表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空気な不死者  作者: 末吉
10/27

10

 と、いうわけで翌日――ゴールデンウィーク初日(かな。僕達にとっては)になったわけだけれども。

 相手が宮廷魔術師と言われたので、昔作った改造エアガンを整備・点検し、持ち出してみた。

 ほら問答無用で攻撃魔法が襲い掛かってきたりするのも困るでしょ? 必要最低限の武装は必要だと思うんだ。そうでもしないと僕危ない。遠距離なんて弓矢と拳銃しか使えないから危ない(全部百発百中だけど)。

 現在時刻は9時半。

 そろそろ行こうかなと思い、制服の内ポケットに改造エアガンを忍ばせ、普通に学校に登校する格好で家を出た。

「おはようギルフォードさん」

「おはようございます、空野君……いつも通りの荷物ですね」

「そういう君こそ」

 学校前の転移停で待ち合わせをしていた僕達は、互いの荷物が普通だということに苦笑する。

 けれども、僕は内ポケットに改造エアガン、バックの中にも対人用の防衛道具を入れてきている。抜かりはない。

 唯一の心配は宮廷魔術師という位の実力ぐらいかな。分からないから本当に不安で不安で不安で仕方がない。けど、おそらく700年ほど前にエリタールからふらりと現れた老人がなんか使って危うく星が消えかけそうになったことよりは下だろうけど。

 にしてもあの爺さん。テレビに映って騒ぎ、人の多さに騒ぎ、良く分からんこと言って星(地球)に巨大隕石が大量に降り注ぎだした時にぽっくり逝ったらそれらが消えたんだよなぁ傍迷惑なじいさんだった。

 あれって何で死んだのか未だに分かってないし今じゃ黒歴史・・・の一つになってるから無暗に掘り返すと僕が不死者であることがばれてしまうので、忘れることにする。

「どうかしましたか?」

「いやー宮廷魔術師と言われてもピンと来なくてね…どのくらい強いのかわからなくて」

「そうですね……一回も地球から出たことありませんでしたよね…」

「ま、今ここで悩んでてもしょうがないし。とりあえず旧棟へ行こうか?」

「場所分かるんですか?」

「うん・・」

 僕は詳しい説明をせずに歩く。これ以上言うよりは、自分の目で確かめてもらう方が早いと思うから。


 僕達の学校――ロイエルラ学園は、大分歴史が古い。首都内にある学校で一番古いんじゃないだろうか。というか絶対に古い。

 だって僕、この学校に入学するの2回目・・・だもん。つまり、この学校は創立500年越えているんだ。化け物みたいだよね、ババァみたいに。

 学科は特にないけれど、図書館が改装を重ねて三階になり、体育館・プールが二つ、グラウンドが二つ、部室棟も二つというとんでもない広さを誇っている。

 後者ももちろん僕達が今普通に授業を受けているのが新校舎、その前が旧棟、その前の前だとさすがに消えているのでないね。見たことあるけど。

 まそんな話を置いといて。今は旧棟の場所の説明をしようか。

 旧棟、というか、この学校の校舎はガタが来るたびに少しずつ移動しているというのが分かった。

 僕が初めて入学した時の校舎、つまり旧棟が新校舎だった時、ここより校門が西に在ったんだよ。だから校舎はどうも東に移動しているみたい。

 だから何? と思った僕はすぐさま思考を打ち切る。速攻で、この事を深く考えないように。

「それで、こちらへですか…立ち入り禁止ではありませんでしたか?」

「ここは普通に敷地内だからいいのさ。ただ旧棟だけ立ち入り禁止になっているだけ」

「なるほど……ちなみに、立ち入り禁止になっている理由はなんでしょうか? や、やっぱり、ランティス先輩がいるから……ですよね?」

「えーっと、僕が聞いた話だと…それより前には確か立ち入り禁止になってたね。確か400年程前からだったかな」

 あの時の理由は確か……なんか幽霊が大量に人の体乗り移ったから授業どころじゃなくなったからだったかな。ニュースで騒がれなかったからうろ覚えだけど、さ。

 うん言えないね。これはどう考えても。言ったらギルフォードさん、完全に怖がりそうだし。

「あ、あの……理由は、な、ななな、なんです、か?」

 うん絶対に言えない。若干ギルフォードさん震えてるから。

 まぁ壁がすごい苔生えてボロボロだからなんだろうけど。そこから見えるグラウンドとか部活の人たちがみんな練習して汗を流しているのに、どうしてそちらを見ないのだろうか?

 でもこの話延ばす必要ないしなーと思った僕は、「校舎にガタが来たからなんだよ」と答えておく。

 その答えにホッとしたのか、彼女は胸をなでおろして安心していた。

 …そんなに怖いのダメなのかぁ。夜とかどうするつもりなんだろう? ま、関係ないけど。

「さてグラウンド使ってるしさ。脇に逸れて向かおうか」

「そ、そうですね」

 校門だった場所に来た僕達は部活やっている人たち(多分剣術部)が中央で一対一の勝負をしていたのでそう言って、グラウンドの端を壁に沿って旧棟へ向かう。

 ここで野球部やソフトボール部がやっているっぽい。なんていうか、変わらぬ競技が懐かしい。

 こんな時代だから甲子園がどうなっているのかというと、実はいまだに続いていたりする。とはいっても首都に学校があるせいでどっちかというと交流会とかそんな感じ。だって集めた結果高校だけで32校ぐらいしかないもん。ま、わざわざ決勝や準決勝辺りは兵庫県の甲子園球場行ってやるんだけどね。

