80.三歳児、小学校に現る
今日は幼稚園は休み。
チャコ(年中)とダイゴ(年少)は、兄姉たちが帰ってくるまで家で留守番だ。
チャコは「ひめっこズキュン」のビデオを見ていた。
ダイゴは――。
ダイゴは自分の小さなリュックに絵本を何冊かつめると、出かけていった。
兄弟たちの通う小学校。
職員室にいた若い男の先生が、見慣れない小さな影が廊下を通ったのに気付いた。
誰かと思って出て見ると、リュックを背負った小さな男の子だ。
「あれ、君どうしたの?」
先生は声をかけた。
声をかけられて振り向いたその顔は――ダイゴだった。
ダイゴは、自分も兄姉たちの通う小学校にやって来たのだ。
「学校に来たの」
「君、お母さんは?」
「僕ね、勉強するんだ」
どこの子だろう、先生は困った。
休み時間開始を告げるチャイムが鳴った。
PTAの仕事で保護者が来校する時がある。
その時、小さい子を連れて来校する保護者も少なくない。
その中の1人が迷子になったのかもしれない。
先生は校内放送を入れた。
「リュックを背負った3歳ぐらいの男の子を職員室でお預かりしています。お心当たりの保護者の方は職員室までいらしてください」
ところが、放送を聞いて集まってきたのは高学年の女子たちだった。
3歳の男の子と聞いて、見たくて見たくて集まってきたのだ。
「きゃー」
「見せて見せて」
「可愛い」
「ボク、名前なんていうの?」
「ダイゴ」
「いくつ?」
聞かれてダイゴは指を3本出して答えた。
「みっつ。僕ね、勉強しに来た」
ダイゴはリュックをおろすと、絵本を出して廊下に並べ始めた。
「へえー、どらどら?」
高学年女子たちがしゃがみこんでダイゴを取り囲む。
「ちょっとみんな。この子のお母さんらしい人、見なかったか?」
先生が女子たちに聞いたが、
「分かりません」
「見ませんでした」
の答えしか返ってこない。
「まいったな」
先生が途方にくれていると――、
「やだ、ダイゴじゃない」
ミドリ(小5)の声がした。
放送を聞き、一応ミドリも職員室にやって来たら、まさかのダイゴだったのだ。
「志武、君の弟か?」
「はい、すみません。――ダイゴ、どうしたの? お留守番は?」
「僕も学校に来た」
「チャコは?」
「ビデオ見てる」
「やだもー、どうしよう」
ミドリが困っていると、志武家の事情を知っている先生が言った。
「志武、とりあえず家にいる妹さんに電話しなさい」
職員室の電話を借りて、ミドリは自宅のチャコに事情を説明した。
ダイゴは、いちばん早く授業が終わる1年生のタダシが連れて帰る事にし、先生の配慮で、それまでは1年生の教室でいっしょに過ごさせてもらえる事になった。




