86.ド派手に登場! 志武らんぷ
夏の大掃除中には、こんな事もあった。
「あ、これって……」
クローゼットに上半身を突っ込んでいたコウジ(中1)が何かを見つけた。
「なになに?」
コウジの隣にキイロ(中2)が無理無理上半身を突っ込む。
暗くて狭いクローゼットの中で、姉弟の上半身が密着だ。
「あの」
「なに?」
「姉さん、すごく暑いんですけど」
「いーじゃない。で、なに見つけたの?」
「これだよ」
「どれ?」
「これ!」
「暗くて見えない」
「出ようよ、もーー」
くっ付きながら、姉弟はクローゼットから上半身を出した。
「ほら、これだよ」
コウジが手に持っていたのは、
「クリスマスツリーの電飾コードじゃん。それは冬になったらまた使うから捨てないでしょ?」
「うん、捨てるんじゃなくて、思いついたんだ」
「思いついたって何を?」
「そのためには、姉さんの裁縫の腕をまた貸してほしいんだけど」
「それは構わないけど……」
「あと――」
「あと――?」
「姉さんの体も」
「私の体が目当てなのね!?」
「いや、そうじゃないでしょ。いや、そうだけど……、じゃなくて、つまり、その、なんだ」
ネットにアップされたシブリンズの新動画。
モモコ演じる“志武おんぷ”がしゃべっている。
「今日は私たちシブリンズの新しいメンバーを紹介します。お姉ちゃんの……、“志武らんぷ”でーす」
画面が暗くなり、その中に人型の電飾がきらめいた。
点滅するLEDランプの電飾を全身にほどこしたド派手な衣装をまとった“志武らんぷ”が、神々しく仰々しく華々しく登場した。
まるで年末テレビ番組の演歌歌手みたいだ。
モモコ演じる志武おんぷ、チャコ演じる志武じゃんぷ、ハヤト演じる志武パンク同様、目元はマスクで覆っているので顔は判らない。
もっとも、電飾がド派手すぎて、マスクがあっても無くても顔がよく判らない感じではあったが。
「こ、こんにちは、志武らんぷです」
演じているのはキイロ。
若干緊張気味だ。
キイロはいわゆる“アニメ声”。
これがアニメヲタク、声優ヲタクの心をつかみ、シブリンズはまたもファン層を拡大したのである。