324.ボンバーマスク6
人間業ではない!
さすがのベテラン、ホエール鯨井も内心青ざめた。
鉄柱すらひん曲げる、あんなタックルをまともにくらったら、全身の骨がばらばらになってしまうだろう。
クラッシュゴーストについては、ロボットだとか、地獄から来た本物の幽霊だとか、いろいろな噂が流されていた。
それを信じるホエール鯨井ではなかったが、このままでは、これまで病院送りにされたブラストジャパン所属の他のレスラーたちと同じ事になってしまう。
だがしかし――。
内心青ざめたとはいえ、その動揺を顔に出すわけにはいかない。
ホエール鯨井は、自身を奮い立たせ、あくまで表面上は余裕の表情を見せた。
そのホエール鯨井の様子も、かなり無理してのものである事は、アリーナの観客達も感じ取っていた。
客席はざわざわと騒然とし始め、会場は異様な雰囲気となってきていた。
クラッシュゴーストが、右拳を振り上げ、ホエール鯨井に殴りかかってきた。
このままではホエール鯨井の脳天に直撃となる。
頭部へのパンチはプロレスにおいては反則とされているが、クラッシュゴーストはそんなルールなどおかまい無しの様相だ。
ホエール鯨井は、パンチを受けずにかわした。
通常の試合であれば、あえてパンチを頭部にくらってみせ、負けずに反撃したり、真剣白刃取りのように受け止めたりするところである。
その方が試合が盛り上がり、観客ウケもいい。
だが先述したように、今は試合内容にこだわっている時ではないのだ。
ホエール鯨井は、前転してクラッシュゴーストの脇をすり抜けると背後へと回った。
そこから立ち上がって素早く構え、クラッシュゴーストの後頭部へ渾身の蹴りを炸裂させた。
一発で相手を失神させる危険な攻撃だ。
ホエール鯨井もこれまでの試合で使った事はない。
だが、やむをえない事だった。
これでクラッシュゴーストをノックアウトすれば、大手を振って契約を解除できる。
失神させても、命まで奪う事はないだろうとの計算がホエール鯨井にもあった。
だがしかし――。
クラッシュゴーストは微動だにしなかったのだ。
飛鳥竜太郎が、ツヨシたちに語った通りだった。
どんなに攻撃しても、一切ダメージを与えられない。
今度は実際にホエール鯨井の顔が青ざめた。
やはりクラッシュゴーストはバケモノなのだ。
クラッシュゴーストは振り向き様、右手の平を突き出すようにしてホエール鯨井の眉間に叩き込んだ。
掌底攻撃だ。