52.つかまえちゃうよ
「なんか、むかし、あるきめですっていう人が、お風呂でいい考えを思いついて、そのまま外に飛び出したっていう話を聞いたけど、はずかしくなかったのかな?」
お湯に浸かっている時、モモコ(小2)が言った。
「あ、それ僕もなんか聞いたことある。でも、いくらなんでも、何も着ないで外に飛び出すなんて、信じられないよな。あんがい、作り話なんじゃないの」
モモコの言葉を受けてヒロシ(小4)が言う。
「ま、作り話かどうかは置いといて」
体を洗い終えたツヨシ(大2)が湯の中に入ってきた。
兄弟姉妹の中でいちばん体の大きいツヨシと一緒に湯に浸かるとぎゅうぎゅうだ。
湯の中で、ヒロシとモモコを、それぞれ両の脚に座らせるように抱いて、ツヨシが話を始めた。
「アルキメデスのいた時代は、服を着て風呂に入っていたらしいのさ。だから、風呂に入っていた状態から直ぐ外に飛び出したとしても、大丈夫だったんだな」
「へー、そうなんだ」
「今だったら、何も着ていないからつかまっちゃうよね」
ヒロシとモモコが感心する。
「ははは、確かにそうだな。だから、2人も、風呂から出たら直ぐに服着ろよ」
と、ツヨシが言うが、モモコとヒロシは、
「大丈夫だもん」
「うちの中だからつかまらないし」
浴室の扉が開いた。
「あら、そんなことないわよ。私たちがつかまえちゃうから」
「ほら、拭いてあげるから出てらっしゃい」
アオイ(大1)とアカネ(高2)であった。