40.甘えんぼ
「今日は兄さんと一緒に寝る」
マンガ原稿の仕上がった深夜。
アオイ(大1)がツヨシ(大2)に言った。
ツヨシと2人の時は、アオイはツヨシによく甘える。
普段は10人の弟妹たちの長女として頑張っているアオイ。
その反動で、無性に自分も甘えたくなる時があるのだ。
両親の居ない志武兄弟。
次女のアカネ(高2)には、上に兄ツヨシと姉アオイの2人が居る。
それが父親代わり、母親代わりだ。
一方、アオイにとっては、上は兄のツヨシ1人。
ツヨシがアオイにとっての父であり母なのだ。
ツヨシもそれがよく分かっているので、アオイが甘えてくる事を十分受け入れていた。
一方、ツヨシにはもう上が居ないのだが、そのあたり、ツヨシはもう大丈夫だった。
上の子の方が、両親と共に過ごした時間が長い。
その分、精神も安定しているのである。
「分かった。じゃあ、歯みがいてこい」
小さい子に言うようにツヨシがアオイに言った。
「はーい」
アオイもまた、小さい子のように洗面所に向かった。
「じゃあ、明日も早いからもう寝るぞ」
布団の中で頭をよしよししてやりながらツヨシが言った。
「何かお話しして」
アオイが甘えた声で言った。
「そうだなあ。それじゃあ……」
ツヨシはいつもその場で即興の短い物語を作ってアオイに聞かせてやる。
それを聞いている内に、アオイはすやすやと眠ってしまうのであった。