60.お礼にしてあげる
今夜は遅くなったので、夜のランニングはハヤト(高1)1人で行ってきた。
キイロ(中2)とミドリ(小5)は、ハヤトの帰りが遅くなると連絡を受けていたので、夕方ひと足先にランニングを済ませていた。
「じゃあ今日は僕がボディガードで行く!」
と、キイロとミドリのランニングにヒロシ(小4)がついていっていた。
ハヤトの帰りが遅くなったのは、高校の生徒会を手伝っていたからだ。
ハヤトが助っ人に行くのは、運動部だけではない。
生徒会の活動が忙しくなって手が足りなくなってくると、生徒会長のアカネ(高2)がハヤトに助っ人を頼む時があるのだ。
ハヤトが1人で風呂に入っていると――、
「ハヤトく~~ん」
アカネが浴室に入ってきた。
「ああ、姉さん」
「今日はありがとね。助かっちゃった」
「まあな、いいってことよ」
「お礼に今日は頭洗ってあげようか」
「頭を? いいよ、自分でできるから」
「まあまあ、遠慮しない、遠慮しない」
アカネはハヤトをあおむけにすると、自分のひざにのせた。
「ちっちゃい時は、私が頭洗ってあげたよねーー」
「そうだったな」
「ハヤト、水がこわくて、なかなか目を開けられなかったから。頭洗ってあげるのも大変だったんだから」
「それは言わないでくれよ」
アカネは、ハヤトの髪をお湯で流すと、優しくシャンプーを始めた。
「どう?」
「ああ、いいよ」
「かゆいところはございませんか」
「いつも思うんだけど、それ聞かれても、実際にどうやってかゆい所を示せばいいのか困るよな」
「それもそうよね。強さはどう?」
「うんいいよ。姉さんのちょうどいい」
「ハヤトに頭洗われると痛いって、下の子たち言ってるから、こんなふうに優しくしてあげてね」
「それを教えるために今日洗ってくれたの?」
「それもあるけど、ちゃんと今日のことへのお礼もあるのよ」
アカネはシャンプーの泡を流し、ハヤトの洗髪を終えた。
「さんきゅ、姉さん。じゃあ、お返しに姉さんの頭を――と言いたいところだけど、ちょっと長すぎて俺には無理かな」
「ふふ。今日はいいわ。でも、いつか洗ってね」
「じゃあ、代わりに背中だけ流すよ」
「ありがと。あ、でも、痛くしないでよ」
「分かってるよーー。もー、信用ないなー」
アカネの背中を流しながら、久しぶりに姉に頭を洗ってもらって、ちょっとうれしいハヤトであった。