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82.鏡で完コピ

 ショッピングモールへ車に乗って兄弟全員で買い物に来ると、兄弟たちはいくつかのグループに分かれ、それぞれお目当ての店に散っていく。

 ツヨシ(大2)もアオイ(大1)も免許を持っているが、たいてい運転はツヨシ。

 家に必要なものは妹たちが買い揃えてくれる。

 ツヨシは、自分の服を妹たちが選んでくれる時以外は、弟妹たちの買い物が済むまで特に用事が無い。

 書店を覗いたり、モール内をぶらぶら歩いて人間観察をしたりする。

 人間観察が、マンガのネタに役立つのだ。

 歩いていると、時々ポケットティッシュをもらう。

 この日は1日で5個ももらってしまった。

 まあ、ポケットティッシュはいくつあっても困らないが。

 ふと、ポスターが目に留まった。

 ある店のキャンペーンガールになっているアイドルグループが屋外ステージでミニコンサートをするらしい。

 腕時計で確認すると、ちょうど開演の時刻。

 どんなものなのだろうと、ツヨシは屋外ステージに向かった。

 小さなステージにパステルカラーの衣装を身に着けた十代の女の子3人組がいた。

 ユニット名は「フューチャー3」というようだ。

 初めて聞く名である。

 フューチャー3の女の子たちは、大きな声で会場に呼びかけてから、振り付きで歌を歌い始めた。

 初夏の日差しはけっこう強く、その下で歌って踊るのは大変だろうなとツヨシは思った。

 ツヨシは周りを見た。

 客は全部で200人くらいか。

 そのうち半分は、幼い子を連れた家族連れ。

 フューチャー3の歌に合わせていっしょにぴょんぴょん踊っている3~4歳くらいの女の子が客席のあちこちに見えた。

「女の子はこういうの好きなんだな」

 ツヨシは思った。

 中学生、高校生くらいの女子も少しいた。

 どの子も割りと厳しい顔付きでフューチャー3を見ていた。

 あの程度でアイドル?――とでも言わんばかりの表情の子もいる。

「女子の敵は女子だな」

 ツヨシは思った。

 観客の3分の1くらいは、小太りで頭ぼさぼさでカメラ持ってやぼったい感じの若くもない男たちだった。

 こういうマイナーアイドルを追っかけるファンたちなのだろう。

「どうしてみんな似たような感じなのだろうか」

 ツヨシは思った。

「あれ?」

 ステージの前――フューチャー3のほぼ正面真向かいで、振り付けを鏡で完コピして踊っている女の子が2人いた。

 その背中には見覚えがある。

「モモコとチャコじゃないか」

 フューチャー3の動きにぴったり鏡でシンクロして踊っているのがおもしろく、観客の興味の半分がモモコとチャコに注がれているのが分かった。

 歌が終わった。

 フューチャー3が決めポーズ。

 モモコとチャコも鏡の向きで決めポーズ。

 客席から拍手と歓声が。

 だが、その半分以上はモモコとチャコに向けられているのが明らかだった。

 ステージ上のフューチャー3は笑顔だが、明らかに表情がひきつっている。

 ツヨシは客の合間をぬって、モモコとチャコに近寄った。

「あ、」

「お兄ちゃん」

 モモコとチャコの言葉にはかまわず、

「ど、どーも、すいません」

と、身振りで示し、ツヨシは妹2人を抱えて会場を急ぎ足で後にした。

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