58.おそわれたらどうするの
ハヤト(高1)は、ときどき夜、ランニングをしている。
体を鍛えるためだ。
今は特に部活に入っていないが、小学校ではミニバスケットボールを、中学校ではサッカーをやっていた。
高校の今は、時々あちこち運動部から声がかかり、人数の足りない部の助っ人をしたりしている。
ハヤトがランニングに出る時は、キイロ(中2)もついてくる。
キイロはテニス部だ。
女子中学生が1人で夜ランニングしていたらちょっと物騒だが、男子高校生のハヤトが一緒なら心強い。
「キイロ、今夜はどうすんだー? そろそろ行くぞーー」
「あん、待ってー、今着替えてるから」
「早くしないと置いてくぞ」
「いじわる。かわいい妹が不審者におそわれたらどうするの」
「分かった、早くしろ」
いつもこのようなやりとりをして30分ぐらい出かけていく。
女子中学生ながら、男子高校生のハヤトのペースに負けずについてくるのだから、キイロも結構な体力の持ち主だ。
ランニングが終わった後は、一緒に汗を流す。
今日は、ハヤトとキイロが入っている浴室にミドリ(小5)も入ってきた。
「ねえねえ、明日から私も夜のランニングいっしょに行っていい?」
ミドリが兄姉に聞いた。
ミドリもまた、小学校でミニバスケットボールをやっている。
ミドリも兄姉にならって体力づくりに励みたいのだ。
翌晩。
ハヤト、キイロに続いて、ミドリも夜のランニングに出発した。
しかし、さすがに女子小学生が中高生のペースについていくのはきつい。
「あん、待ってー」
ミドリが後ろから言った。
「早くしないと置いてくぞ」
ハヤトに言われて返したミドリの言葉が、
「いじわる。かわいい妹が不審者におそわれたらどうするの」
やっぱり姉妹、同じこと言うんだなーと思いながら、ペースを落としてやるハヤトとキイロであった。