75.ツッコもうかな、どうしようかな
今日は中学校の吹奏楽部の活動無しの日だ。
放課後やる事が無い。
「コウジ~~、運動部でものぞいていこうぜ」
同じ吹奏楽部のシュウトがコウジ(中1)に言った。
小学校までコウジは野球、シュウトはサッカーをやっていたが、今は2人とも文化部所属。
「お、女子テニス部だぞ」
シュウトが言う。
お、女子テニス部だぞも何も、シュウトは最初から真っ直ぐ女子テニス部の活動場所に向かって歩いていたじゃないか――とのツッコミはせず、コウジは黙ってシュウトと一緒に歩いてきた。
「いやあ、いいよなあ。女子テニス部。俺、今度テニス始めようかな」
「一応言っておくが、男は女子テニス部に入れないぞ」
「コウジ、いくら俺でもそれくらい知ってるぜ。――あ」
「ん?」
「あれ、コウジの姉ちゃんだろ」
シュウトの指差した先には――ラリーの練習中のキイロ(中2)がいた。
金網に背を向けてよりかかり、独り言半分、コウジへの問いかけ半分の言い方で、シュウトは言った。
「いいよなあ、キイロ先輩。彼氏いるのかな?」
なんだシュウト、おまえ、俺の姉さんの名前知ってたのか――とのツッコミはせず、コウジも同様に金網によりかかって淡々とシュウトに言った。
「さあ……、本人に聞いてみたら?」
「いやでもなあ……。そうしたら、コウジ、おまえが俺の弟になるだろ?」
それは話飛躍し過ぎだろ――とツッコもうかどうしようかとコウジが思っていると、
「あれ? コウジじゃん」
背後の金網越しに声をかけられた。
振り向くと、さっきまであっちでラリーの練習をしていたはずのキイロが来ていた。
ラリーが終わってコウジたちに気付き、こっちにやって来たのだ。
「何やってんの? 吹奏楽部は?」
「今日は休み」
「ふーん、友達?」
キイロは、シュウトの事をコウジに聞いた。
「うん、シュウト。あ、そうだ。姉さん、こいつ、シュウトなんだけどさあ――」
「コウジーーーー!!」
コウジの言葉をシュウトは大声でさえぎった。
「なんだよ、びっくりするだろ」
「おまえ、お姉さんの部活のじゃまだろ? 早く行くぞ!」
「はあ? 来ようと言ったのはシュウト……」
「だあーー! ほら、行こうぜ!」
シュウトはコウジの腕を取ると、強引に腕を取って行ってしまった。
その夜。
入浴しながら、キイロはコウジから事情を聞いていた。
「なんだ、そうだったんだ」
「シュウト、姉さんに気があるかも」
「もてる女はつらいわねーー」
「年下でもかまわないわけ?」
「コウジだって年下じゃん」
「俺たちは姉弟だろ!――ていうか、もしコクられたら、どうすんのさ」
「あれ? 心配?」
キイロがちょっと嬉しそうな笑顔をコウジに近付けた。
「あいつが兄貴になっちゃうよ!」
それは話飛躍し過ぎでしょ――とツッコもうかどうしようかと考える、思考回路のよく似た姉弟のキイロとコウジであった。