22
泊まった三人を翌朝に洗濯物を返すと共に見送り、食材の買い出しをした次の日の休み。
僕はギルフォードさんに誘われ転移停近くで待っていた……朝九時に。
いやー早いね。自分でもびっくりだ。集合時間まで一時間あるというのに。完全に年寄りの体感だね本当に。本当に驚いている。
「…………とりあえずネット使ってパスに追加したから大体の場所には行けるようになったけど、もう五月なのにここら辺は未だに寒さが残ってるしねー。流石は東北だ」
ブルルと体を震わせながら呟く。まぁ実際そこまで寒いわけじゃないのだけど、体感温度的にひんやりとしているからそう言っているだけ。
というか僕は一時間も何をする気なのだろうか。本当に今更ながら、自分の行動に首を傾げる。
事の発端は単純に三人を見送った後の事。
何気なく携帯電話を覗いて着信履歴を見たら、僕が聞いた最初の音から二日間ほどで――約数十回着ていたことに驚いた。それ以降はぱったりなかったけど。
悲しいわけではないけれど、集中してきたものだから物足りなさを感じたりしてたりするのは置いといて。
で、見送った後食材買いに転移停でちょっとそこまで飛んで買いものしていると、電話があったわけ。『明日の午前十時にいつもの転移停前に来てください』って。そんな感じ。
「――で、早くついて暇だからこうして雑草を抜いて待っているけど、辺りの雑草は完全に抜き終ったしこうして積んでしまったし食べれるから持って帰ろうかなぁと思ったりしてるけどその間にギルフォードさん来そうだなとなんとなく思ったら本当に来たりしちゃ」
「ヒャッ! そ、空野君!?」
発言は現実に起こる。フラグと言う概念が見事に成立し終わった瞬間だった。
まぁ来てしまったものはしょうがないよね。僕は楽しみで楽しみで楽しみで楽しみでこうして集合場所で暇をつぶして待っていたぐらいだし。
でも彼女も早いよね。三十分前だよ。でも普通かな三十分前行動は。僕達の時代も自然とそんな感じだったし。きっと彼女も楽しみだったわけではなく、誘った手前相手より先に来ようと思っての自然な行動としてこの時間帯に来たんだろう。というか僕三十分も雑草を抜いていたのか道理で周囲から雑草がなくなってる訳だよ自分でびっくりだ。
そんな得にもならない、むしろ自分の気分を落とす考えをしていると、彼女がおずおずと申し訳なさそうに言った。
「やっぱり……嬉しくありませんでしたよね」
「そんな訳がない!」
「ひゃっ!」
彼女が自己否定をし始めたので大声で遮る。無論そんな彼女は驚いたけど、僕はそんなの気にせず彼女に伝える。
「僕は今までこいう誘いが一回もなかったんだ! そんな僕がギルフォードさんから誘われることをうれしくないと思うなんてありえない!!」
「そ、そうですか……。なら――――です」
「ごめんなさい」
「なんでですかっ!?」
嫌な予感がしたのですぐさま土下座。さっきまでの空気すらぶち壊すスピードはまさに神速。
ふっ。見たかこれが不死者の土下座(No die Dogeza)だ! なんてカッコつけてみましたが単純に怖いだけです。とんでもなく小さい声で何か言った気がして俯いて顔上げなかったからこれは何か不味いことしたんだろうなと直感して土下座しました深い意味はありません!
けどすぐさまツッコミが返ってきたから大丈夫かな…少し安堵した僕は立ち上がりながらそう考えていると、彼女が小さく笑っていた。
「どうしたの?」
「いえ、いつもの空野君に戻ったみたいだなぁと思いまして」
「いつもって、どのときの? 僕は僕であるけども、通常時がどれかなんて自分でも決めてないから分からないんだけど」
「私の中ではこうやって難しい言葉を使う空野君が『いつも』なんです」
「そっか……これが『僕』なのか」
「はい」
「「…………」」
風がヒュゥと吹く。それによって運ばれた冷気が薄着の僕達の肌に直撃し、互いに体を震わす。
「…少し早いですけど、行きましょうか」
「えっと……どこだっけ? 聞いた覚えがないんだけど」
「……あ。言ってませんでしたね」
そう言うと、彼女はニコリと笑って場所を教えてくれた。
「遊園地です!」
何故かその笑顔に、僕の心臓が少し高鳴った。
「遊園地ね……行ったことないね、どこにあるの?」
「山口県萩市ってところに出来た、中須ハイランドです」
「あー山口県かー。久し……じゃなかった。そんなの出来たんだね」
危うく久し振りだって言うところだったよ。僕一回も行ったことがないだろうって思われているのに。
いや思われているって考えるのはどうなんだろうか。別に久しぶりでもよかったんじゃないだろうか。
僕がどこの出身なのか、誰も知らないのだから。
……まぁ別にいいけどね。そんなこと考えたところで誰にも知られるわけじゃないし。
「どうかしましたか?」
「え、いや別に。とりあえず山口県萩市だっけ?」
「はい」
確認を取った僕は携帯電話を内ポケットから取り出して「ネット」の項目をタッチする。
え〜〜っと確か山口県萩市はっと……あった。パスポート入力サイトに飛んでその間にパスポートを手提げカバンから取り出し、ホログラムで現れた登録開始にかざす。
