34.円満の秘訣は心得てるよ
志武家の小学生は4人組で服を選んでいた。
ミドリ(小5)が、ヒロシ(小4)、モモコ(小2)、タダシ(小1)を引き連れて服を買っている。
「ヒロシ、このシャツどう?」
ミドリが男児用のシャツを1枚指してヒロシに聞いた。
「いいんじゃないか」
ヒロシが答えた。
「やっぱりこっちがいい?」
「それもいいんじゃないか」
「それとも、こっちかな?」
「どれでもいいんじゃないか」
「ちょっと、どれでもいいとは何よ。ちゃんと真剣に選んで」
「やだなあミドリ姉ちゃん違うよ。姉ちゃんが僕のために選んでくれた服なら、どれだって喜んで着るという意味じゃないか」
「なんだそうなの、それならそうと言ってよね」
ミドリは再び上機嫌で服を選び始めた。
さすがに姉妹が6人もいると、志武家の男性陣は女心を損ねない対応を心得ているのだ。
小2のモモコもちゃんと姉ぶりを発揮して小1のタダシの服を選んでいた。
「じゃあ、タダシはこれね」
「うん」
「でも、やっぱこれ」
「うん」
「いや、ちがうなーー、こっちじゃなくてこれ」
「うん」
「タダシ。うんうんばっかりで、自分の意見は無いの?」
意見を言ったって、結局お姉ちゃんが決めちゃうじゃんか――などとは言わないのが姉弟円満の秘訣だ。
「うーん、これにしよーかなー」
と、一応は言ってみる。
「え、これがいいの? いや、タダシにはこっちの方が似合うわよ」
「うん」
タダシもこれ以上は何も言わない。
服売り場より、おもちゃ売り場に早く行きたいから、モモコが選び終わるのを、時々会話に応じながら待っているのだ。