317.ザンビリオン決着
2発のホーミングミサイルは、挟み撃ちでついにガイチュラに命中した。
「当たったわ! 兄さん、ハヤト君!!」
ザンビリオンマリンフォームのメインパイロット、坂野マリが歓声を上げた。
「よし、マリ。続けて射つんだ!」
兄のリョウが、間髪入れない追撃を促す。
「いや、先輩たち、待ってください」
ミサイル命中直後の爆煙で、ガイチュラにどの程度のダメージを与えられたのか、肉眼では確認できない。
索敵担当パイロットのハヤトは、レーダースクリーンを見た。
なんと――、ガイチュラを表す光点が消失していた。
「レーダーに反応無し! ガイチュラ確認できません」
ハヤトの報告に、リョウが叫ぶ。
「なんだと? 逃げたというのか!」
ハヤトは、アカネと共有している“能力”を使い、爆煙の中を透視した。
ガイチュラの体はばらばらになって海底に飛散していた。
その一つ一つが潰されたようにひしゃげている。
「これは……」
言いかけたハヤトに、耳の中にいるアカネからの声が聞こえてきた。
「――そう。ミサイル命中のタイミングで、外にいるアオ姉、キイロ、ヒロシが“力”を使って倒したんだわ。恐らく、ヒロシが水圧で押しつぶしたんじゃないかしら」
「当ったりーー」
アカネの声に答えたのはヒロシの声だった。
アカネは振り向いた。
外にいたはずの、アオイ、キイロ、ヒロシが戻ってきていた。
3人ともびしょびしょだった。
「ずぶ濡れじゃん、どうしたの?」
「モモコ、説明は後でする。モモコの力で温めてくれよ。さみ~~」
「いいけど……」
モモコはその場にあぐらをかいて座ると、両手を前に伸ばし、手の平を上に向けた。
両手の平に炎がともる。
焚き火に群がるように、モモコの周りに、アオイ、キイロ、ヒロシが集まった。
「テレポートのタイミングが、一瞬遅れたかな? ――そんでもって空気ボールを破って流れ込んできた海水もろにかぶっちゃって」
キイロが断片的に説明するが、他の兄弟姉妹たちには何の事かよく分からなかった。
「ミサイル命中前にテレポートしちゃううわけにいかなかったしね。ミサイルが命中したのを見届け、ヒロシが力を発揮したのを見届け、それからテレポートだから、しょうがないわよ。でも、キイロもヒロシもよくやったわ」
アオイが弟妹2人をねぎらった。
もちろん、自分の耳の中でかわされたこのやり取りを、ハヤトも聞いていた。
「先輩たち、どうやらミサイルが思いのほか効いたようです。ガイチュラをやっつけましたよ」
ガイチュラを殲滅し、ザンビリオンは何とか坂野ロボット研究所まで帰還する事ができた。
燃料がぎりぎり足りたのだ。
リョウ、マリ、ハヤトら3人のパイロットたちにも怪我は無かった。
ハヤトの耳の中にいた11人の志武兄弟姉妹たちは、普通サイズに戻り、研究所の屋上にテレポートで帰ってきた。
どの所員もザンビリオンとガイチュラの戦いに気を取られていたので、志武兄弟姉妹たちが一時居なくなっていた事に気付いた者はいなかった。
もちろん、ザンビリオンの勝利に彼らが貢献していた事も、誰も知る由は無かった。