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僕がレストランで適当に頼んだ料理の味は……不味いという訳ではないけどうまいの? と聞かれるとそうでもないとはっきり答えられるぐらいの味。まぁ微妙だねって感じです。正直ね。
で、食べた後僕達は店を出てどこへ行こうかという話になり、最終的になんかお化け屋敷行こうってことになり、提案した本人がお化け屋敷で悲鳴を上げ続け僕だけ平然と、むしろけだるそうに回っていたからあちら側が本気になっていき……のループを出るまで繰り返した。色々なことをして僕を怖がらせようとして逆にギルフォードさんが泣き出しかけたものだから、脅かす側も相当大変だっただろう。
で、今はジェットコースターに乗った後。「あんな怖いものに比べたら絶対大丈夫なはずです!」とお化け屋敷の後に宣言した彼女は何を思ったのかここの名物ってパンフレットに書かれていたジェットコースター乗り場まで移動して乗り込み、名物の時速四百キロストレートで気絶。終わった後仕方ないので彼女をおぶって僕は近くのベンチまで移動した(その時の係員の人の顔がなんか驚いていたけど)。
なので現在休憩中。
「いつになったら起きるか分からないから席を立てないしなぁ」
誰用に作ったのかわからない長いベンチに寝かせ、その近くで座る僕。寝かせた彼女はスヤスヤと眠っていた。気絶した後そのまま。
これじゃぁ何もできないね。そんなことを思いながら僕はぼんやりと人ごみを眺める。
こうして見ているとみんな楽しそうだね。いや、楽しいんだろうな。なんか、『懐かしい』。こうして『みんな』を『見る』と、『昔』を思い出す。
「………ん?」
違和感を持つ。なんだろう。今一瞬だけど僕じゃない『何か』の思考が混ざったような…………
「あれ? 空野君だー。どうしたの? ギルフォードさんとデート?」
「あれ、水無さん? ひょっとして遊びに来たの?」
っと。悩んでたら水無さんに声をかけられたよ。一体僕に何の用なんだろう。というか彼女は一人で来たのだろうか。
突如現れた水無さんについて憶測をしていると、「友達と来たんだけどはぐれちゃってねー」と快活に笑いながら答えてくれた。
「そうなんだ」
「そうなんだよー……だからさ、隣いいかな?」
「え、うん」
「ありがとーこれで友達に探しやすくなるよー」
そう言って僕の隣に座る水無さん。いやまぁ座るスペースが空いてるからいいんだけどさ。どうしてなんだろうね?
「ねぇ、水無さん」
「そういえば空野君さー。どうして学校休んでたの?」
「えっと……」
いきなり切り込まれた質問に答えに窮する僕。だって単純に不登校になった原因が気持ちの落差のせいなのに。言いづらくてかなわない理由なのに。一体どう答えたものか……
「う……」
「「あ」」
考えてたらギルフォードさんが声を発したので、僕達はそちらの方へ向く。すると彼女は体をゆすりながら瞼を開け、状況を認識し、次いで僕の顔を見て、固まる。
「…………え?」
体勢そのままで呆けた声を上げる。僕は反射的に頬を掻きながら、どう答えたものかと思案しながら、視線を逸らす。
なんというか、ねぇ? なんか気まずいんだよね今。ほら、寝起きの顔を凝視された恥ずかしさと見ちゃったという恥ずかしさで互いが互いを意識する感じだろうと思うけど一度もそんなシチュエーションになったことあったな確か。そんな感じだと思う。
まぁ、水無さんには関係なかったみたいだけど。
「あ。エレナ起きたー」
「……ダスト、さん?」
どうして彼女がいるのかわからず疑問符を浮かべるギルフォードさん。そしてさっきの事を思い出したらしく隣の僕を気にせずに慌ててベンチに座りなおそうとして。
「あっ」
「っと」
彼女がベンチから落ちそうになったので僕は正面から受け止めた。……ていうか、この体勢ちょっときつい気がする。
「すごいねー今空野君の行動が見えなかったよー」
「そう?」
内心自分でびっくりしながらも、水無さんの言葉を素っ気なく返す。
僕ってこんな速く動けたのかねなんて今の行動で不思議に思ったけれど、まぁ人間必死で咄嗟になれば何でもすばやく出来ると思ったのですぐさま霧散した。一方のギルフォードさんは驚いていたけど。
僕は彼女の肩をつかんでベンチに座らせ、先程まで座っていた場所に座りなおそうと思ったけど遠慮してギルフォードさんの左隣に座りなおしたら水無さんが「ちょっとーどうして真ん中に座らないのー?」と文句を言ってきた。
傍から見ればなんか両手に花状態だからだよっ! そんな言葉が思い浮かんだけど無視し、僕は「友達に連絡したの?」と訊ねる。
「え……あ、あーそうだったねー。ちょっと連絡してくるよ」
「別にここでいいよ?」
「はははっ。デートの邪魔しないって」
そういうや否やすぐさま人ごみに紛れてしまった。彼女は一体どうしてあんなに慌てていたのだろうか。ていうか本当に友達と一緒に来ていたのかな?
