36.アニキって呼ぶね
ハヤト(高1)、キイロ(中2)、コウジ(中1)で入浴中。
「僕、思うんだけどさあ」
「なんだ?」
「どうしたの?」
コウジの問いにハヤトとキイロが答えた。
「アニメとかマンガとかドラマとかでさあ、よく兄さん姉さんの事をアニキ、アネキって呼ぶじゃん」
「ああ、確かに」
「あるわね、そういうの」
「でも実際に、兄さんや姉さんの事をアニキとかアネキって呼んでいる人、僕の周りにいないんだけど、本当にそんな人いるのかな?」
「ああ、確かに」
「見ないわね、そういう人」
「実際、兄さんの事いまさらアニキなんて呼べないよ。違和感ありまくり」
と、ツヨシの事を指してハヤトが言えば、
「そうだよね、アオイアネキとかアカネアネキとか……、やたら『ア』が多くて呼びにくい」
と、キイロも応じる。
「うちの兄弟の場合、小さい頃『兄ちゃん、姉ちゃん』と呼んでいたのが大きくなってからは『兄さん、姉さん』に変わったぐらいだよね。『アニキ、アネキ』は、何というか変化のハードルが高すぎる」
そういうコウジに、キイロが言った。
「でもさあ、1回ぐらい呼んでみて」
「え?」
「アネキって」
「ええ、言うのーー?」
急にキイロからふられてコウジは戸惑った。
「何だか、恥ずかしいよ」
「いいじゃん、呼んでみてよ」
「じゃあ、その……キイロアネキ」
コウジの言葉の最後の方は小声になってしまった。
「え、聞こえなかったよ。もう1回」
「えー、そのー……、キイロアネキ!」
「はい」
「一応返事するんだ」
「だって一応呼ばれたから」
「で、どんな感じ?」
「へへ、呼ばれた方も何だか恥ずかしかった」
「なに、2人で恥ずかしがり合ってるんだよ」
姉弟で恥ずかしがっているキイロとコウジに、ハヤトがツッコミを入れた。
「じゃあ、ハヤト兄さんも呼んであげるね」
「おう、呼んでくれ」
キイロに言われてハヤトが応じた。
キイロとコウジが声をそろえて言った
「ハヤトアニキ!」
「おう、なんだ」
一瞬の間。
「あれ? 何だか……」
「けっこうハヤト兄さんには、アニキって呼び方が合うかも」
キイロとコウジは顔を見合わせた。
「言われた俺も何となくそう感じたぞ」
ハヤトも同意した。
そんなわけで、ハヤトはこれ以来、弟妹たちから時々アニキと呼ばれるようになったのである。