336.バースデーバトル2
学校の廊下の隅っこで、石森ミカエル(小5)は、どう誘うべきか、頭の中で何度も考え直していた。
「志武さん、実は今度の日曜日、僕の誕生会をやるんだけど……、良かったら来てくれないかな。あ、もちろん、他の人たちも何人か呼んいるから、その中の1人としてだけど……」
――いや、駄目だ。
これではミドリの優先順位が低いみたいだ。
それに以前、苗字じゃなくて名前で呼んでくれと言われていた(第110話参照)。
ここは、名前で呼ぶべきだ。
「ミドリさん、今度の日曜日の僕の誕生会、ぜひ君に来てほしいんだ」
――う~む、これだと、告白だと思われはしないだろうか。
それに、「ミドリさん」と呼んでいるところを他のクラスメートに見られたら、絶対に冷かされる。
誕生会に招くというよりは、ケーキを食べに来ないかという誘い方の方がハードルが低いのではないだろうか。
女の子はたいていケーキが好きなはずだ。
こう言ってみよう。
「美味しい誕生日ケーキを用意しようと思うんだ。ミドリさん、ケーキ好き?」
すると、返事があった。
「うん、好きだよ」
ミカエルの目の前にミドリがいた。
なんと、ミカエルは実際に声に出して言ってしまっていたらしい。
そこへたまたまミドリが通りかかったのである。
「わ、わ、わ、志武さん、いや、ミドリさん。どうしてここに?」
あわてふためくミカエル。
「どうしても何も……。ここ廊下だし、普通にみんな通るでしょ」
「いや、うん、そうだよね。うん、廊下だった。普通だよね、うん、うん……」
「ねえ、ミカエル君」
ミドリは、「石森君」ではなく、自然に「ミカエル君」と呼んだ。
「い、YES!」
苗字はなく、名前で呼ばれてミカエルは声が裏返ってしまった。
名前で呼ばれる事は、親しさの度合いが強い事を表す。
「そのケーキってさ、どこで買うのかな?」
「え、ケ、ケーキ? た、多分、Mammyが佐倉さんのお店チェリーブロッサムで買うと思うよ。うち、いつもそこで買ってるから……」
「ミカエル君のおうちでは、あの噂の事、気にしてない?」
「うわさ? ああ、ケーキ食べた人が体調崩すってやつ? 気にしてないさ。だって検査して、ケーキに何も原因無いって事わかったわけでしょ。チェリーブロッサムを避ける理由が無いってMammy言ってたし、僕もそう思う」
「よかった、ありがとう! ぜひ、行くね」
ミドリはミカエルの手を取った。
「Oh!!」
ミカエルは、またしても天にも昇る幸福感に包まれたのであった。