まぁ、結局僕たち二人になったし、別に気にしなくていいのかなと思っていると、「で、デート…」と呟く隣の人。おそらく顔を真っ赤にさせているのだろう。
さて次はどのアトラクションへ向かおうかな。回復した彼女を連れまわす気満々で、僕はパンフレットを広げた。
一足飛びに時間を飛ばし……というかあの後ギルフォードさんが「そろそろ帰りますか?」と聞いてきたので中須ハイランドから出てきたところ。
「結局怖いアトラクションしか行けませんでした……」
「ていうかそれがない遊園地もあるんじゃないの? そっちにすればよかったじゃん」
「……え、そうなんですか?」
「調べてないね、ひょっとして」
「え、えぇっと……はい」
バスを待ちながらそんな会話をする僕達。ちなみに現在時刻は午後二時四十七分。バスが来るまであと三分。
僕の指摘に正直に答えた彼女を見て、僕は苦笑しながら「ありがとう。今日は誘ってくれて」とお礼を言った。
「え、い、いえ。大したことしていませんよ」
「気分転換に誘ってくれたんだよね? 僕があんな状態だったから」
「………………はい」
なぜか間があったけど僕は気にせず、「帰ったら料理作らないとなぁ」と呟く。すると彼女はその言葉に反応し、「あ、あの!」と声をかけてきた。
「何?」
「え、えっと、お、おおお時間ありますか? あ、あるのでしたらちょ、ちょっと行ってみたいば、場所があ、あるんですけど!!」
なんていうか、癒されるなぁ本当。真っ直ぐで健気で。『昔』の『彼女』を『思い出す』よ。『思い出す』からこそ、『僕』の『中』で『何か』が『渦巻く』んだよ。
胸中でなぜかそんな思いが渦巻き始めたことを無視し、僕は笑顔で「いいよ」と答えた。
「……それじゃ、この国の霊峰、富士山へ行きましょう!」
「え? また随分と思い切ったね」
「言い出せなかったんですけど、今日は貸し切ってたんです」
「……へ?」
なんかとんでもない言葉が聞こえたので僕は思わず聞き返した。聞き間違えじゃなければ富士山を貸し切ったとか言ってたような……いやまさかそ
「富士山貸切を四時あたりから出来たので、いいですよね、空野君?」
「……えーっと、はい」
一体どうやって貸し切ったんだろう。
そんでもってきました霊峰・富士山山頂。いやーまだ日は沈む前だけど夕日が綺麗だね。若干肌寒いけどさ。
ちなみに富士山活火山から……なんだっけ。えっと活火山の反対……反対……あ、休火山だ。休火山になりました。そりゃそうだよ。千八百年近く前に噴火しまくったんだから。
で、世界遺産に登録されて以降観光客増えたりごみが無くなって綺麗になったりして、何故かこんな風に貸切も出来る様になりました。実際貸し切った人が近くにいて驚きですよ。
「綺麗ですね」
「そうだね」
『心』が『洗われる』。『この世界』にも『こんな景色』あったのか。流石は【力】の【集積場所】。【いつもより】【回復する速度】が【速い】。
それにしても寒い。こんな軽装で来るものじゃないねこのぐらいの高さでも。ギルフォードさんは涼しい顔してるけど、さ。
一体どうやって温まればいいのかなと腕を組んで歯を鳴らしながら考えていると、隣にいたギルフォードさんが「――空野君」といつもと違う真剣な声で呼びかけてきたので思わず振り返り、息を飲む。
なぜなら、彼女の服装が先程と変わっていたから。
いつもあの山頂で出会う服装ではなく、ピカピカに光る黄金の鎧。しかも腰に剣をさしている。全てが夕日に反射して眩しい。
眼鏡もなく、その眼は澄んでいるにもかかわらずどこか『怖かった』。
いつもの雰囲気とは違う彼女を見た僕は、自分自身でも知らずに声を震わせて彼女に問いかけた。
「い、一体、どういうつもり?」
「――――空野君」
声はいつもと変わらない。ただし気迫があり、気概があり、緊張がなく、切なそうな雰囲気を混ぜ合わせて。
対峙して動かない僕達をよそに太陽は沈む。空が暗くなる。星が輝き始め、月が顔を出す。ただしそれは富士山からすると下の方からかもしれない。少しばかり暗いから。
『あぁ』【寒くなってきた】。『もう少し』【あったまろう】。
急に体の芯から温まる。自覚せずにポカポカと。
違和感が違和感として存在するにもかかわらず、現状の理解が先だと思い後回しにする。
しばらくして、彼女は口を開いた。
「教えてあげます。私の正体と、この状況の理由を」
一拍置いて、彼女は言った。
「昔々。ある世界に変わったドラゴンが存在しました。そのドラゴンは人間たちに力を貸し、毎日を楽しく暮らしていました。そんな彼を人間たちは崇め、平和な時を過ごしておりました」
突如始まる昔語り。なぜいきなりと思っていると、急に心臓の鼓動が大きくなったことに驚く。
「そのドラゴンは争いが嫌いでした。だけどあるとき争いは起こってしまったのです。そのドラゴンはどうすることも出来ず、自分で両方を滅ぼしてしまったのです。殺してしまった後、自責の念に駆られたドラゴンはひっそりと暮らしていましたが、あるとき人に襲われ、堕ちてしまいました」
心臓の高鳴りが酷くなる。痛みが生じ、とっさに心臓をつかみながら苦痛に耐える。
「そのドラゴンは二千年もの間悪逆の限りをつくしましたが、ある一族が倒す一歩手前まで追い詰めました。にも拘らず、その一族の目の前から消えました……それが、知らないでしょうけどエリタール世界にある伝承の真実です。そして、私はその一族の末裔なんです」
「……そ、う…なんだ」
かろうじて返事をする。なんとなくその話によって、どうしてこんな状況になっているのか推測がたてられた。
そして、彼女がどうする気かも。
「勝手ながらあのとき家を探索させていただきました。その時に見つけてしまったんです。空野君の、二千年に及ぶ日記を」
「…………」
はははっ。見られたか、僕があの時から書いていた日記を。不死者になった時から書き始めた、今までの記録を。
言葉に出さずにいると、彼女は悲しそうに微笑んで
「ありがとう、ございます。そして、さよならです」
僕の心臓を、腰に差さっていた剣で貫いた。




