際そんなの誰も信用してなくて、ただの遊び半分でやってたものなんだけど。

 あの時は……どんな状況だったかな。少なくともいつやるか話していた時だったかもしれないし、調べてやるぞという時だったかもしれない。僕達三人が一緒に放課後の学校に残ってそんなことを話していたことは確か。

『しかしなんだってこんな儀式で願い事が叶うなんて言われているんだろうな』

『さぁ? 案外本当に願い事がかなうんじゃないかしら?』

『だったらいいね』

 武志は胡散臭そうに、弥咲は肩を竦め、僕は笑って言う。いつもの光景だ。

『てか、本当に叶うんだったなに願うよ?』

『私? そうね……永遠に綺麗に居させてください、かしら?』

『お前いうほど綺麗じゃねぇだろ』

『なんですって!? そういう武志はなんだっていうのよ!』

『俺は……やっぱり億万長者か?』

『あんたは借金抱えて生きるのがお似合いね』

『んだと!?』

『はははっ。まぁ二人とも落ち着いてよ』

 いつも通り喧嘩を始めた二人を僕が止める。教室の外は暗くなっているのに気付いたけど、まだ時間があったために僕達はいた。

 二人は僕に向いて訊いてきた。

『『あんた(お前)は何を願うの(んだ)?』』

『息ピッタリだね』

『『いいから答えろ』』

 ……そう言えばどうしてこれを思い出しているんだっけ? いや、そもそもどうして思い出していると思ってしまっているんだ?

 僕は「意識」を失っているはずではないの? どうしてこうも記憶がよみがえるの? 死んだんじゃないの?

 ……『痛い』『死にたくない』。『僕』はただ、『静かに生きてた』だけなのに……

 聞こえた。死んでいるはずの僕の意識に。僕達があの時遭遇した「何か」の叫びが。

 『もう関わらなかったはずだ』。なのに、『なんで彼女』は『こんなことするの』……?

 聞こえる。「僕」の中にいる「何か」の泣き声が。絶望し、嫌になり、放り出したはずなのに来たことに対しての涙が。

 『僕』はもう『何もしてない』。ただ『住んでいるだけだ』。それでも『居てはいけないの』? 『存在してはいけないの』?

 その「声」を聞き取った時、僕は「何か」の近くにいて――――

「がはっ」

「!? ど、どうして!?」

 ――――戻ってきたと同時に血を吐く。

 痛い。『痛い』。剣は抜かれていたのか何やら胸がスースーする。よくこんなのでこんな風にいられるね。普通の人なら死んでるだろうに。

 【まぁ普通じゃないわな】【俺がいるんだから】。

 陽気な声が「僕」の意識の中を奔る。先程までとは別な声。正直気になるけど、今はバッサリと切り捨てる。

 驚いているギルフォードさんの姿を瞳孔の開き具合が怪しい目で確認できた僕は、「何か」の「声」を代弁した。

「……僕は、もう……なにも、してないよ? ……どうし、て?」

「そ、それ、は……」

 彼女は恐ろしいものを見る様に後ずさる。全身が震えてるような気がしなくもないけど、僕はよく見えないので後ろに下がった音だけが聞こえたからそう判断した。

「迷惑……した? ひどいこと、した?」

「あ、あっ……」

 何かがこすれ合っている音がすごく聞こえる。なんだろうかこの金属音は。聞いたことあるような気がするしないような気もする。

「痛いよ……痛い、よ……」

「あ、あっ、ああアァァァァ!!」

 もう僕に言える言葉はない。ぐらりと前のめりに倒れ込んだ体に切りかからんとするギルフォードさんの姿を見て、誰に言うのでもなく頭の中で「ダメだったよ」と謝っておく。

 ガキンッ、という音が聞こえた気がしたけど、僕の意識は再びここを認識できなくなった。




 『いやだ』『死にたくない』。【まぁ誰だってそうだろうがよ】。【俺たち】は【もうすぐ死ぬだろうぜ】? 『いやだ』! 【ダダこねるんじゃねぇよ鬱陶しい】。

 そんな争いが流れ込んでくる。僕は何も言葉にできない。反論も、賛成も、話題転換も、質問も。

 【大体よ】……【もう二千年生きてるんだぜ】? まだ【生きたいのか】? 『……』。【おいおい黙るんじゃないって】【宿主はともかく、お前は黙るなよ】。『…なんでさ』。

 ――――あの時、なんて答えたんだったけ僕は。武志と弥咲の質問に。

 【いいか】? 【俺達一柱と一匹】は【宿主の魂にすべてを預けてるんだ】。【宿主の体】が【機能停止になったら】、【俺達は消滅する運命なんだよ】。【あの時から、いつかはこうなることが決まっていた】。

