57.ひめっこズキュン
「天に代わって悪をズキュ~~ン!」
女の子戦士が悪と戦う人気テレビアニメ「ひめっこズキュン」の放送が始まった。
これがキメ台詞。
チャコ(年中)は「ひめっこズキュン」に夢中だ。
放映時刻になると、必ずテレビの前にやって来てこれを見る。
もちろん録画セットも忘れない。
後で何度も見返すからだ。
そしてお供は兄のタダシ(小1)と弟のダイゴ(年少)。
女の子向けアニメ「ひめっこズキュン」の前に、男の子向け特撮番組「カメンダーマスク」がある。
3人そろって「カメンダーマスク」から見始め、「ひめっこズキュン」でしめくくるのが毎週の流れなのだ。
番組が終わった。
「あー、おもしろかった。私もひめっこズキュンになりたいな」
チャコのその言葉に応えるように、後ろからキイロ(中2)の声がした。
「じゃーん、これなーんだ?」
キイロが手に持っていたのは――
「あ、ひめっこユッキーの衣装だ!」
チャコが飛び付いた。
ひめっこズキュンは女の子の3人組だ。
白い衣装の、ひめっこユッキー。
黄色い衣装の、ひめっこツッキー。
ピンクの衣装の、ひめっこオハナ。
3人で雪月花である。
「お姉ちゃん、それどうしたの?」
タダシが聞いた。
「中学の家庭科の授業で作ったのよ。チャコにプレゼント」
「ありがとう、お姉ちゃん」
チャコはさっそく服を着替え始めた。
「いいなあ」
「僕らも欲しいな」
タダシとダイゴはうらやましそうだった。
ここで、タダシとダイゴが欲しいと言ったのは、カメンダーマスクの衣装のことである。
「オッケー、分かった。じゃあ、タダシとダイゴの分も作ったげる」
数日後。
「できたよーー」
さっそくキイロが作ってくれた衣装を、タダシとダイゴが着てみると――。
「お姉ちゃん、違うよ」
「これ、ひめっこズキュンじゃん」
タダシはひめっこツッキーに、ダイゴはひめっこオハナに変身してしまた。
タダシとダイゴが欲しがっていたのは、カメンダーマスクの衣装であろうことはキイロも気付いていたのだが、ちょっといたずら心がはたらいたのだ。
だが、チャコはひめっこズキュンのメンバーが3人そろったので大喜びだ。
それ以来、志武家では、衣装をばっちり着込んでのひめっこズキュンごっこがしばしば行われる事になったのであった。
もちろん、ひめっこズキュンの3人は、チャコをリーダーに、タダシとダイゴ。
悪者役は9人の兄姉たちである。