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空気な不死者  作者: 末吉
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 さてゴールデンウィークが素直に終わり、僕は大体の日を家に引きこもって家の中の荷物整理にあてていた。

 いやはや自分でも驚くことに、昔のものがほとんど壊れていないというね。流石に2000年経ったら壊れてるだろと思ってたものでも割かし普通に原型留めてたことに驚いたね。ノートとかボロボロだったけど普通に読めたし。本当どうしてこうなっているんだろうかというね。

 でまぁ終わったわけですよゴールデンウィーク。今学校に向かってる訳ですよ。普通に徒歩で。一人で。

 ……いつもの事ですね本当悔しくなんてないよっ! と誤魔化したい自分がいる。

 ま、誤魔化してるというか誰にも悟られてないみたいだけどね僕表情一切変えてないから!!

「おっはよー空野君」

「…………」

「あれ? 無視?」

 おーいと僕の目の前で手を振る少女が一人。水無さんである。

 彼女は僕が無視していると思っている様だが、勘違いしないでほしい。僕はただ学校へ向かっている途中に目の前に現れた水無さんの挨拶に対しる返事に困っているだけなのである。正直こんなシチュエーションがあった記憶なんて一切ない。故に反応に困るのは、人見知り空気ぼっちである所以だからだろうと納得してしまうのはいささか卑怯な気がする。

「ねぇ空野くーん。大丈夫ー?」

「…ごめん。ちょっと自分のキャパシティ超えてた」

 何とか返事をする。口がなんか変なこと言ってるけど、僕は気にできない。

「相変わらずすごい返し方だねー」

「そう? そんなことより前向いてください」

「はっはっはー。私は後ろを向いてても大じょいたっ」

「よっと」

 水無さんが自業自得でぶつかり、よろめいて僕のほうへ来たので反射的に抱き留める。

 惑星人の体触ったの初めてだけど、水星人の肌ってそんなに青いわけじゃないんだ。あと体が軽く感じる。

 とりあえずざっと観察したので彼女をきちんと立たせる。「ありがとう」と返ってきたけど返事をせず、僕は彼女の背後を見る。

 ……。何やら人だかりができている。そのせいで人の列ができ、その最後尾にいた男の人にぶつかったようだ。と、冷静に分析してみたけれど、どうやらこの壁扇状になっているらしく、ちらっと見た限りじゃどこまで続いているのかわからないけど、この道のりの先にあるのは昇降口なので、そこで何か陣取っているのだろうと予測できる。

「なんか昇降口前で騒ぎが起こってるっぽいよ空野君」

「ちゃんと謝ったの?」

「私子供じゃないよー。ちゃんと謝って話聞いたから」

 彼女の基準ではどこからが子供なんだろうかと思ったりしたけどそれをすぐさま放り投げ、さっさと騒動終わらないかなぁとぼんやり待つことにした。

 だって僕は基本的に自ら動こうという自主性がない空気で人見知りで隠し事がある人間だもん。そんな人間が行動を起こして正体がばれそうになったらと思うと動けるわけないしね。それに、日本人の大体は自分に騒ぎが回ってこなければ傍観してる種族だから、率先して動こうなんていうのはよほどのドリーマーかサービス精神旺盛な人間、あるいは世間一般で「優しい」と評される類の人格を持った人たちだけだろう。僕はおかしいだけで優しいとは程遠い人間だと自負しているし。

「あ、おはようございます水無さんと……空野君」

「エリザさんおはよー」

「あぁおはようギルフォードさん」

「おはようございます空野君」

「おはよう恵菜さん」

 僕は振り返らずに二人のあいさつに返事をする。たった数日姿を見せずにいたので僕は問題なくなったけど、ギルフォードさんがおそらくダメそうだと判断できるから。現にほら、僕を呼ぶときに間があったし。

 これは部活しばらく行かないほうがいいのかなーと棒読み思考で思った時、ウオォォォ!! と盛大な歓声が上がる。

 ギルフォードさんは完全に驚いている気配がしたけど無視し、僕は終わったのかなと思考を切り替えてどこから行こうかとうろちょろすることにした。その時だ。

 いざ歩こうと一歩踏み出した途端に上空に気配がしたので思わずその足を引っ込めたら、案の定その足があった場所に人が降り立った。

 危うく踏まれるところだったと内心で安堵しながら動こうと背を向けたところ、「おい」と声をかけられた。

 …………ま。僕じゃないよね。なんかすごい自信持てないけど空気で存在感がない僕を呼び止める人なんてそうそういないはずだから。

 なので僕はそのまま右側から調べようと思ったけれど、その声をかけてきた人物が僕の頭上を跳んで目の前に着地するのが見える寸前で向きを変えてそのまま駆け出した。

 最近僕は色々な人に目をつけられたことに、その時まだ気づいていなかった。




 無事に教室に入った僕はカバンを机の横に立てかけて突っ伏した。

 なんか疲れた。特に何をしたわけでないにもかかわらず、気疲れか何か知らないが、とんでもない疲労感がどこかにたまっている。

 よし寝よう。もう寝よう。今日はこのまま寝て過ごそう。そうすれば被害も何もない。何の被害か自分でもわかってないけれど。

 ツンツン。僕の腕をつつく人がいるみたいだけど無視する。無視すれば大丈夫問題ないどうせ誰も僕の事を気にせずに生活できるのだから。関わったとしてもすぐに忘れられるだろうしね。

