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現在時刻が夕方という事実は先程明らかになった。そして食べているのが夕飯だということも。そんでもって僕の家が他の家から遠いことも。
まぁ別に? そこら辺に関してはギルフォードさんの家まで僕が見送れば全員押しつけられるんだけど、なぜか病人が回復した後のような扱いを僕が受けているために。
泊まることに・・・・・・なりましたよ・・・・・・皆さん・・・。
……一体どうしてこうなったんだろう? いやまぁ色々あったせいで僕が若干・・やさぐれていたのは認めよう。それにしたって風邪でもラブルスにもかかってない僕が『病人はおとなしくしてください!』と言われなければならないのだろう。しかもギルフォードさんに。
あ、白血病などの治らないだろうと言われていた病気は不死者になって300年後には完治できるようになったよ。そのかわり、色々変な風土病やら奇病やらが発生して四苦八苦したらしいけど。
ま、それも現代じゃ大体完治できる病気になってるけどね! 医学と科学力の進歩は留まることを知らないねマジで!!
……現実逃避しても仕方ないね。そろそろ戻ろう。
「で、みんな着替えとか持ってるって本当に用意周到ですね」
「あ? 明日から休みだぞ? 休みの間付きっきりで看病するとかギルフォードが言い出したから着替えは持ってきたんだ」
「……ひょっとしてギルフォードさん。僕が目を覚まさなかったらずっとここに居座るつもりだったんですかね?」
「いや、その時は俺だけが残るって話……っておいそこは!」
「話に気を取られ過ぎておろそかになり過ぎですよ」
「くっそ完全に油断した、っと!」
「残念ながらそこは誘いです!」
「…あっ! チクショーー!!」
現在僕とランティス先輩で将棋をやっているけれど、さすがは天才。本当にギリギリだった。ルール教えて今一回目の対局だけど。
僕が弱いのかもしれない。実力に関しては知る由もないし興味もないけど。
で、どうしてこんな暇潰しをしているのかというと。
「……まだ上がらないな、あの二人」
「まだ入ったばかりだと思うんですけど」
「パッと入ってパッと上がれば終わりだろ、風呂なんて」
「きっと珍しいんですよ、僕の家の風呂が」
「まぁ、家自体もすごい古さを感じるけどな」
そう言って駒を並べなおす先輩を見てもう一度やるのかなと思った僕は、それに付き合う形で駒を並べなおす。
で、ただいま恵菜さんとギルフォードさんが二人仲良くお風呂に入っております。ギリギリなんだけどね設計上確か。作ったの約1900年前だから設計図とかどこ行ったか知らないけど。
ちなみに風呂場は玄関の廊下の奥右側。というより、この家は真ん中の廊下の左右で部屋割りがされている。
右側にキッチンやリビングに風呂場や洗面所、左側に空き部屋(というより応接室?)と自分の部屋とトイレがある。両親の部屋はなくなっているので作ってはいない。
リビングと空き部屋と僕の部屋だけ畳張りで、それ以外は洋風。現代建築だと色々なオプションがあるらしいけど、僕は僕が生まれた時代の建築に愛着を持っているのでそんな建築会社に頼らずに自分で改装とかした。
「お先にどうぞ」
「おっしゃ行くぜ」
パチッと飛車の前の木製の駒の歩兵が、前に一マス動く。
そこから六手先のルートを全力で考慮した僕は、角の前の歩兵を一マス進めた。
「あのあ「詰みです」
「だぁぁぁ! くっそぉ!! また負けたぁぁぁ!」
「……がりました」
弱々しい声で何か言ってるのが聞こえたので、畳で寝転がっている先輩を無視して声がした方へ顔を向けると、そこにはギルフォードさんと恵菜さんがパジャマ姿でいた。
……今更だけど、これって不純異性交遊と言えないだろうか。ねぇよく考えてみようよ。この状況で言い逃れできると思う? こんな、人里離れた場所で年頃(僕を除く)の男女が一緒に、しかも泊まり込みだなんて。
あーこうなったら暴論でも何でも使ってギルフォードさん達を帰らせておけばよかった! 今更ながらにそう思った僕。
普通の人ならパジャマ姿に見とれたりするんだろうね。だけどそんなの関係ない僕にとっては目の前の事よりこれからの事の心配をしなくてはいけないので変な感想は抱かない! 元々枯れてるから関係ないけどね!!
さぁって僕もさっさと入ろう。入ってこの二人をさっさと隔離して平穏無事に寝過ごそうそうしよう。
「さて準備しますか」
「あ、あの…私達はどこで寝れば……?」
「布団無いから僕以外の」
「「「え?」」」
普通に考えればそれ位わかると思うんだけどねと思いながら僕はリビングを出た。
「ふぅ」
襖を閉めて僕は息を吐く。
廊下に電気はついてないので道は真っ暗。真っ直ぐだから別に灯りが要らないと思っただけだけど。
この暗さは僕の心情を表していて、とても心地が良いと思ってるから……なんて理由があるわけじゃないよ。電気代を削減するためって感じ。
「……怠惰なる人生を送りし人に喝を入れたところで変わりはしない。根本的変革がなければ変わることは出来ないだろう……なんて、仕事してた時の上司は言っていたけど、悪化する時も変化とみなされるのだから、喝を入れて変革さえすればよい方向へ向かえるんじゃないかと思うんだけど…って、何を言ってるんだろうか僕は」
自嘲しながら、僕は自分の部屋へ向かった。
ひたひたとする足音を聞きながら進む。
距離としてはそれほどない。いつも歩き慣れている道だ。だけど、それほどでもない道が今日に限って限りなく遠く感じる。
今僕は歩いているのだろうか? 遅く進む感じがする自分に思わずそう投げかける。
一体どうしたのだろうか僕は。心の防波堤が崩れているのだろうか。何が自分の中で起きているのだろうか。本当にわからない。
「なんだよ一体…」
思わず悪態をつく。歩きながらも。無自覚ながらも。
段々とまた呑まれていく気がする。また直感した。
一体誰が? 一体何を? どうしたい? 僕を一体どうしたいんだ!?
