23
22は午前五時からになります。
「着いたね、ギルフォードさん」
「……」
だんまり、ね。どこで気分を害したんだろうかいや元から気分を害していたんじゃないだろうかひょっとして。だとしたらどうして僕を誘ったのだろうかと思ったりするのでそれはなしとするとして、やはりどこかで気分を害したんだろうね。どうやって謝罪すればいいんだろうかやはりここは全身全霊の土下座をしたところであちらの方が申し訳ない気持ちになるだろうから……
「…………」
「あ、あのそ、そそそ、空野君。私達、め、目立ってます、よ…?」
「……え?」
言われて気付く。僕達の前に人だかりができていることに。
いやまぁ仕方はないけれどね。だって僕達、入口の前で立ちっぱなしだから。
僕は視線に多少耐性ができてしまったから何ともない気がするんだけど、なんかギルフォードさんが縮こまってる気がする。
こればっかりは仕方がないか。なにやらビクビクし出した彼女を見てそんな感想を抱いた僕は、自然に彼女の手を握る(・・・・・・・)。
「あ……」
「行こうか、ギルフォードさん」
「は、はい……」
彼女の手から体温が上昇してるのが伝わる。それに伴ってはないけど自分自身の心臓と共に顔が赤くなるのが分かるので自意識で抑える。決して顔に出さないように。面に出さないように。
「学生二人でお願いします」
ギルフォードさんの手をつないで僕が前を歩いているのでチケットを買うのが自然と僕の仕事になる。料金的には僕はとっくに老人だけど見た目が高校生なので詐欺だと言われても仕方がない。書類上も高校生だから詐欺にならないけど。
すると受付のお姉さん(土星人)が僕達を見て微笑ましそうな笑顔を見せて「3,000円になります」と一切の値切りなしに料金を提示してきたので僕も笑顔のままで手提げカバンから一枚のカードを取り出して渡す。
そのお姉さんはそのカードを受け取って機械にかざし、引き落としが確認できたら返してくれたけど、その笑顔が何故か少しひきつっている。
そんなにおかしいだろうかとチケットと一緒に受け取りながら「ではお楽しみください」と言葉を受けても内心で首をひねっていた僕は、それすらも表に出さずにギルフォードさんの手を握ったまま中須ハイランドへ入った。
久し振りにこういう施設に来てみたけれど、なんというかまぁアトラクションが多いね。パンフレットももらったわけだけど、見た感じ定番+色々なところから持ってきたアトラクションで構成されているみたいだ。僕はこういうところに行ったことがないから初めてということになって結構入ってテンションが上がりかけているのだけれど、誘ってくれたギルフォードさんが何か言いたげな雰囲気をさっきから出しているので抑え、とりあえず質問する。
「ギルフォードさん」
「は、はいっ!」
「どうかしたの?」
「え、えっとですね、その…………手」
「て?」
「は、はい。手を、ですね……」
そこまで言われて僕は気付く。ここに来てから彼女の手を握っていたことに。
「あ、ごめん」
「い、いえ! こちらこそすいません!! …………でしたけど」
「え?」
「な、何でもありません!!」
そう言うと彼女は僕の隣に移動し、パンフレットを広げ、「どこにしますか最初?」と聞いてくる。
いやまぁ横に移動するのは構わないしどこへ行くか相談するのもいいんだけど、立ちながらやるってなると人の視線を結構受けるものじゃ……ないようだね。他の人たちも結構やってる。目立たないっぽい。
ならいいかと思った僕もパンフレットを広げ、適当に「ここにしない?」と指をさす。
「え、えっと……グランド・マウンテン、ですか」
「ほら奥の方にある山っぽい場所。あそこでやってるジェットコースターというか知覚型恐怖トロッココースターというか。そういうものらしいけど」
「無理です!」
即答するギルフォードさん。よっぽど嫌なのだろう怖いものが。
でもそうなるとここに来た意味なくなるんだけどなーとパンフレットを見た限りの考えを抱いていると、「ここにしましょう!」と元気がいい返事が返ってきたので僕は彼女が示した場所を見る。
「ハニーカップ?」
「はい! 妖精たちが飛んでいるのをモチーフにした疑似飛行体験です!! こっちの方が断然怖くありません!」
いや恐怖系除いたら本当にここにいる意味が薄れるんだけど……なんて思ったけど口に出さず、僕は「それじゃ、行こうか?」とパンフレットをしまいながら促した。
そのギルフォードさんおすすめのハニーカップへ行く道中。僕達は結局歓談ができたわけではなかったというか彼女が話しかけてくることがなく、僕自身があんまり話さない為少々初々しいのではなく冷め切った感じで歩いてた。
弁明というには情けない話だけど、僕は彼女と話そうと思えど周囲の視線のせいか彼女が顔を赤くして俯いているために声をかけられずそのまま放置するしかなかったのだ。だから歩幅を合わせて歩くことぐらいしかできなかったんだ僕。情けないことは重々承知。『知っている』からこそ『できない』。
これは全くいかんともしがたい問題だ。どうするべきか考えることもなく、どうしようと悩むこともできない。出来ないことをやろうとすら思えない自分に少しばかり嫌気がさす。
そんな感じで着いたアトラクション、ハニーカップ。さっきギルフォードさんが言った通り擬似的に飛行魔法が体験できるというものである。一回五分で四百円。
安いのか高いのか良く分からないけどそれなりに人気があるおかげか列ができており、待ち時間が一時間ほどになっていた。
「どうするの?」
堪らず僕は尋ねる。いや開場したばかりだというのに結構人がいてうんざりしかけているからだけど。
その僕の問いに彼女は顔を上げ言ってることを瞬時に理解したのか「そうですね」と首を傾げてパンフレットを広げた。それにつられて僕も広げる。
ちなみにその長蛇の列には並んでいない。おそらくだろうけど僕が失神し、彼女もあまり居心地がいいわけではないだろうから。
「少し早いですが、お昼にしましょう。そして考えましょう」
「早いというか、まぁ定時な訳だから別に大丈夫じゃないかな」
すぐさま決まる僕達の行動。やはり目の前のアトラクションをやろうとするのは人見知り組には精神的にクるもののようだ。僕は思いっきり来るけどね! 未だに慣れないよ本当に!!
