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54.シンクロじゃんけん

「ずいぶん、ゆっくりだったな」

 スーパー銭湯の男湯からやっと出てきた、ハヤト(高1)、コウジ(中1)、ヒロシ(小4)の3人に、ツヨシ(大2)が声をかけた。

 すでに、ハヤト、コウジ、ヒロシ以外の9人の兄弟姉妹たちは、休憩室で飲み物を飲んでいたのだ。

 すなわち――、


ツヨシはアイスコーヒー、

アオイはウーロン茶、

アカネはアイスティー、

キイロはトマトジュース、

ミドリは牛乳、

モモコは桃ジュース、

タダシはアップルジュース、

チャコはオレンジジュース、

ダイゴは発酵乳


――を。

 家でなら、


ハヤトは青汁を、

コウジは緑茶を、

ヒロシはグレープジュースを、


それぞれ飲むところだが、スーパー銭湯の売店にも自販機にもそれらを置いていないので、3人ともいちご牛乳を飲む事にした。

 銭湯で飲むなら、いちご牛乳。

 昭和の頃の町の銭湯で、湯上がりに子どもが飲むものといえば、いちご牛乳がダントツだったものだ。

 3人は、並んで腰に左手をやると、右手でびんを口元に持っていき、ごくごくと一気に飲んだ。

 3人とも、打ち合わせたわけでもないのにぴったり動きがそろっていて何だから可笑しい。


「今日は誰も知り合いに会わないわね」

 アオイ(大1)が言えば、

「ダイゴ、ちょっとほっとした?」

と、ミドリ(小5)が末弟にたずねる。

「うん、した」

 ダイゴ(年少)は言いながら、また発酵乳を一口飲んだ。

「ついてるよ」

 お姉さんらしく、チャコ(年中)がダイゴの口の周りについている発酵乳を拭いてやった。

 そういうチャコも口の周りについているのだが。

「ねえねえ、私ソフトクリームも食べたい」

 トマトジュースを飲み終えたキイロ(中2)が言った。

「今、飲んだばかりじゃん」

「姉ちゃん、太っちゃうよ」

 飲みながら、コウジとヒロシが言う。

「太ってないですう。成長しただけ」

 キイロは胸を張って見せた。

「じゃあ、もう1回入って出たら、ソフトクリーム食べる事にしよう」

「やったーー」

 ツヨシの言葉に、キイロが抱きついた。

「あーー、兄さんそんなら私も食べたーーい」

「私もーー」

 アオイ(大2)とアカネ(高2)が、負けじとツヨシの腕を取った。

「分かった分かった。みんなでな」

「僕、もういい」

 ダイゴが言った。

 今飲んでいた発酵乳が飲みきれず残っている。

「残っちゃったね、誰か飲む?」

 モモコ(小2)がダイゴから発酵乳を受け取って、兄弟たちに聞いた。

「あ、俺にくれ」

「僕も飲みたい」

「僕も」

 ハヤト、コウジ、ヒロシが、名乗りを上げた。

「3人で分けるには少ないぞ」

「どうする?」

「おーし、じゃんけんだーー!」

 3人はじゃんけんを始めた。

「じゃんけんぽん」

「あいこでしょ」

「あいこでしょ」

 またまた3人とも出す手がぴったりそろってなかなか勝負がつかない。

 ずっとじゃんけんし続けている3人を、周りの客たちが「何事か?」といった様子で見始めた。

「他人のフリ、他人のフリ」

 9人の兄弟姉妹たちは、そーっとその場を離れて、またそれぞれ男湯、女湯に入っていった。

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