48.寝て待て?
キイロ(中2)とモモコ(小2)で湯に浸かっていた。
「お姉ちゃん、見て見て。腕にほら、こんなにびっしり泡が」
「ほんとだ。私もだよ」
「どうしてこうなるのかな? 皮膚呼吸してるから?」
「人間は本当は皮膚呼吸していないって聞いたわよ。むかし、007の映画で、全身に金粉ぬっていると皮膚呼吸できないっていう台詞があったんだって。それは間違いなんだけれど、それがきっかけで誤解が世間に広まったって」
「キイロ、よく知っているじゃないか」
それまで体を洗っていたハヤト(高1)が、流し終えて湯に入ってきた。
大学生のツヨシや高校生のハヤトはもう体が大きいので、一緒に湯に浸かるとちょっときゅうくつだ。
お互いの体が密着する。
「こないだツヨシ兄さんに教わったんだ」
「なんだそうか。俺も以前、兄さんから聞いたんだよ」
「じゃあ、この泡は何なの?」
モモコがハヤトとキイロにたずねた。
「それはお湯の中に元々とけていた空気だよ。そっとしておいてあげれば、空気はそのままお湯にとけていられたんだ。でも、俺たちが入ってお湯をかき回してしまった。いろいろ刺激されて、もうとけていられなくなり、空気の状態にもどって体にくっついたんだ」
「へえーー、ハヤト兄さんもなかなか詳しいね」
キイロがちょっと尊敬の眼差しで兄を見る。
「たまたま、こないだ高校の理科で習ったんだよ。過飽和っていうんだ」
「過飽和?」
キイロが聞き返した。
「聞いたことある。かほうは、寝て待てってやつ?」
ほのぼのしたモモコの言葉に、兄姉は笑った。