 なので僕は必要以上の干渉をすることをする気がない。部活を除いてね。関わって来ようものなら僕はきっと全力で無視することに努めるだろう。部活以外では。

 ツンツンツン。今度は肩をつついてるようだ。いい加減自分の席に座れよと言いたいけど顔を上げたら負けだと思うので、僕はチャイムが鳴るまで待つことにする。

「空野君。一校時目体育だよ」

「にゃわっ!?」

 思わず奇声を発して勢いよく席を立ち周囲を見渡す。どうやら本当のようで、この場にいるのは着替えようにも着替えられてないらしい女子達。

 集まる視線。言い知れぬ圧力。

「ご、ごめんなさい!!」

 僕は頭を下げて教室をダッシュで出た。

 走りながら体操着忘れたことを思い出し、今日はサボろうと決意した。


「というわけで、見学させてください」

「いや、まぁいいが……別に軽く運動すればいいだけじゃないのか?」

「なんか注目受けてるので結構です……」

 結局校庭に出て先生にそう言って隣に座る僕。

 なんだかんだいってサボることができなかった根が真面目であるらしい僕は、授業中のところの先生に正直に理由を述べて見学することにした。

 ただ今の体育の授業は男子のみのガチ野球。皆さん本気でプレーしております。

「おっしゃぁコイヤァァ!!」

「ピッチャー打たせとけっ!」

「絶対に抑えてやらぁぁぁ!!」

 ね? 皆さん殺気だっているでしょ? 一人いないから偶数人数になった彼らはグローブを叩きながら声を張り上げる。

 にしてもみなさん怖い。なんでそんなにやる気出てるのかっていうぐらい目がギラギラしてる。

 カキーン!!

「おっしゃぁ、まわれまわれぇ!!」

「レフト何やってるんだコラァ!!」

 野次と応援が飛び交うという、甲子園やプロ野球の応援と似た熱気を感じる。

 いやぁ白熱してますねぇ。次の時間言語なのに大丈夫かな。

 この頃の学校の授業は2000年前と大分変った。

 音楽美術体育国語数学物理化学英語日本史世界史政治経済の地球準拠の授業であったけれど、さすがにところ変われば品変わる。

 今では国語と英語が廃止されて言語学に。日本史世界史政治経済もなくなり史実学に統一された。

 なので現在の教科は音楽・美術・体育・言語学・数学・物理化学・史実学の7つ。1日の授業が7つなので、授業のタイムスケジュールが1日ごとに変わる。道徳だったかHRは時々やるみたいなもんだね。大体話し合いの時だけにやってるけど。

 いやーそれにしても……暇だ。見てるだけだから暇だ。何やれば暇をつぶせるだろうか。そんなことを考えることすら暇だ。

 とりあえず先生に話しかける。

「先生」

「なんだ?」

「白熱してますね、野球」

「あぁそうだな」

「見てるとなんか……」

「胸が熱くなるか?」

「道理でその次の授業みんな寝てるんだなと納得して心が冷めました」

「お前凄い曲解力だな」

「曲解だなんてそんな。事実じゃないですか現実逃避してるように見えるんですよどう見ても」

「……なんでお前が空気なんだろうな」

「人に認識されないからですよ」

 終了のお知らせ。2分も持たない自分のコミュ障が恨めしい。全くどうしたものだろうか。

 ハァッとため息を吐いて自己嫌悪に陥る。どうすることも出来ないのがまた厄介さを際立たせる。

 体育終了までの間、僕は先生から一度も話しかけられず暗澹たる気持ちで延々と考えていた。


 昼休み。

 僕は相も変わらず自分の席で食べるはずだったけど、嫌な予感がしたために急遽変更。

 新校舎の裏で一人ぽつんと食べていた。

 ……うん。何やってるんだろうね僕。ひょっとしてこれ以上の関係を築きたくないのだろうかと自問自答してみるけどそこに無意識的な肯定が含まれていると察することができるので、やはり僕という人種は不死者であることを隠すために最低限で満足できてしまう情けないのだか恐ろしいのだかわからない欲求しか持ちえていないのだとこういう時に理解させられる。

「はぁ……折角ギルフォードさんと普通に話せたり出来たのになんだってこう自分は消極的なんだろうかと昔の自分に対し喝を入れたいけれど、入れられないしな……」

 これは生来の性格なんだろうかそれとも長い間に人と交流しなかったことによる弊害なのか。前々からずっと考えていたことに対する答えというものはそれなりにあるけれど、それが当たっているという保証がないために余計自己嫌悪に陥る。

 最近悪いことばかりに気を取られ過ぎのような気がした僕は弁当をベンチに置いて自分の頬を両手ではたき、「よしっ」と小さく呟いて弁当を勢いよくかき込む。

 直そう直そうと思っていたところの直し方が現在に至っても分かっていないためにこう暗いことばかり考えてしまうのではないかと思った僕は、意識の変革をする前準備として自分に喝を入れた。そして、『関わること』に対する抵抗感をなくすことを目標にした。今。

 ま、色々と頑張って見ますかね。

 そう決意したけれど、僕という人間は案外心が脆く、折れやすいものなんだなぁと教室に戻ってから痛感する次第であった。

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