335.バースデーバトル1
今日のおやつは奮発してケーキ!
――という事で、ミドリ(小5)は弟のタダシ(小1)と一緒に、店に向かって歩いていた。
「タダシ、お店のポイントカード持ってきた?」
「うん、ちゃんと持ってるよ、ホラ」
タダシは右手に持っているポイントカードをミドリに見せた。
「タダシ、前に『ポイントカードはおもちですか?』って聞かれて、食べ物のお餅と間違えちゃったのよね」(第134話参照)
「ねえね、もうそれは言わないでよ」
タダシは頭をかいた。
パン・洋菓子店「チェリーブロッサム」。
タダシが以前、
「ポイントカードはお持ちですか?」
と聞かれたのを
「ポイントカードはお餅ですか?」と聞かれたのかと間違えた店だ。
ドアを開けると、カランカランとベルが鳴った。
「はーい」
店の奥から出てきたのは小学生の女の子。
「あ、ミドリ」
「ジュン。そっか、ここジュンのお店だったんだ」
店の奥から出てきた少女の名は佐倉ジュン。
ミドリと同じ小学5年生、同級生だ。
以前、スーパー銭湯で会った事もある(第18話参照)。
「ジュンがお店番? 手伝ってるんだ。えらいね」
「うん……、ちょっとパパもママも具合あんまよくなくて……」
「え? 病気なの?」
「病気っていうか……、心労ね」
「心労?」
「ミドリも聞いた事あるでしょ、うちのケーキの噂」
「ああ……」
ミドリの住む町内では、多くの住民がこのチェリーブロッサムでパンやケーキを買う。
ところが、チェリーブロッサムで誕生日ケーキを買った家は、皆、体調を崩すという出来事が相次いだのである。
ミドリの学級にも、体調を崩したクラスメートが何人か居た。
原因は不明。
保健所の調査が入ったが病原菌などは検出されなかったので食中毒の類ではない。
しかし、ケーキを食べて体調を崩したのではたまらない。
徐々にチェリーブロッサムから客足は遠のき、ジュンの両親は心労で具合を悪くしてしまったのである。
「ミドリはいいの? ウチでケーキ買ってくれて……」
「とーぜん! ウチの兄弟達はみんなチェリーブロッサムのケーキ大好きだもん。ショートケーキ12個貰うね」
「ありがとう」
ジュンの前に小さな手がポイントカードを差し出した。
「はい、ポイントカードおもちですよ」
タダシだった。
「あ、ミドリの弟さんね。ポイントカード持ってくれてるんだ。いつもありがとう」
ジュンはポイントカードを受け取り、スタンプを押してタダシに返した。
「あ、ねえね、あと1個でスタンプが全部たまるよ」
「スタンプが全部たまったら、お好きなショートケーキを1個プレゼントします」
「やった、ねえね! 今度来る時は、ケーキ代が11個分で済むね!」
ジュンの言葉に、タダシが大喜びする。
「もうやだ、タダシったら恥ずかしい」
タダシとミドリのやり取りにジュンが笑顔になった。