63.さらわれちゃった!
ヒーローショーの当日。
ツヨシ(大2)はマンガの原稿描きで留守番。
アオイ(大1)が、キイロ(中2)からダイゴ(年少)までの8人の弟妹たちを引率して、アカネ(高2)とハヤト(高1)の出演するカメンダーマスクショーを見に行った。
会場に不気味な音楽が鳴り渡ると、観客席の背後から悪の組織の戦闘員たちが現れた。
「会場の子どもたちを人質にとるのだ!」
ステージ上に怪人が現れ、戦闘員たちに指示を飛ばした。
客席の幼児たちの中には、本気でこわがって大泣きする子もいた。
戦闘員たちは、さらってステージに連れて行っても大丈夫そうな子を物色していた。
戦闘員の1人が、ダイゴ(年少)のところに来ると、突然ダイゴを抱き上げた。
「ダイゴ、俺だ」
戦闘員のマスクからしたのはハヤトの声だった。
「あ、アニキ」
「おまえをさらっていくぞ」
戦闘員のハヤトはダイゴを抱きかかえると、ステージ上に連れていった。
他にも何人かの幼児たちが、ステージ上に「さらわれた」。
さらっても大泣きしなさそうな大丈夫な子たちが選ばれてさらわれたのだ。
「よーし、では、お前たちが将来、優秀な悪の戦闘員になれるかどうか、これよりテストをする」
ステージ上に並べられた子どもたちに向かって怪人が言った。
「パンチ力テストだ。この俺様に思いっきりパンチしてみろ」
子どもたちは、順番に怪人にパンチをした。
その度に、怪人は大げさに引っくり返ってくれるので、子どもたちはけっこう嬉しそうだ。
もちろん、ダイゴも思いっきりパンチをした。
テストが終わった。
「フッフッフッ……。おまえたち、なかなかいいパンチだったぞ。全員合格だ!」
怪人に言われ、「やったーー」と喜ぶ子もいたが――。
「合格したおまえらは、全員悪の怪人に改造してやる! 連れて行けーー」
怪人が命令すると、戦闘員たちは「イー!」とか言いながら、子どもたちを抱き上げた。
中には、本気でこわがり、泣き出しそうな表情の子がいたが、ダイゴはハヤト戦闘員に抱っこされて目がきらきら輝いていた。
そこで声がした。
「待てーーい、悪の怪人ども!!」