そんな葛藤をしていると、ぼんやりと・・・・・僕の目の前――廊下の先――に『何か』が人を形作りだした。
『それ』は光の塊の様だった。
『それ』は僕と同じ背格好を形造った。
『それ』は顔の細部がなかった。
そして『それ』は、あの時見た・・・・・のと・・変わらなかった・・・・・・・。
思わず後ずさりをする。直感的に恐怖心がわき上がる。
なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
「おい空野何やってるんだ?」
「………………え?」
肩を叩かれて勢いよく振り向くと、そこには誰も……ではなく杖を持ったランティス先輩がいた。どうやら、杖で僕の肩をたたいたようである。身長が足りないからだと思うけど。
と、僕が振り向いた時に何を思ったのか先輩が首を傾げた。
「どうしたおい。なんでそんなに顔が蒼いんだよ?」
「…………そう、ですか…?」
「声も震えてるぞ? 一体何があったんだよ」
「……いえ…………」
大丈夫です。とは言えなかった。こんな場面を目撃されたら、そんな嘘が言えるわけがない。僕自身そんな見栄を張る気力も何もなかった。何を選択し、どう行動するのかさえ。
ただ、無意識に・・・・僕は口を開いた。
「……先輩」
「何だ?」
「この事は、誰にも言わないでください。ババァを除いて」
「…あ? なぜだ?」
「ババァは無駄に年だけは取ってますからね。知らせとけば色々と楽ですから」
「俺は知らねぇぞ。お前がそこで怯えていた以外は」
「そこは『何かに怯えることがある』と言ってくれれば」
「なぜだ。なぜ隠す」
未だに追及してくるので、僕はいつのまにか首を横に振って「これ以上は言うことができないんです」と言っていた。
「なぜだ」
「僕が僕であるため・・・・・・・・ですよ」
「?」
首を傾げた先輩を無視し、僕はそのまま自分の部屋の前に行き、襖を開けて中に入った。
風呂に入り、残すところ就寝となったところ。
時刻は午後九時半。僕達は空き部屋で雑魚寝していたというよりは、なぜかうちにあったジェンガが珍しいということでやっていた。
「…なんか緊張するな」
「あっ、あっ」
「これは怖いです」
「……」
なんでこんなことやってるんだろう。ていうより、このジェンガ空き部屋の押し入れに入ってたのを雑魚寝するための毛布を出した時にランティス先輩が抜け目なく見つけたのが原因だったりする。まったくランティス先輩マジ先輩。
と、そんなことをやっていたらガシャンと崩れた。どうやら僕の順番でらしい。
気付かぬうちに僕は崩したらしい。無意識に引き抜き、適当に置いたところ崩れた、と。
みんなが残念がっているけど、僕はそんな感情がわかなかった。ただ視線を崩れたジェンガに注ぐだけ。
それが・・・、僕の今の状態に酷似しているとなんとなく思った。それと同時に、昔の事も思い出した。
昔々の戦争の話。僕は徴兵令に関わることなくこの家に籠っていたけれど、テレビで様々な場面を見た。
崩壊した建物。爆撃や銃撃の跡。兵器と兵器のぶつかり合いや、戦場になった場所の住民たち。そんな場面を思い返した僕は、そのまま思考の渦に飲み込まれていく感覚があった。
崩れる。それは原型から形が離れること。ならば僕という存在も同じなのだろう。
なぜなら、体は僕――「空野明」であっても、心はすでに『何か』がいる。というより、あり方自体がその『何か』になっているのだから。
根拠などはないし、僕が僕を一番知らないので、こんな考え方はナンセンスだと鼻で笑われるかもしれない。
けれどそれはやはり、知らないから・・・・・・そう言えるのだ。僕が不死者になった経緯と、その特性を。
見知った『何か』。それが僕を『僕』足らしめる存在であり、元凶・・。
それは――――
「――君。空野君」
「あ、ごめん」
「どうしたんですか? まだ、どこか……?」
「…いや。大丈夫だよ。少し考え事してただけ」
「そうですか…もう、寝ますか?」
「いやまぁ僕の都合に合わせずに勝手に寝てくれればいいから」
「じゃぁ俺もう寝るわ」
そう言うと僕達に背を向けて横になるランティス先輩。その隣で寝ることになる僕はその様子を見て苦笑しながら、「おやすみ二人とも」といって二人に背を向けるように横になった。
隣にギルフォードさん居るけど絶っっっ対に何もないからね! 隣でかわいい寝息が聞こえたけど!