 ソフトボール部は……あれだね。プロ野球の女子版と言っても過言でもないぐらい人気あるらしいね。リーグ戦あるし。球団あるし。甲子園っぽいのあるし。

「そ、そそそ空野君! は、はやく進みましょう!!」

「……あ、ごめん」

 なんかやってる方を向いて足を止めていたせいか、ギルフォードさんに急かされた。というより、なんでこんなにこわばっているんだろう彼女。

 気になったけど質問しない(できない)スタンスの僕は言わず、急かされるままに進むことにした。


「け、けけけ、結構、ふ、雰囲気がありますね…」

「そうだねー」

「…こ、怖くないんですか?」

「うんまぁ」

 旧棟の前、というかプールへの通路の扉前。更に言うと、新校舎とはかなり離れているところ。

 雰囲気的には特に何の変哲もないところだけど、さびた錠前と破れた立ち入り禁止のテープとぼうぼうに伸びた雑草や木々を見るところ、雰囲気的にはホラー映画の舞台かもしれない。不死者だからか耐性出来過ぎて、怖くもなんともないけど。スプラッタも同じく。だって僕自身があー肋骨折れたなー、大量出血したなぁとか普通に思っちゃうもん。

 でもギルフォードさんがすごい怯えてる。具体的に言うと僕の背中に隠れるほど。

 これはさっさと終わらすか置いてくしかないなぁと思いながら、「ここで待ってる?」と後ろを振り向いて訊くと、ものすごい勢いで首をブンブンブンと振った。

 ……自分も行きたいんだ。勇気あるねぇ。

 そう思いながら、僕は前を向いて「中に入るよ?」と呼びかけドアノブを回した。

 ここ旧棟は新校舎より大きくて五階もあった。ほとんどの施設をブチ込んだ結果でね。だから一階に職員室と食堂と生徒会室があって、二階から四階は学年別の教室。五階は特別教室ばかりとなっている。図書館だけは変わっていないんだよなぁ、場所。

 懐かしいとか思いながら懐中電灯(暗い場所の必需品。ペンライト型が主流。そこは昔と変わってないんだよ)のスイッチをオンにして周囲を照らす。

 なんかすごい暗い。全部閉めて電気が流れてないせいか、もう真っ暗。調べるのも一苦労。

「う、うぅ……」

 ほらギルフォードさん完全に怯えてるよ。スゴイ涙目だよ。もう怯えすぎてなんか可愛く見えるよ。小動物みたいで。

 僕なんてもう、怖いのやら何やら慣れ過ぎて、人と関わることが一番の刺激になってるのに。

 こればっかりはどうにもならないのかねぇなんて憂いてみたけれど、彼女自身がどうにもしようとしない限りむりだねぇ…あぁ職員室だここ。とりあえず中入ろうかな。

「職員室はいるけど…大丈夫?」

 とりあえず心配する。

「は、はいぃぃ……」

 ダメだ。完全に腰が抜けてる。声だけでもなんとなくわかるし、制服の裾をつかむ力も強いし。

 振り向いたらきっと涙目なんだろうなぁと思いながら振り返らず、職員室のドアを引こうとするけど、開かない。鍵がかかってるっぽい。

「えい」

 古そうなので蹴飛ばす。バゴンという音を立てて内側に倒れていく。

「ひゃっ!!」

 音に反応し、ギルフォードさんは悲鳴を上げる。僕はそんな事お構いなしに進む。

 中を照らして探してみる。

 ……ここはどうやら手つかずのようだ。鍵とか置いてあったはずだけど、それらは全部破棄されてるはずだろうし。

 となるとここで引き籠ってるその先輩は、どこかの部屋のドアをぶち壊しているんだろうかなんて思ってみるけど、その予想は正しいと考える。そうじゃないと……って、彼、魔術師なんだっけ。魔法自体が良く分かってないし、その授業を受けたこともないからどんなのがあるか分からないんだよね。正直ギルフォードさんに訊いてみたいところだけど彼女怯えきってるから無理だね。しょうがないかそれは。

 特に目ぼしいものがなかった僕は振り返ると、膝が震えて床にへたり込んでいるギルフォードさんの姿があった。

 予想通りではあり、予想外の光景を目撃した僕は瞬きをしてから冷静に訊ねた。

「……大丈夫?」

「…………う、うぅ…」

 彼女の様子に頭を掻く。ダメだというのは確定的だけど、彼女が首を振らないのも確信しているのでどうすることも出来ない。かといって「待ってて」というのもなにかお門違いな気もする。

 この涙目の可愛らしい少女をどうしたものかと悩んでいると、『出ていけぇぇ……』と廊下に地を這うように響く声が。

 それを聞いたギルフォードさん。「ひゃぁぁぁぁ!!」と悲鳴を上げて気絶した・・・・。

 ……。うん。当然だと思っていたけど簡単に気絶しちゃったね。

「ま、僕にとっては・・・・・・ありがたいけどね・・・・・・・・」

 リュックを彼女の近くに降ろしてそう呟く。そしてバックから持ってきたマガジンをつけたベルトとゴムバンド付きライトを取り出して身に着け、内ポケットからマグナム(改造エアガン)を取り出してスライドを引き、ニヤリと笑い宣言した。

「じゃ、先輩・・。とりあえず見つけに行きますから、逃げないでくださいね?」


 じゃ、リアルハント行きますかー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