77.もう、できるな
今日は家にツヨシ(大2)とアカネ(高2)の2人だけ。
ツヨシのマンガ原稿をアカネが手伝っていた。
「今日は私がチーフアシスタントだね」
「そうだな。アカネもみんなといっしょに出かけて良かったんだぞ」
「こないだのカメンダーマスクショーの時も兄さん1人でお留守番だったでしょ。かわいそうだもん」
「それは、ありがとな」
「兄さんにも私のカメンダーレディ見て欲しかったな」
「それなんだけどな」
「なに?」
「けっこう、アカネとハヤトのアクション、評判良かったようだぞ」
「へえ、ほんと?」
「また手伝ってもらえないかって、友達に言われたよ」
「へーー、やるやる。こないだ楽しかったし。そしたら今度は兄さんも見に来てよね」
「ああ、ぜひ行くよ。俺も見たかったからな」
「今ちょっとやってあげようか?」
アカネは道具を置き、少し離れると、ポーズをつけながら言った。
「私は――、カメンダーマスクの――、パートナー――。カメンダー――、レディ!」
「アカネ」
「なに?」
「けっこう、かわいいとこあるな」
「“けっこう”は余計でしょ」
「じゃあ、かわいいとこあるな」
「今まで無いと思ってたの?」
「いやあ……、あ、ほら、そこのベタ早くぬってくれ」
「あ、ごまかしたーー。もっと、かわいいって言ってーー」
「かわいい、かわいい、かわいい、かわいい……」
「やっつけで言ってるでしょーー」
「アカネ」
「なによ、もーー」
「かわいいから、コーヒー入れてくれ」
「なんでそーなるの」
「かわいいアカネが入れてくれると、いっそうコーヒーがうまいから、ぜひ飲みたいんだ」
「なんか、ごまかされた感じーー」
と言いながらも、アカネはキッチンに行ってコーヒーメーカーに粉を入れ、稼動させた。
コーヒーを飲みながら2人は休憩していた。
「兄さん」
「ん?」
「いつもありがとう。私たちのために」
「何がだ」
「だってマンガ家の仕事してくれてるじゃん」
「マンガ家は俺がなりたくてなったんだ。みんなが手伝ってくれるから逆に助かってるよ」
「そう?」
「ああ。――アカネは将来何になりたいんだ?」
「兄さんはこのままマンガ家だよね」
「多分な」
「私はどうしようかなーー。このまま兄さんのアシスタントで雇ってもらおうかな」
「それは構わないが……。やりたい事とかないのか?」
「うーん……、スーツアクターもおもしろかったし……、いろんなこと体験してみてから決めたいな」
「それでいいか。まだ若いんだし」
「やだ、年寄りみたい。兄さんだってまだ19なのに」
「アカネは16か。もう結婚できるな」
「え、もしかして今のプロポーズ?」
「んなわけあるか」