そんな感じで僕達はここから近いレストランへ向かうことにした。無論、二人の間に会話などなくて。
向かっている間、僕はもうギルフォードさんの事を気にせず人を避けて進みながら考えていた。
それにしても彼女はどうして誘ったのだろうか。どうして僕の事を看病してくれたのだろうか。どうしてこの場所なんだろうか。どうして何も言ってくれないのだろうか。どうして――――
――――そんなに悲しそうな顔をしているのだろうか。
考えたところで様々な予想が思い浮かんでは消える。が、確証がないしそもそも人の心など読むことができないので考えたところで無駄なんだけど、それでも考えたくなるのが人の性な上に自分の習性の一つなのでどうすることも出来なくはないけどまぁ不思議を不思議ととらえて考えてる訳なのだけど。
あーだめだ。言い訳しようにもできない。正当化しようにもうまくまとまらない。何があってどうしてこうなったのだろうかというのが自分でもよくまとまらない。
思わず頭を掻きながら葛藤していると、「どうかしました?」と彼女が聞いてきたのでやめ、「ちょっと頭がこんがらがっただけさ」と答える。
「大丈夫ですか?」
「うん……ちょっと考えすぎたせいかな」
痛みはないけどどこか頭の中がすっきりしない。何か違和感を感じてる感じ……とはまた違う。うん本当に良く分からない。
なんだろう。何かがおかしい。『僕』の中の、何かが。『自分』とは違うだろう、『何か』が。
嫌な予感がしたために僕はこれ以上考えるのをやめ、精一杯の笑顔で「気にすることはないから大丈夫だよ」と安心させようとしたけど無理だった。逆に不安を煽ったようで、またもや悲しそうな表情を浮かべた。
どうして今日はこんなにそんな表情を浮かべるんだろうと疑問に思った僕は自然と彼女を心配した。
「大丈夫?」
「私は…大丈夫です」
「そう? さっきから何か悲しそうな顔をしてるからさ」
「大丈夫です! さぁ、行きましょう空野君!!」
「あ、ちょっと!」
僕の質問に対し即答した上に僕の手を引いてレストランへ向かうギルフォードさん。その顔に張り付いてる笑顔の裏に一体どんな感情を抱いているのか僕にはわからないけど、握る手の強さからして何かに耐えているようだった。
緊張とか言ってられない状態のまま僕達はレストランへと到着。お客さんはそれなりにいて満席とはなってないためにすんなり席に座れた。
「どれにしますか? 入場料を払ってくれたので、お礼に私が払いますよ?」
「いいよいいよ気にしなくて。まだ財布に余裕があるし、何より女性に払わせるのは気が引けるから」
「でもそれじゃ悪いですよ……」
「はははっ。僕がいいんだから行為を無碍にしちゃダメだよ。それに、誘われたからね、僕は」
「誘った側がお金を払うんじゃないんですか?」
「じゃぁ男子の見栄だと思ってくれればいいさ」
「ですか……」
そんな感じで僕達は向かい合ったテーブルでメニューと睨めっこをする。けど、僕が知っている料理がほっっっっとんどない! 驚くほどにない!! かろうじてソフトドリンクだけなら知ってるけれども!
何か食べられそうなものというかおいしそうなものないかなぁとめくっていると、「決まりました?」と聞いてきたのでメニューを見ながら「まだ決まってない」と簡潔に答える。
「意外ですね」
「そうかな?」
「はい。すぐに決めてぼんやりと待っている感じがします」
「それは買い被りだよ」
「……で、決まりました?」
「まだ」
早く決めてくださいね。そう言われた僕はパラパラとめくって適当に目についたものを適当に頼むことにした。
「うん決めた」
「じゃぁ私が呼びますね。すいませーん!」
こうして僕達は昼食の注文を始めた。




