88.七夕のお願い
7月7日、七夕の日。
兄弟たちは、思い思いの願い事を短冊に書いて竹飾りに吊り下げた。
「おにいちゃん」
たどたどしい字で書いてある短冊があった。
「これ、誰だ?」
「おにいちゃんって何の事かな」
いぶかる兄弟たち。
「それ、僕が書いたの」
ダイゴ(年少)が言った。
「お兄ちゃん? ダイゴ、お兄ちゃんになりたいのか?」
「でも、ダイゴはいちばん末っ子だしなあ……」
と、兄姉たち。
志武12兄弟姉妹のうち、姉妹6人は、全員が姉であり妹だが、兄弟6人は違う。
ハヤト(高1)、コウジ(中1)、ヒロシ(小4)、タダシ(小1)の4人は兄であり弟である。
だが、長子ツヨシ(大2)のポジションは「兄」だけであり、末弟ダイゴのポジションは「弟」だけなのだ。
「だいじょうぶだよ、僕、ユウ君のお兄ちゃんになるから」
「ユウ君? ああ、ニーナちゃんの弟?」
ニーナはダイゴの幼稚園での同級生。
2歳の弟ユウの事はチャコ(年中)が知っていた。
「じゃあ、ダイゴ、ニーナちゃんとけっこんするの?」
「しないよ。子どもだから」
「そりゃそーだ」
「ユウ君、お姉ちゃんのニーナちゃんしかいないから、お兄ちゃんが欲しいんだって。だから僕がなってあげる事にしたの」
「へえ、そうだったのか」
「うん、みんなみたいな立派なお兄ちゃんになるよ」
ダイゴは5人の兄たちを見上げて言った。
「ダ、ダイゴ~~」
「な、なんていいこと言うんだ」
「兄ちゃん、感激したぞ」
「こんな弟をもてて幸せだ」
「なんか、欲しいもの無いか?」
感涙にむせぶ兄たち。
それを見ていた6人の姉たちがダイゴに言った。
「ダイゴ」
「お姉ちゃんたちみたいには、なりたくないの?」
それを聞いてのダイゴの答えは、
「うん。――だって、男だからお姉ちゃんにはなれないでしょ」
うまい! 座布団1枚。