94.ぎゅうぎゅうだ
「姉さん、もっとこっちへ寄れよ。濡れるだろ」
相合ガサで帰宅中のキイロ(中2)とコウジ(中1)。
弟が姉に言った。
「そうしたら、コウジが濡れるでしょ。私はいいの。姉さんは弟をかばうものだから」
「もう小さい子じゃないんだから……。男が女をかばうものだろ」
コウジはカサの柄をキイロ側に寄せた。
「男と女だなんて、わいるどーー。大丈夫だから」
カサの柄を握っているコウジの手を、キイロがそっと押し返そうとする。
が、動かない。
いつの間にか私より力強くなっちゃったんだなあーーとキイロは思った。
家に着いた。
結局2人とも反対側の肩が、それぞれ同じぐらい濡れてしまった。
「風邪ひいちゃうね。お風呂入ろっか」
「うん」
キイロとコウジが浴室に行くと、既に誰か入っている。
扉を開けると、ミドリ(小5)とヒロシ(小4)だった。
ミドリとヒロシも同じように反対側同士の肩を濡らして帰宅していたのだ。
「ひょっとして姉ちゃんたちも相合ガサ?」
ヒロシがたずねる。
「まあね。4人だっとやっぱちょっと狭いねーー」
とキイロ。
通常の家庭用浴室だと4人はぎゅうぎゅうだ。
「えい、無理やり入っちゃえ! ほら、コウジも」
キイロがコウジとぐいぐい入ってきた。
「うわ、お姉ちゃん、強引!」
「せまーー」
ミドリとヒロシが叫ぶ。
キイロが弟妹たちに指示した。
「うまくやれば大丈夫だよ、ほら、こういうふうに……」
バスタブの端に背中をくっ付けてキイロが座り、そのキイロのおなかに背中をくっ付けてコウジが座る。
コウジのおなかにはミドリが背中をくっ付けて座り、ミドリのおなかにはヒロシが背中をくっ付ける。
4人で同じポーズで重なった。
「ほら、入れたじゃん」
「お湯がすごくこぼれたけどね」
「密着度たか!」
「動けなーい」
浴室の扉が開いた。
今度は、アカネ(高2)とハヤト(高1)が入ってきた。
「あれ? もしかして……」
「姉さんたちも相合ガサで肩濡れた?」
キイロとコウジがたずねた。
「風邪引く前にあったまろうと思ったんだけど……」
「なんか、4人で面白そうな事やってんな」
アカネとハヤトの言葉に、
「残念ながら、満員でーす」
ミドリが答えた。
「もう熱くなってきたから出ようよ、ミドリ姉ちゃん」
「そうだね」
先に入っていたミドリとヒロシが出て、アカネ、ハヤトと交代した。
「じゃ、俺たちも入れてもらうかーー」
バスタブに今度はアカネとハヤトがぐいぐい入ってきた。
今度は、アカネ、ハヤト、キイロ、コウジの4人で同じポーズで重なった。
「うわ、さっきよりせまーー」
「密着度120%」
「バスタブ壊れないかな?」
「これで、ツヨシ兄さんとアオイ姉さん入ってきたらアウトだね」
とか言ってると、浴室の扉が開いて、ツヨシ(大2)とアオイ(大1)が入ってきた。
「入ってたのか」
「わー、なんか楽しそう」