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93.ちょっと妬いちゃった

 雨が降ってきた。

 予報では午後から降ると言っていたのだ。

 だが、中学1年生のシュウトはカサを持たずに登校してしまっていた。

「まいったな、どうしよう」

 昇降口から出られずにいると、声をかけてきた女子がいた。

 上級生のキイロ(中2)だ。

「あれ、キミ、シュウト君だっけ?」

「あ、僕の事を覚えてくださっていたんですか、お姉さん」

「カサないの?」

「そうなんですよ」

 その2人に声をかけてきた男子がいた。

「姉さん、シュウト」

 キイロの弟で、シュウトと同じ吹奏楽部のコウジ(中1)だ。

「シュウト、カサないのか?」

「ああ」

「しょうがないな、じゃ、俺の……」

 言いかけたコウジの言葉をさえぎるようにシュウトは言った。

「お姉さん、ぜひ僕をお姉さんのカサに入れていただけませんか?」

「私の? でも……」

 言いかけたキイロの言葉をさえぎるようにコウジが言った。

「変なウワサになったら困るだろ。お前は俺と入れ」

「いやだ、男同士なんて。俺はキイロさんと入りたい。キイロさん、お願いします」

 シュウトの呼び方は、いつの間にか「お姉さん」から「キイロさん」に変わっていた。

「じゃあ……、いいよ。一緒に――」

 言いかけたキイロの言葉を、別の者がさえぎった。

「シュウト、迎えに来てやったよ」

「げえ、母ちゃん、なんで?」

「今日PTAの仕事で中学に来たんだよ。ちょうど良かった。ほら、一緒に帰るよ」

「一緒に帰るよって、カサ1本しか持ってないじゃないか」

「一緒に入っていけばいいだろ」

「母ちゃんとなんか、カサ入れるかよ」

「またまた照れて。思春期かい? 青春だねえ」

 シュウトの悪態をものともしない、タフなおふくろさんだった。

 体格からしてタフそうだ。

 1本のカサに2人は入れそうにない。

「シュウト君、これ良かったら使って」

 キイロはシュウトに自分のカサを差し出した。

「え、でもいいんですか、キイロさん」

「私、コウジと入るから」

「なんか……、すいません」

「あら、お嬢ちゃん、悪いわね。確かにあたしのカサ2人は無理だわ。あ、でも、うちの子なんかより、そっちの子の方があなたに似合ってるわよ」

 おふくろさんは、コウジの事を指して言った。

「違うんです、弟なんです」

「なんだ、そうだったの。じゃ、ごめんなさいねーー、カサお借りしてくわ。ほら、シュウト、行くよ!」

「分かってるよ、もーー」

 シュウトとおふくろさんは雨の中に消えていった。

「なんか、豪快なおふくろさんだったね」

「そうだね。――コウジ」

「ん?」

「じゃあ、コウジのカサに入れてね」

 キイロが両手でカバンを前に持って体を寄せてきた。

「姉さん、シュウトには気を付けろよな」

「うん。――コウジ」

「なに?」

「ちょっと妬いちゃった?」

「ないしょ」

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