たったこれだけでパスポートに場所の登録完了。今まで三か所しか登録してなかったけど、今では地球ならどこへでも行けるし。ま、使う予定はないけど暇な時に一人で行こうかなと思ってね! …うん一人で
「はぁ」
「どうしたんですか?」
「なんでもないよ」
「……また、隠し事ですか」
露骨に悲しそうな顔をするギルフォードさん。どうやら、僕が隠し事したことに対し何やら嫌悪感を抱いている様子。おそらく僕のアレを見たからなんだろうけど、どこまでも他人本位なんだなぁと感心しながら苦笑いして「大したことないよ。地球ならどこへでも行けるけど、一人でしか行かないなってだけ」と説明した。
まぁここで一言付け加えておくと、僕は地球上を旅した(せざるを得なかった)ことがあったためにもはや言ったことがない国はないと言っても過言ではない。最終的にここに落ち着いてそれからずっと住んでいるけど、それまではぶらぶらと旅していたんだよ僕。暇過ぎて。言葉なんて現地で何とか覚えたね。ギリギリでこてこてになってはいたけど、みんないい人だった。
よく老人が『昔の方がよかった』っていうけれど、まぁ確かにそうかもしれない。今よりいいところがたくさん昔にはあったし、なによりとんでもなく平和だったから。
あぁ今が平和じゃないという訳じゃないよ。ただ、過去を通じて生きてきた僕としては――昔は結構、ね。
なんか昔に想いを馳せてるなぁ今。そんなことを思っていると、「あの」と声をかけられたので我に返る。いや大分考えてたようだ僕は。あっはっは。
「ごめんごめん。じゃぁ行こうかギルフォードさん」
「はい……」
こうして、僕達は遊園地のある萩市へ行くことになった。
萩市の転移停についた……けど、ここで思わぬ問題が発生した。
「ねぇギルフォードさん」
「…………」
「ギルフォードさん?」
「……あ、はいなんですか?」
「いや、中須ハイランドまではここからバスか徒歩で向かうしかないんだけど……徒歩だと二時間ぐらいかかって、バスだと丁度行った後みたいで十分待たないといけないみたいなんだ」
「え、そ、そうなんですか?」
「うん。幸い転移停の横にバス停があるからそこで待てるけど……どうする?」
「え、えっと……待ちます」
「じゃぁ何時までもこの前にいるのなんだからバス停へ行こうか」
「はい」
そんな感じで人一人がすっぽり入るカプセルっぽい形状をした転移停の前から僕達は移動し、その隣にあるバス停に座った。
ここで現在の交通事情に関して。
現在地球限定なら転移停でどこへでも行ける様になっている。使い方は乗るだけだけど、場所指定はパスポートに登録してある場所の中から一つ思い浮かべなければ別な場所へ行ってしまう可能性がある。
そのどこでもは設置されている場所に限られているので、そこから付近へは徒歩とかその土地の交通機関を使わなければならない。
ちなみに地面を走るディーゼルバスと空を駆ける反重力バスが地球で走っているバス。もう飛行機は存在せず、家から一人で近所へ行くならエアバイク、行きたい場所へ行くなら転移停。他惑星へ行きたいのなら惑星間シャトルで、異世界へ行きたいのなら……なんだったか。そうそう。大阪にある空間歪曲装置を通るんだった。が、当たり前の世界だけどね。僕が不死者になる前だとこんなもの想像できなかったから驚きが一杯だったなぁ。
「……あの、そ、空野君」
「ん? 何?」
空を眺めながら本日もいろいろ飛び交っているなぁと感想を抱いていると、小さいながらも隣で僕を呼ぶ声が聞こえたので空を眺めながら訊き返す。
まぁ一応少しばかり僕達距離があるんだけどね。僕の恥ずかしさのせいが主だった理由だけど。それにつられて彼女も端の方に座るし。
彼女の方を見ずにぼんやりと言葉を待っていると、「……こっち、向いてくれませんか?」と恥ずかしそうに言われたのでどうするか逡巡してから仕方なくむこうとしたところ、視界の端にバスが映った。
「あ、バス来た」
「……」
なんかギルフォードさんから言い知れぬ雰囲気を感じた。『なんて、タイミングで…』とか思われてそうな雰囲気で。なんか、居辛くなりそうな雰囲気を発せられてる気がする。
『えーこのバスは中須ハイランド行ー中須ハイランド行ー。電子マネーを入り口付近にかざしてご乗車ください』
ちょうどバスがドアを開けたので、僕は電子マネーを手提げカバンから取り出してそのままバスに乗った。ギルフォードさんも後に続く。
「「…………」」
隣同士に座らず、一人で座る場所の前後で僕達は座る。特に交わす言葉はなく、特に何の感慨もなく、いつも通りだと言わんばかりで。
僕達はきっとこれぐらいがちょうどいいのかなと思ったりしてしまう。というか、僕が関係を持った人は誰でもこの関係で接した方がいいに決まっている。
『だって』僕は『不死者』なのだから。
「…………?」
今何か変なこと・・・・を思い浮かべた気がしたので首を傾げる。僕は一体何を?
考えたくなくなったので窓の景色を見る。
映っているのは田園風景に空を飛んでいる人達。森林に看板。同じく見ているらしいギルフォードさんの切なそうな横顔。
何を考えてそんな切なそうにしているのか。どうして君は他者を助けることにあこがれるのか。
その横顔にふと思い浮かんだ疑問を聞けずに、バスは目的地へ着いた。




