68.具合が悪い日のお迎え
「はい……、はい……。分かりました。できるだけ早くお伺いします」
アオイ(大1)は携帯電話を切った。
タダシ(小1)が小学校で体調を崩したので迎えに来てほしいと、大学にいたアオイに小学校から連絡があったのだ。
だが、アオイは次の講義を抜けられない。
「そうだ。確か今日はアカネが午前授業って言ってた。アカネに行ってもらおう」
アオイはアカネ(高2)に電話した。
「オッケー、姉さん。分かったわ」
既にアカネは帰宅していた。
アカネは、ミドリ(小5)、ヒロシ(小4)、モモコ(小2)、タダシ(小1)ら弟妹たち4人が通う小学校にやって来た。
TPOを考え、少し落ち着いた大人っぽい私服で来た。
自分もかつて卒業した小学校だ。
あの頃は学校で体調を崩すと、母が迎えに来てくれていた。
「すみません、1年の志武タダシの家の者ですが、体調が悪いというご連絡を頂いたので迎えに参りました」
アカネは小学校正面玄関のブザーを押し、インターホンに向かって話した。
母校だから校内の地理は知っている。
中に入れてもらうと、アカネは真っ直ぐ保健室に向かった。
「すみません、志武ですが?」
「あ、はい。タダシ君の?」
「はい。お世話になっております」
アカネは保健室の先生に挨拶した。
アカネが小学生だった頃の保健室の先生とは違う。
転勤があったのだ。
保健室のベッドにタダシが寝かされていて、周りに何人かの子どもたちが居た。
察するにタダシの学級の保健係の子どもたちだろう。
「あれ、志武君のママ?」
「わかーい」
「美人だねーー」
「こないだの人と違う」
「ママ変わったの?」
1年生たちは思いついた事を次々に口に出した。
「違うよ。僕の2番目のお姉ちゃん」
ベッドで紅い顔をして寝ているタダシが言った。
熱がある様子だ。
「タダシ、歩ける?」
「うん」
アカネはタダシのランドセルを肩にかつぎ、
「どうもお世話になりました」
と、保健室の先生に挨拶をして学校を後にした。
アカネとタダシ、手をつないで歩いていく。
タダシは調子悪そうだ。
「おんぶしてあげようか?」
「大丈夫」
「なに遠慮してんの」
アカネがタダシの前に背を向けてしゃがむと、タダシは素直におんぶされた。
「ちっちゃい時、お姉ちゃんたちがよくおんぶしてあげたよねー」
「うん」
「覚えてる?」
「うん」
「ほんとに?」
「うーん、少し……」
それもそうか。
実際のところ、アカネだって幼かった頃の事をはっきり覚えているわけではない。
ただ何かの時に、3歳ぐらいだったアカネを、自分もまだ幼かったツヨシがおぶって帰ってくれた事があったっけ。
それははっきり覚えていた。
タダシをおぶって歩きながら、自分もまたツヨシにおんぶしてもらいたいなと、ちょっと思ったアカネであった。