 『僕たち』は『不死身』だ。

 【あぁそうだな】。【俺たち】は【不死身】だ。【でもな】、【宿主】は【人間なんだ】ぞ。

 『さっき魂にすべてを預けた』と『言ったじゃないか』。

 【お前も分かってるだろ】? 【今俺達】が【消滅するのを】。【それが答え】だ。

 『なんでさ』。

 思い出せない。抜けていく。僕の意識からすべてが。経験も、感情も、記憶も、「僕の中」にいた「何か」達も。

 【また会おうぜ】。【今度は堕ちるなよ】。

 『答えろ』……よ。


 なんだった、の、か――――――――










「どうして、死んでないのですか?」

「…………」

「どうして、心臓が動いているんですか? 私は、あのドラゴンを倒すためにあなたの心臓を刺して抜いたんですよ? なのになんで穴が塞がって心臓が動き出しているんですか?」

「……それがこの宇宙を作った神様の力だよ。エレナ」

「……ダスト、さん」

「空野君はね、私達が生まれるずっとずっと前に生きていた人間なんだよ。私達と交流する前から今も生きることになった、ね」

「それは、知ってます。私達の悲願の相手が不老不死ですから」

「ドラゴンだけの話じゃないよ。ここを作った神様の力も合わさっていたんだ、おそらく。彼の中で。だからというか、正直なところ私も推測の域から出ないんだけど、空野君の中にあった力がエレナのアレですべて消えたんじゃないかな。空野君を残して」

「……ですか、ね」

「ま、起きてもらえばわかるんじゃないかなー」

「う、うぅ……」

 なぜだろう。なぜか僕はうめき声をあげることができた。一体なぜか。そんな思いが渦巻きまくる。

 僕はどうしてこんなところにいるんだったか。ていうか、なんで僕はうつ伏せになっているんだ? あと、なんかすごい寒い。そして、聞こえる声がどちらも懐かしさを感じる。

 誰だったかな……たぶん、ギルフォードさんと、水無……さんかな。多分。自信がないし僕がどこにいるのかわからないから何がどうなったかまるっきり分からないんだけど。

 【――――なんでだろうな】。

 『何が』?

 【俺達】『あぁー』【消えなかったな】『そうだね』。

 ……? なんか「声」が意識の中で流れた気がする。一体何を考えてるのか僕自身によく理解できてないんだけど、確かに意識の中に「声」を感じた。「僕」以外の。

 まぁとりあえずなんか意識があって体が僕の指示で動くのだから、目を開けて体を起こしてみよう。起こせば全てが分かるかもしれないから。

「……ん」

「「あ」」

 二人の驚く声が聞こえる。僕が目を覚まして体を起こそうとしてる時。

 なんだか体に力が入らない。きっと他人の体を動かすときってこういう感じなんだろうかと思考に余裕はありながら、僕は必死に腕に力を入れ、足に力を入れ、首に力を入れて起き上がろうとするけど中々起こせない。

 こりゃ転がった方が早く起こせるんじゃないかと思い立った僕は、頑張って体を左右に揺らそうとしたところ、両脇から腕をつかまれて簡単に起きれた。

「……えーっと」

 頑張って首を左右に振って、誰が起こしたのか確認する。

 右側は水無さん。さっきで会った時と同じ服装で、違う点といえば腰にホルスターがあること。

 左側がギルフォードさん。さっきまで一緒に行動していた服と違い、金色に輝く鎧を着ていた。

 というか暗い。なんか月が昇ってる。後寒い。すごい寒い。なんで水無さんこんな寒いのに平気なの? 僕なんて全身鳥肌立ってるのが良く分かるよ……って、

「ひょっとしてここ、山の上? え? なんで僕山の上にいるの?」

「「……え?」」

 なんか両脇の人たちが不思議そうな声を上げていたけど僕には関係ない。なんかその拍子に放されて今ガクガクの状態で立っているのも少しばかり気にならない。

 現在位置が山の上。しかも夜。まだ五月。そして僕以外にも二人。

 僕は不死者だからどこを通っても帰れる自信はあるけどそもそもどこにいるのかわからないからもうこれって完全に

「遭難したんじゃないのこれ!? どうすればいいのさ全く!」

 そう叫ばざるを得ないよね。本当。


 あ。普通に帰れたよ。水無さんとギルフォードさんと。富士山貸し切ったといわれた時には驚いたけどね流石に!


次回、ラスト

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