62.僕たち、いい者ね
「志武~、人が足りないんだよ。どうにかなんないかな」
大学で、ツヨシ(大2)は友人のケンから声をかけられた。
ケンはヒーローショーのアルバイトをしている。
バイト仲間が怪我をして、スーツアクターが足りなくなってしまったのだ。
ツヨシは高校まで空手部だったのでアクションは得意だった。
困っている友人を助けてやりたいところだったが、連載マンガの〆切も迫っているため引き受けてやる事ができない。
「悪いな。俺はちょっと都合がつかないんだが……。代わりを紹介するよ」
「俺は正義のヒーロー、カメンダーマスク!」
特撮番組「カメンダーマスク」の放映が始まった。
いつもは、タダシ(小1)、チャコ(年中)、ダイゴ(年少)の3人で見ているのだが、今日は12兄弟姉妹せいぞろいで見ていた。
「ねえねえ、アニキがカメンダーマスクになるの?」
タダシが目を輝かせてハヤト(高1)に聞いた。
「違うよ。それはベテランの人がやって、俺とアカネ姉さんは戦闘員の役さ」
ツヨシが紹介すると言った代わりとは、弟妹のハヤトとアカネ(高2)の事だったのだ。
現在は部活動無所属だが、あちこちの運動部の助っ人を頼まれるくらいなので、ハヤトは運動神経がいい。
また、今は生徒会に専念のアカネも、中学ではバレーボールをやっていたから、こちらも体を動かすのには自信があった。
今日は、ハヤトとアカネがヒーローショーの助っ人に行く「カメンダーマスク」がどんな内容なのか、雰囲気をつかむため兄弟姉妹みんなで番組を見ていたのである。
「久しぶりにやると、けっこう燃えるなーー」
番組後、幼い頃の“ごっこ遊び”を思い出し、ポーズをつけながらハヤトが言った。
「じゃあアニキ悪者ね」
「行くぞ、とおーー」
さっそく、タダシとダイゴがテストステロン全開でハヤトに飛び掛っていった。
「私も!」
「私もーー」
チャコ(年中)とモモコ(小2)まで、触発されてハヤトに飛び掛っていった。
「ほらほら、4対1じゃ、ハヤトがかわいそうでしょ」
アオイ(大1)が止めに入った。
「えー」
「つまんなーい」
不服そうなダイゴとチャコ。
タダシとモモコが言った。
「じゃ、6対6なら?」
「それなら公平でしょ。ツヨシ兄ちゃんからコウジ兄ちゃんまでが悪者で、ミドリ姉ちゃんからダイゴまでがいい者ね」
というわけで、6対6の兄弟姉妹の激闘(?)が開始された。
6人の兄姉たちは叫んだ。
「なんでそーなるんだ!」